ミツケタ
>>スキル、精霊術/次元転移
すんなりと想像する場所へ転移が行われた。座標などは必要なく、私が意識した場所へ移動することが出来た。科学的な手法ではな概念に近い現象だ。使用される私の位階である魔力も相応に消費された。
魔力と言う現象に適応し、解析することが出来れば私のコアにあるエネルギーでも代用が可能だろう。今しばらく時間がかかるな。
魔導、エデン世界にいる私に、情報や概念を伝え、研究者向きである元公爵令嬢のシャリウや、クリス女史にも分析や技術開発をお願いしている。私にはない視点や発想力が必要になる。
三度目の次元移動ともなれば私のコア同士のつながりもより強固となっており、再現性は高い、この世界の理がコアに馴染めば馴染む程、発現させることが出来る。インベントリや精霊術/次元転移は、クリス女史が発狂しそうなほど喜びそうだな。異星体の次元跳躍技術は、解析が進んでおらずやきもきしていたとの事。
いづれ自意識が芽生えるとお共として精霊を使役できるが、私はコアに取り込む算段だ。芽生える前に取り込んでしまえば罪悪感などない。
この世界の神も、精霊たる存在が長い年月をかけて、神へを昇華したという設定ではあるが、目障りな神を二、三体吸収してしまおうかと企んでもいる。
最優先候補は光陣営の女神だな、震えて待つといい。
実験をあらかた済ませると、ベッドシーツを纏い全裸のムジュルが声を掛けてきた。まあ、昨夜は酒をしこたま飲んでいい気分いなっていたからな。うん。
「もう、実験は終わったかの? ならば相手してたもれ。我のような美女神を放っておくとは隅におけないじゃ」
忘れられている期間が長すぎたのか、寂しがり屋の甘えたがりと化したムジュル。もうドロドロのベタベタに、甘えてきたとだけ言っておこう。
「まったく。どれだけの寂しがり屋なんだか。紅茶を入れてやるから少し待て、その後にゆっくりと過ごすのも悪くないだろう? 寿司を食べにでも連れて行ってやるから」
「ほんとかの!? ほれ、はよせい! 準備するのじゃ」
「あほう。ゆっくりしてからと言っただろうが。情緒というものがないのか?」
「それはそれ、これはこれじゃ。それにはよう味わっておかないと大規模作戦が始まるのじゃろう? 国連とやらが特殊部隊を組んでおるらしいからのう」
「ああ、格闘戦や銃器の扱いに長けた奴らが、レイドを組んでやって来るぞ。それに合わせて襲撃を行う。そのためにこの前モンスターの死霊化を、行っていたんだがな」
「死霊化か、悍ましい魔術だったのじゃが、今では頼もしいかぎりじゃ。お主の権能も死霊術に関するものだしの。それと悪魔の王に就任おめでたじゃ。その角、カチョイイぞ?」
ついこの前に悪魔らしい角や尻尾が生えてきた。刺々しく振れれば肉が抉れるな。もちろん物質的な存在じゃない為、意思一つで収納が可能だ。
これは死の権能を獲得したデメリットとして享受しよう。死霊化に魂の収奪。あとは暗黒のオーラなどが放てる。デバフ効果だな。
ここまで禍々しくしなくてもいいじゃないかと思う。髑髏でも被ってやろうか。
そういえばスケルトンナイトのニックも、私に引きずられ、悪魔の骸骨騎士に進化してガイコツさんと呼べないぐらい、カッコ良くなっていた。もうニックは、ニックさんと呼ばなければ。黒光りする角の生えた暗黒鎧のスケルトンって字面だけでも最高だな。
◇
『国連より、ムジュルユグゥの討伐作戦の日時が正式に発表されました。現在、各国の特殊部隊が選出され、スピリットファンタジア内での合同訓練が行われているようです。ギルドと言う、ゲーム内の軍団への討伐部隊の募集を、広く募っており。討伐の成功、もしくは補給部隊など登録を行い参加すると、報奨金の支払いも検討している模様です。現在でも、ムジュルユグゥ、シィーン・トゥ容疑者の犯行宣言より、世界的な混乱は収まっておりません。みなさま、情報に惑わされずに冷静に行動を心がけるようお願いいたします』
『日本政府与党各幹部が、十名以上も議員辞職を行いました。ネットワークに流出した情報が原因とみており、引き続き容疑を固めて行くと警視庁からの報告で分かりました』
『株価市場の混乱は未だ続いており、取引の再会の目途が立っておりません。ハッキングされた、市場に対する信用の問題が浮き彫りになっており。停止するまでのわずかな間、日本円の下落は戦後最大となっております』
『大規模なハッキングによる、関連死者数は三十万人を越えており、個人の犯行による死者数としては、世界最大規模での殺人者として、国連が批判声明を発表しております』
ムジュルとの寿司会食が終わった後、他国へと飛び、裏組織の人間の魂を収奪したり、インベントリに人間が入るかの実験と。私個人が開発した位相をずらした倉庫と、量子化による収納を試していた。
位相変化による倉庫はもちろん即死で、ちょっとした確認程度だったが。量子化した後に、再生しようとしても、ブランクだけが抜け出してしまい。死んでしまっていた。もちろんブランクを入れれば生き返るが、感情マップが霧散してしまい元に戻らなくなっていた。
そのあたりも実験していかねばならないな。ブランクを稼ぐついでに、世界の数千人程、悪人がいなくなっているので、少しは平和になるだろう。
