女神への報復
陰気臭い墓場の墓標をずらすと地下拠点が存在し、神の祈りを捧げてはいないがリスポーン地点の登録をすることが出来た。
闇の勢力の拠点を探していたが、あの町がここら一帯の最大勢力で、隠れた拠点しか存在しない。
うろうろと彷徨い探し回っていると心優しいアンデットが教えてくれたのだ。
ちなみに陽気なガイコツで憎めない奴だった。お礼にドロップしたレアアイテムの聖騎士の首飾りをプレゼントした。こんなもの持っていたら、光勢力に蛇蝎の如く嫌われるらしい。強く生きろ、ニック。
“ノンプレイヤーキャラクター”通称NPCなのだが、人が入って操作しているかのような反応を示していていた。相当な高度AIを積んでいるのかもしれない。ガイコツのいニックは冗談すら言える。
自身のホームに付いたらとりあえずアイテム整理や、ステータスとやらを確認する、確率で殺害したキャラクターのアイテムをドロップするらしい。
道具屋からもアイテムを強奪できるとは思ってもみなかったがな。その代わり兵士などに捕まるとペナルティがものすごいらしい。
アイテムを整理しているが、かなりの量がインベントリに入っていた。こんなにも私は殺したかな? と、思うも放火しまくったしなと、納得する。
火計は今後も有用と言うことだな。
そこそこの装備やアイテムは流し見をしてレア度が高いアイテムは、精霊の祝福を受けし長剣、精霊結晶、古代の聖骸布、ノクティアスの鍵、神聖第二魔導書写本、ムジュルユグゥの暗黒種子――ん?
「おい、ムジュルユグゥ。お前の種があるぞ? 食わないのか?」
しゃらん、と一度光るように返事をした、のか? 絶対意志あるよなこいつ。
「光るなら長めでイエス、短めでノー、点滅でどちらでもないだ。無視したら全力で折る――この種子は短剣に使えない、イエス。この種は特定の場所で使う、ノー。この種はプレイヤーが使用する、イエス。食べる、イエス。えぇ……まずそうなのに……そんなにピカピカ光るなよ。どうせこれって闇の眷属になるかムジュルユグゥの言い成りになるんだろ? ガイコツのニックにでも上げるよ」
信者に仕立て上げられそうになった私は短剣を無視してアイテム整理の続きを行う。雑貨も多いな、闇の拠点の街で鑑定でもやっていないだろうか? 妙にリアルチックなんだよなこの世界。ステータスも、種族と位階とスキルしか見れないし。もしかして、それって祈らないと見れないのかね。祈りたくないかな。
インベントリも限界ギリギリまでアイテムが入ってたし、売るなり使うなりしないとな。ホームのバナー広告にはインベントリ拡張パックとか販売してたな。
リアルマネーがないのだよ。装備の売却でリアルマネートレードでもできないもんかね。
あのキラキラした鎧を着た兵士を殺害したことで、異界が三十二まで上がっていたのだが平均位階が分からない。色々なネットゲームを見てきたが千レベル等ざらにあったからな。
だがこのゲームが急所が有効ならば、人間体に対する私の利点は大きい。ステータス補正でいずれ彼らも上がるだろうが動体視力、思考速度は誰にも負けないと自負している。
確かに、位階が高そうな兵士や、プレイヤーは膂力や頑強さが人間とは思えないほど強かった。ならば急所のみを攻撃が通るまで刺し貫くだけだ。
掠るだけで体力ゲージがかなり持って行かれたので、私はログインしたてであそこにいるべきではなかったのだろう。はずれのランダムポイントを押し付けられたとも言っていい。
ワールドチャットで、
>>始まりの街の拠点が破壊されました。■■■が神敵認定されました。
と、書かれており。あそこに転移させたがそこまで引っ掻きまわされるとは思わなかったのだろう。笑える。
わざわざ、そう書き込むというのならばお礼にもう二、三か所最寄りの街の教会を破壊しに行こうと思う。私は根に持つタイプなのだよ。
スキルも数個程、増やせたことだしな。
◇
「ゾンビだあぁぁぁぁあ! 逃げろ!」
>>スキル、死霊術/死霊召喚、錬金術/付与術/呪。
召喚した数十体のゾンビに感染する呪いを付与する合わせ技だ。位階の上昇で召喚時間も距離も増加した。神敵認定によるヘイト増加での補正もあるが。
比較的冒険者のいない住宅街へゾンビを解き放つ。私だけ冒険をしていないように見えるが報復が先だ。追加でガイコツのニックを炎を付与して召喚する。聖騎士の首飾りをプレゼントしたらゾンビナイトに進化してしまい、テイム扱いになってしまった。召喚することが出来るようになったのでよしとするが。
「その付与した炎で放火して来い」
「あいよぉッ! 旦那ぁ!!」
陽気なガイコツのニックは、炎をちりちりと揺らめかせながら民家に突撃していく。もしキルされてもまた召喚しなおせばいい。
「神敵のおでましだぞ。おら、早く死ね」
街の外壁から侵入し。一直線に教会へ向かって行く。
