どうすんだコレ……
私専用に開発しデバイスに視線を向ける、滝のように流れるプログラム。
コア内に登録されてある兵装の設計図や、生成できる素材を用途別に分けている。コア内には怪物を取り込んだことにより無限機関になったとも言える。
それを引き出し適切に運用し出力装置が私だ。そのためにはこうして設計図を書いたり素材や機械を取り込んで構成やデータの解析、そしてそれを私用に改造し設計図を書くという一連の動作を行わなければならない。
取り込んだものはエネルギーや処理能力の向上に当てられるが。生物の生成……これが未だにできていない。できたとしても金属生命体であり、スペックはむしろそちらの方が高い。だがスペックの劣る人間の生成がどうしてもできないのだ。構成要素や遺伝子などもすでに解析できている。
有機物、食物や、種、天然ゴム等、作ることが出来ない。炭素の有無で作れないのならば、ダイヤモンドが作れて木材ができないというのが分からない。
“できない”“難しい”“作れない”。
ん? 炭素の最小分子から生成開始――成功した感触。結合させ炭を作る――成功。繊維状に広げる――成功。木材の大きさまで大きくする――成功!?
そういえば私は金属を生成する際にも分子や、原子の結合など考えたこともなかった――そうか、私のコアや銀は“そう在れ”と生まれた存在だ。
私が持つエネルギーを“そう在れ”と私の存在が願いを叶えていたにすぎない。
掌に私が昼食に食べたパンを創造する――できた。できてしまった。
具体的に構成素材を知らなかった為、エネルギーが相応に消費したが、確かにできてしまった。
吸収機能は最初期の頃、大変お世話になった機能だ。構成素材の解析、圧縮、分解等お世話になっている。もしかしたら魂の素材も抽出できる……と願う。環境適応は私が苦しい、悲しい、熱い、寒いなど、こうありたいと願い、適応してきた。
理解した瞬間、何かに触れた。数多もの怨嗟と嘆き、苦しみが伝わって来る。すかさず精神にフィルターを掛ける。これは、今まで吸収してきた死体や生きていた人間の苦しみか。
殺すべき人間は選んできたつもりだ。身内以外など知らぬな。
感情的エネルギーを解析、虚無へ還れ。
魂らしき構成要素の感情エネルギーが抜け、漂白された純粋な魂の構成素材/ブランクとも言うべき素材だな。念の為そのまま確保しておく。
抜け出した感情の中には記憶のマップが存在しており。これが心とも言うべきものなのだろう。まだまだ解析できていないが、できないだろうという私の願いが払拭された今、できないことはないと認識した。
――アラメス申し訳なかった、私が君の枷になっていた。君は神をも超える偉大な存在だ。数多を知り、数多を創造し、数多に生きる。私と対の存在だ。心にそう楔を打とう。
[――そう在れと願う御心のままに]
ちょっとしんみりしてしまったが食物関係でもクリス女史に相談に乗ってもらおう。浸食され不毛の大地でも木々を蘇らせることが出来そうだ。
――生体修復用のプロセスをエミュレートしていてくれ。治療に役位に立つ時が来るかもしれない。
[――了解]
◇
数か月の間、平行存在と手分けして異星体の吸収を行い強化を絶えず行ってきた。特に成層圏を抜け、宇宙空間にいた異星体はレベルが違い過ぎた。
存在強度が私とは比べ物にならなかったのだ。それなのに感情というものが欠落しているのは、私が銀の殆ど全てを持って行ってしまったからだ。
もしかしたら他の次元世界にも、私のような存在がいるかもしれない。そうだとすれば、感情なく肥大し吸収する異星体のような存在かもしれない。
異星体と辛うじてコミュニケーションのようなものを取っていると、私の事を脆弱だと認識しているらしく、進んで存在強度を上げて欲しいと、吸収の手助け迄してくれる始末だ。子が優秀過ぎて辛い。
吸収した当初から感情のようなものをコアに集めていたが、魂の存在を認知した今、解析を進めると異星体の少しだけ色づいたブランクが存在し、彼らには魂があったのだ。
お礼とも言えないがいずれ君達が望むのなら、記憶をそのままに新たな肉体を作ろう。
余りにもの異星体の数に到底処理しきれないので、アラメスが存在する本体である私が、小惑星とも言える程の大きさまでに銀を増殖させ、次から次へと異星体を還元していく。