死の権能で、死にかけの人間や、悪業や本質がドス黒い魂が、見えたりするのだが、だからといって犯罪者と言うわけでもなく、淀みみたいなものだろうと、とりあえずは思っている。悪などは、人間が生み出した価値観であり。殺しを悪とするのならば家畜や食物を食べている者も悪となる。
この辺りは論争が起きそうだが、死の権能自体、人間の集合知が生み出した概念だから、どこまで正確な判断ができるかは怪しいかな。この権能の機能は、“人間的倫理観”に伴い悪と判断とした、で正解かな。
便利な、ろ過装置と思っておこう。
現在、ムジュルとは別行動をしている。彼女は霊脈が最大規模の土地に拠点を構えるべく作業をしている。ウキウキで地球の城を参考にして、巨大な居城を建築している。もちろん戦いやすいように戦場の整備もだ。
魂の収奪に慣れた私は、スピリットファンタジアの世界へとログインする。
神の総数は三桁に及ぶとも言われている、確かに石碑には、様々な神の名前が記されていた。種族の神や概念の神。武具や防具、魔術の神なんてのもいた。私が今探している神とは――
――ミツケタ。
ガチャで当たった隠遁の装備を身に纏い、迷彩魔導を発動させながら、各大陸の街の石碑を一つ一つ確認していたんだ。それぞれ、地域によって奉る神が変わっており、結びつきと信仰の度合いによって変わるようだ。辺境が狩猟の神だったり、学術都市が魔術の神や学問の神であったり。
そして辺りを付けていた。聖都アーク。そこにある神殿の石碑が、目標に繋がる“運命の神”への道筋であった。
>>死の権能/魂の簒奪
ぎぃあぁぁぁあぁぁぁっ! と、神殿内に叫び声が響き渡る。
祭られていた女神像は崩れ落ち、聖都は闇に包まれる。
私が運命を司る神の権能を簒奪したからだ。
掌の中には、可視化された闇の檻の中に、小さな光の玉が浮かんでいる。
こいつが運命の神、えっと名前なんだっけ? クソビッチでいいか。
まだ死なれるとまずいので、背中にあるバックへと収納する。
おっと、神殿騎士のようなもの達がわんさかやって来たな。
>>スキル、毒魔術/焼け付く肺、死霊術/死霊召喚。
周囲に息をするだけで肺を焼く物理的な酸の霧と、ゾンビを数百体召喚する。
――そして。
>>死の権能/冒涜されし存在
霊脈付近で、魂を簒奪した遺骸を操り人形にして聖都を蹂躙させる。
デヴィルスケルトンナイトのニックには神殿騎士を攻撃してもらおう。
私も死霊術ではなく技術力を上げるために殺しておきたい。
神殿の外で召喚された、毒と呪いに塗れた大型異形種は、逃げ惑う人々に体が溶け落ちる酸を吐き出し、住宅や商館などをブレスで焼き尽くし、巨体から振るわれる鋭い爪で引き裂き、死をまき散らしていく。
素早く地を蹴り、古代の槍で鎧の隙間を突いていく。位階の上昇と、権能を獲得したことにより動きが鋭くなっている。権能の方が効果が大きいが。
意匠の立派な人物が責任者か団長クラスなのだろう、敵意を感知され盾で受け流された。ギャリィ、と金属の粉が舞い、火花が飛び散る。
――キサマかッ!
私と視線が合うなり、元凶と判断したのだろう、強い恨みのような言葉を幻視した気がする。
鎧の隙間を狙いヒュカッ、と槍を突く音が周囲に響くも、肉を突く感触も血煙も舞わない。――楽しいじゃないか。
槍の穂先をクルリと回転させ気持ちを切り替える、構えは戦いの中で編み出した我流だが、殺してきた戦士たちの型など参考にしている。彼らは私に力及ばずも、技量が高い者はざらにいる。
ジリジリと互いに間合いを取り合っていると、高速の剣撃による突きが繰り出された。半身に交わすと左手に隠されていた魔導銃が、至近距離で私に撃ち込まれた。慌てて障壁を展開し難を逃れたが、してやられたな。
相手は当たれば儲けもの程度に。思っていたようだが肝を冷やしたぞ。
――やるなあ。
手段を選ばなければすぐにでも殺すことはできる、だがこの死線を乗り越えなければ私に成長はない。
槍の穂先を敵である彼に狙いを定め、全身の力を抜き、ゆるりと槍を持った。槍の石突付近を右手で握りしめ、左手は添えるだけ。
相手は私から視線を外さない。視線の交わる先に火花が飛び散る。
外の建物が爆発した音を合図に、脱力して溜めを作っていた力を一気に地へと解放する。前方を目掛けて弾丸のように突き進む。それと同時に彼は剣を両手で握りしめ、袈裟切りの体勢に入っていた。
音を置き去りにした槍の突きは、首を半ば程切り裂き、血飛沫を上げている。だが殺しきれていない。一方、袈裟切りを回避したつもりが、かなり深く体を切り裂かれている。コアに届いてはいないが、神と精霊に祝福された、最上位の聖なる剣と、彼の技量が合わさった素晴らしい剣技だった。
すぐさま、私の身体は自己修復され血すら零していない。彼の命はあと僅かあろう。――惜しいな。
そう思ってしまった。
また相まみえたいなどと思ってしまった。私に傷を付けかねないのにだ。
倒れ伏す彼に所持していた上級の回復薬を振り掛ける。意識を失ってはいるが、いずれ目を覚ますだろう。血に塗れた鎧を脱がして、剣も解析を始める。
胸元に撒かれた包帯を見て、怪我をしているのかと確認すると。
ふにゅん、とした感触が。
――ああ、すまない。すまなかった。
「女、だと…………」
ボブカット程度に切られた金髪と、凛々しく綺麗な顔は、美形の男にも見えくもないが、さらしを巻かれた胸が窮屈そうに主張していた。




