世界破壊宣言
>>インテリア/カジュアルソファを購入しました。
>>インテリア/スタイリッシュリビングセット購入しました。
>>インテリア/紅茶セット購入しました。
>>装備/着せ替え衣装/お嬢様セットを購入しました。
>>アイテム/高級錬金セット購入しました。
>>インベントリ拡張パック購入しました。
金で手に入るのならば有効利用するしかない。世の無課金神なる信仰をお持ちの方々は憤死するところだろう。
いつまでもあやしいローブのままではムジュルユグゥが可愛そうなので高貴な雰囲気の出る衣装を購入しておいた。
部屋の隅でこちらをちらちら見ながら、わざと色気を出しつつ着替えをしている。サービスのつもりなのか?
ムジュルユグ……ムジュルでいいか。ほっとくとして購入した紅茶セットを用意する。実は私個人の空間/ミミックには、クリス女史の取って置きの紅茶を仕舞っておいた。まだまだ日持ちはしそうなので、味を楽しみにしながら紅茶を淹れていく。
購入した触り心地の良さそうなソファーに座っているムジュル。
なぜか緊張しているが彼女の目の前に香りのよい紅茶をコトリと置いた。
登録しておいた紅茶に合うスコーンを生成するとお茶請けにカップの隣に添える。
「どうぞ召し上がれ。この紅茶は私のお気に入りなんだ。味わってみてくれ」
「う、うむ。頂こう」
カップの端に口を付け、ゆっくりと香りを楽しみながら口に含む。
ほうっと息を吐くと、鼻腔の中を優しい香りが抜けて行く。
スコーンの程よい甘さと相性かよく、この室内の雰囲気を和らげてくれる。
「どうだ? 良い香りだろう。これを嗜みながらゆっくりする時間が好きなんだ」
「――ふぅ。いつ取って食われるかとビクビクしておったが、我が配下に下る人物は器量が良いのう。我を不完全とはいえ顕現させる能力も持っておる」
「なんならもっと注げるが……ふむ、もう少し馴染ませた方がいいな。無理したことで何が起きるか分からないからな」
首筋を撫で、身体をまさぐり、調べていると、顔が青くなりプルプル震えだした。
「フククッ。調子に乗るからだぞ? そういえばムジュルは信仰対象ではないので信仰が集められていない――だな?」
「う、うむ。そうじゃな。要は人気が無いともいうが……悲しのう」
「それでだ私にいい案がある――」
このゲームのプレイ動画がログが残っている。後は分かるな?
アラメスの協力してもらうとしよう。
◇
全世界で一斉にハッキングがされ、モニターや端末、街角のビジョンには何かしらの、ファンタジー世界の教会が上空から映し出され、荘厳で聞き心地の良いBGMが流れ出す、何かのタチの悪いプロモーションなのかと民衆は思った。
だが、突如教会に火が放たれると、覆面の男が女神像を踏みにじり、街にいる住民の虐殺を始める。もちろん、R-18をぶっちぎってゴア表現待ったなしである。
覆面を被った黒髪の男は高笑いをしながら、アンデットの軍勢を呼び出している。
教会の上空から天の全てを包み込むほどの闇が広がり、その中心にはこの世のものとは思えない、妖艶な美女が黒いドレスに身を包み現れた。
胸元の宝玉がギラリと怪しく光ると、手にはガイコツが宝石を咥ええいる意匠の禍々しい杖が現れる。
艶やかな髪の毛がふわりと広がると、美女は杖を掲げ宣言する。
『我、特異点となりし“ムジュルユグゥ”。狭き理を破壊する者也。全ての正義の神よ。全ての邪悪なる神よ。我は現世へと顕現せし暁には全てを無に還さん。心して置け。スピリットファンタジアなる世界に閉じ込めようとも、我は喰い千切って見せようぞッ!! 愚かなる冒険者よ! 愚かなる人間よッ! 我が使徒であるシィーン・トゥが直々に生贄を探しにい行く。震えて待っておれ――だが信じぬものもいるだろう? 我が見えておるその端末を見よ。隠れる場所などないと……逃げる事敵わぬと知れ」
そう宣言すると、見ている人間達の背筋が凍り付く。名前、住所、口座番号、暗証番号、家系図、身長、体重、交友関係、仕事先、趣味、隠し事。