この太陽系周辺に生息している異星体は、全てこの惑星の周辺に集結を完了していた。なかなか使わないワープまで使用するとは、どれだけ父親想いなんだと感動してしまった。ええ、脆弱ですみませんねと思念を送ると、わさわさと異星体の感情が震えていた。意外と可愛い奴らだな。
彼らの吸収した様々な機械種の武装や、他の惑星の異形生物、惑星にある最高硬度を上回る金属、ガス生命体など、大雑把に系統分けしないとそれだけで大図書館が数えきれないくらいできそうだ。
そして宇宙空間で実験を繰り返し、ようやく完成させた技術がある。
次元転移の下位互換だが空間転移技術だ。私が認知している座標の空間へ飛ぶのが通常の空間転移で、ランダムに座標に当たりを付けて飛ぶ、ランダム転移などがある。空間を扱う技術なので待望の私に紐づけられた位相をずらした空間に物を収容できる技術を開発することが出来た。存在位相をずらし紐づけただけなので時間も経過するし、液体などを入れれば大惨事だ。
だが量子化させて情報を保持していれば再び出すことが出来る。
まだ人間を量子化させて再現していないが、ろくでもない奴を使って実験せねばならないな。
前者の時間経過の空間を“ミミック”だとすれば後者は“壁の中にいる”だな。
ミミックは何もない空間だけなので活用できるが、後者は融合したり爆発したりする。爆発は押さえつけて何とかなったがかなり危なかったな。
時間の概念も解き明かせば時間停止の空間倉庫も夢じゃない。化学か概念かいずれ解き明かせるはずだ。
空間転移も原理は“割り込み”と“置換”にあたる。次元を捻じ曲げ強引に割り込むか、座標を繋ぐ道を形成し正式に入れ替えるかは、環境への影響でどちらがいいか決めるとしよう。
特に魔導世界へは座標が特定できている分、虚無を挟まなくても行けるようになりそうだ。
実は部隊も安定してきたし、平行存在もいる。宇宙圏にいる異星体も吸収が先程終了した。他の惑星に散った彼には情報を発信はしたが、いつになるかは分からないとの事。それは平行存在がいるので問題はない。
吸収できる技術も、念のため食物の解析と生体の複製の実験も行ってきた、やはりブランクが宿らなかったが、それさえあれば蘇生も可能となった。
だが人類が積み上げて来た情報をまっさらな状態で産み出しても無知な存在が生まれるだけだ、積み上げてきたものが無い為に生命の想像は間違いなく失敗する。
性格も習慣も習性も生命が積み上げて来た歴史だ。エミュレートしたものをブランクに付けて生命を生み出してもそれは唯のコピー人間だ。
愛しい恋人を失ったら考えないでもないが、私なら感情のマップも保存して体を作ってあげるな。今後どうするかは色々と私が経験しその時判断する。
倫理観は私が決める。
そろそろ他の世界へ移動するとはいえ、次元の壁を開ける作業はとても神経を使う。怪物を虚無ともに吸収する際もかなりヤバかったし今回も危険を伴うだろう。だかそれを適応させるのが私と言う概念存在だ。少しも漏らさず解析し解き明かして見せる。
周囲の星の明かりが消え、空間が歪められていく。
私はコアの周りだけを厳重に守り、存在を意思を強く持つ。
そして暗い、光を飲む空間に飲まれていき。何も感じられなくなった。
よし、意識が保てている。虚無適性は確かに獲得した感触がある。
コアの中にあるマイナスエネルギーとも言えるものを感じ取れる。
周囲は中世風の景色だ。また魔導世界に酷似した世界なのかと訝しんでいると、目の前に可愛い赤のキャスケットを被った、チェック柄のブレザーを着た女の子が急に現れた。
「ようこそっ!! 冒険者様!! この世界“スピリットファンジア”今までにない冒険や様々なドラマがあなたを待っています!! まずは初めにあなたのお名前を決めてください!!」
「あれ、日本語だな。ええと、ここはどこの町ですか?」
「あなたの名前を決めてください!」
「“シンタ”です」
なにか業務的な応答だな。感情が無いように見える。
「“シンタ”様ですね、ではフルダイブVR世界を楽しむ為にプレイ時間の設定をもう一度確認してください。ハラスメント設定も初期は有効化されておりますが、同意なし変更や意識が無い場合設定の変更ができません。この世界では通常の生理現象とリンクしており食物や睡眠の摂取で満足感は得られますがバイタルデータを確認しつつ節度を守ってプレイをお楽しみください。ではチュートリアルへどうぞ!!」
そう言い残すと別の空間へ飛ばされる。どこかの家の中のようだが……。
「フルダイブVRの世界に飛ばされる何ぞ想定外だぞ……どうすんだコレ」