地獄の業火の後にはNPCの無残な姿しか残っていなかった。
その後、数件ほど村を焼き尽くしたところで、ワールドアナウンスが鳴った。
>>光の種族/ワールドクエストが発行されました。神敵■■■を殺害してください。
うむ、報酬がとんでもないな。全てのガチャで欲しいものが二つ手に入る確定ガチャチケットを貰えるとは。私が欲しいくらいだ。
やはり、女神像にムジュルユグゥの短剣で服を削り裸体にし、縄を縛って馬小屋に突っ込んだのがまずかったのか? それとも全ての女神像の額にクソビッチと彫った事だろうか。光の神は相当お怒りのご様子だ。
未だに私の名前が判明していないのは、飯がうまいが。
一度も名乗ったことはないし、フレンドすらいない。ぼっちではないぞ。ムジュルユグゥがいる。
生贄に捧げた数にご満悦なのか、色がやや赤黒く、殺人現場の凶器のようだ。
もっとこう、スタイリッシュに変化してくれないだろうか。
そういえばこの世界に来てからは物品の調査や解析はしていなかったな。
普通に楽しんでしまっていた。古代の槍を握らずに、銀で包み込んでいく。
プログラムとして情報が緻密に作り込まれてはいるが……これは……。信仰を受けているな。他の物品とは差があるが、全ての存在が信仰を帯びている。
ムジュルユグゥの短剣は……こいつ嫌がっているのか? 信仰のラインがどこかへと繋がっているな。
これが闇の勢力の神とやらなのか? いや、ムジュルユグゥの名前の神はいなかったな。拠点の石碑には記されていなかった。
おっと、繋がったな。甘い、逃げれると思うなよ。
『――お、お前は何者なのだッ!! そのような悍ましい物見たことも効いたこともない! 数多もの死を内包し、存在を喰らう闇、そのものではないか!!』
「ほう。良く分かったな。初めましてだなムジュルユグゥ、種子を食わせようとした事忘れてないからな――いや、食ってもいいのか? 私が全力で、いつまでかかろうとも追いかけ、完全に消滅させに行くけどな」
『すみませんでした――食べないでください』
「それでお前はどういった存在なのだ? 他の物品も信仰、思念エネルギーとも言うべきなのか?」
『我は……いえ、私は忘れられた神。かつてこの地が光と闇の勢力が争いを始める前に存在していた神です。豊穣を司る女神でした……根源を話すことは秘匿ワードに接触してしまいすべては言えませんが。実際こうして会話ができるのもいつ不正認定されるか分からないのです。信仰を帯びているのは……そうですね、この世界の冒険者の人数が桁違いなのでしょう、かつての信仰を得た神でも数万人、数十万人です』
「冒険者の信仰、感情そのものが物品や“神”すらも信仰を得ていると?」
『ええ、間違いなく冒険者の方々からの信仰を得て、存在強度が高まっているのを感じます。億に届く信仰は神と言う名の概念を得るには、存在を補填する情報に姿形が整っていれば十分可能です。私は忘れられた神ですので無形の存在へと朽ち果てましたが……あなたが名を呼び、生贄を捧げ、こうして繋がった今、過去の姿を取り戻しつつあるのですが』
「ふむ。元に戻りたいのか?」
『……はい。私の世界だったこの地を侵略した奴らが憎いです。そのためにも生贄と力が欲しい……』
「生贄は問題ないが力……かね。もし得られるたら私の配下になるかね?」
『――力が得られるのならば』
「わかった――試したことは無いが存在を補強はできる」
私に砕かれ素材と成り下がった、ブランクを少しづつ送っていく。
まずは数人分だが、どうなるのだろう。
『お、おおおお! 存在が満ちて行く。私は生きている』
「これでもほんの欠片程度なのだが……ちょっとサービスするぞ」
魂が砕けるとか、存在が消滅しないようなので一気に数百人程度のブランクを送った。ムジュルユグゥの短剣を依り代に凝縮された闇が人の形になっていく。
「ふきゃんっ! え? え? なんぞ!?」
目の前には、さすが豊穣を司る女神。メリハリが物凄い。自身が裸なのを分かっていないのだろうか? じぃっといいいるように、上も下も観察した後に、あやしいローブを掛けてあげる。
「ふぇ? きゃあっ! 裸じゃないか! 我の裸を見おったな!?」
「見たから……なんだ? どうしてくれるんだ? 聞きたいのだが」
安物の短剣をスラリと抜き放つ、シャリリリと言う音が部屋にゆっくりと響く。
「な、なんでもないでしゅ。どうぞ見て下さい」
いきなり平伏し始めたので可哀想になり、椅子に座らせる。ああ、ソファーが欲しいな。インテリアは、比較的低額の課金で購入できるとの事だからな。
それと情報がようやく掴めて来た。
ネット回線にも接続できるようになったし、偽造された戸籍と、口座も確保してきている。適当な裏の組織の口座から金を毟り取って、程々の金額を確保してきている。
これでソファーが買える。