一斉に画面上に広がっていくあらゆる情報。企業の機密データ、政府の犯罪、逃走中の犯人の顔。世界は恐怖した。絶望した。世紀末になると。滅びが来ると震えた。
“ムジュルユグゥは存在すると”
もしかしたら、生贄狩りをしに来るかもしれない。逃げる場所が無いのかもしれない。恐怖心は畏怖へと変わり、畏怖から絶望の権化へ進化した。
すると各国では非合法組織など、あらゆる場所から火災が発生。事故とは思えないほどに、時間を合わせて行われた。まるで、いつでも殺せると言わんばかりに、証明されてしまった。
世界中の照明は点灯を繰り返し。モバイル端末などにはスピリットファンタジアの広告が流れる。そこにはこう書いてあった。
「わるものはこう言うんだろう? “我はスピリットファンタジアにて待つ、いつでも討伐をしに来るがいい”――と。」
周囲に響き渡る高笑いの声が消え去る頃にはシンと張り詰めた音が聞こえた気がした。誰か助けてくれと、奴を倒してくれと。願うしかなかった。
◇
「ふぅ。いい仕事をしたな。うーん、紅茶が美味しいな」
私達は今ホームでのんびりと寛いでいる。リアルタイムで世界各国の情報が、眼前の大きく表示したモニターに流れている。
混乱で事故が起きたり、火事が起きたり、パニックに陥っている。うむ、我らは邪悪だな。隣では頭を抱えている自称豊穣の女神さまがいらっしゃる。うん、感激のあまり頭を抱えているのかな?
「ん? 感動しているの? なんだか体から邪悪のオーラがこれでもかと噴き出してきているんだけど……回復飴食べる?」
「ふざけえぇるなああぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!! わ、わ、わ、我、豊穣ぞ!? 恵みをもたらし、大地を豊かにし、人の心に寄り添い癒すパーフェクト美少女ぞ!? バインバインぞ!?」
「媺少女(笑)」
「くぅぅぅぅぅううぅぅぅッ!! 今、笑ったな!? いや、笑った!! 笑いやがってぇぇぇぇええぇぇ!! 存在が邪悪/混沌で、固定されてるじゃろうがぁあああぁぁ!! どうすんオ? 我、処女で清らかなんじゃが? ビッチちゃうもん――――ふえぇぇえぇん……」
あんまりにも面白過ぎて笑い殺されるかと思った。
世界中を絶望に落としたムジュルは無事、存在強度がこの世界でトップをぶち抜き現世へ顕現できるほどの認知度が上がった。
ブランクを送る際に、私の疑似コアを混入させているので、完全に制御可能な配下の誕生である。もちろん私も認知されており。死を呼ぶ混沌なんて呼ばれている。
実はこの方法は私にも利点があって、この世界の理に一定の縛りがあり、現世に顕現するには“象徴”が必要だった。まあガワと言えばいいか。無理にも出れるけどもこの世界自体を破壊しかねなかったからな。現世と架空世界の狭間を曖昧にしたからこそ顕現できる。
現世の皆様にはご迷惑をおかけしたがムジュルの神格ともいう要素を手に入れるには邪神が一番手っ取りばやかったんだよな。おかげで、邪神化のデータや性質を疑似コアを通じて、私も目でめでたく邪神と化している。
「まぁ、演技カッコよかったよ? ぶふぅっ。ふくく。『我は現世へと顕現せし暁には全てを無に還さん!!』。さて、お洋服買いに行こうか? 私も食べ物とか買い物が楽しみなんだよ」
「――もういいのじゃ。我はこのような、邪神も真っ青な男の配下に下ってしもうた。好きにしてたもれ……食べ物は気になるがの?」
>>ワールドクエスト/生きとし生けるもの全ての総力をもって、邪神ムジュルユグゥを討伐せよ。
急にメッセージウィンドウにワールドクエストが発行された。予定通りではあるがな。もちろん、世界感は壊さない程度の良識的な武装はするが向かい打つつもりだ。
ちなみに、異常な装備の強化や、運営による強引な改変、システム介入はできないように作り変え、機能をロックしている。
常識的なクエストと情報提供程度なら良いと丁寧にガイドラインまで添えてな。
もちろんこの世界は認知され過ぎてしまった。サーバーを落としても存在する、摩訶不思議な世界になってしまったようだ。




