治安悪いデース
敵のトリガーに指がかかる瞬間に地に膝を屈めタメを作る。
発砲――すでに私は地を離れている。上空で地に頭を向け、腰に装備した銃の貫通弾を発砲する。頭頂部より侵入した弾頭はパワーアーマーの装甲をものともせずに内臓を破壊し突き進んでいく。この弾丸は多重装甲も貫くために開発、バリエーションを増やした装備だ。
私が地に着くまでに撃った三発の銃弾はもれなく命を刈り取りゴシャリと崩れ落ちる――あと二人。
こちらを認識して乱れ撃つも――側転で回避、空中で曲芸撃ちィ、心臓を貫通。
私が再び地に足を突く瞬間、肩に展開した補助ブースターを数瞬吹かし、パワーアーマーの頭部に横蹴りを叩き込むと足の裏に重量がかかり、無理やり振り切る――後方に回転する重装備――腕部を頑強なガントレットに換装し、地面に置かれたこちらを見ている頭部に――叩き込んだ。
飛び散る脳漿と砕かれたアーマーの部品が混ざりあり弾け飛んでいく。
[――状況終了、通信遮断中]
うむ、残心を忘れずに。
さっさとパワーアーマーを解析し、こちらを見て驚いている少女を攫うと適当な廃ビルに逃げ込む。
しかし目に優しくない髪の色だな。
廃ビル内にある薄汚れたソファーに座るとお姫様抱っこしていた彼女も降ろすと、ソファーに寝転がり事情の説明をさせる。
「えっと、私は大企業の令嬢なのですが――え、興味ない? ええっと、私の身体はヒトゲノムの変異率が極めて高く、同化現象も起きない身体だったんです。父の企業の研究にも協力していたのですが、企業内部の社員に情報をリークされて攫われてしまったんです……」
同化現象が起きていないと言う割には、全身からサイバネティックス化された駆動音が微かに聞こえてきているのだが、そのあたりも理由がありそうだな。
「目が覚めるとすでにサイバネ手術を終えていたようで、薄暗い研究所みたいな場所から逃げ出してきたんです。幸い、思考のロックが掛けられておらず、攻撃行動を取ることが出来ました……もう生身ではありませんが……ははは……はぁ」
彼女の変異率とサイバネ技術の相性が良すぎたのだろう、彼女に触れていた際にコアが脳幹に発生している事が分かった。
「あっ! お礼を言っていませんでしたね、私を助けていただき本当にありがとうございます!! 名前はアウローラです。この後のことなのですが……」
「護衛か? まぁ、代金は高くない程度は貰うが。それで、どこに向かえばいいんだ?」
「はいッ! お礼と護衛代金は私の家に付かないとお支払いはできないのですが……いいんですか?」
「支払いがもしなくてもいいように、君の身体を前払いで調べさせてくれないか?」
そう言うと胸元を両手で隠して睨みつけて来る。表情の再現率など人間のようにしか見えないな。サイバネ技術の機械部品を調和させているのか?
「なぜ怒っている? 別に解体する訳ではないぞ? 触れたり反応を確かめるだけだ――なに、そこまで時間は取らせないぞ」
「そういう事じゃないんです!! 乙女の柔肌を……」
「乙女の柔肌……を?」
「柔くありませんでした……いいですよもう……こんな機械女、好きにすれば……」
了承を得たことでじっくりと調べてみる。ほうほうほう。
ゴロツキ共のサイバネ部品よりも希少金属を使用していて、繊細な“掴む”という動作も滑らかにできている。先程から触る度に淡い溜息を吐いているが……。ああ、これは神経まで通っている。十分、異星体と名乗れるなこりゃ。
「分かったことがあるのだが……異星体化してるぞ? 本当にこのまま家に戻れるのか?」
「ッ!! そんなッ! ……まだそうと決まったわけではありませんッ! 家で調べてみれば……」
「――異星体と判明してどうなるか分からない、か?」
もし異星体もどきだとバレればいずれは都市に接収されるかバラされて研究されるだろうな。父親は守ってくれるかもしれないが。
「そこでだ。私が調整すればサイバネ化しただけだと、誤魔化すことが出来るのだが……どうする?」
なに、ちょっと子供が産める体にするだけだ。調整中は少々感覚が鋭敏になってしまうがな。
私の右腕をマニピュレーターみたいに指先を工具や銀の触手に変化したりして見せる。演出は大事だからな。
「――おね、がいします」
「承知した」
震える彼女を銀の膜で包み込む、体を這う感覚に表情が面白いようにコロコロと変わる。
彼女の口を空けさせると私の指を咥えさせ舌の上に乗せる。
――ふぐぅ。
何か鳴き声が聞こえたが気にしない。彼女のコアにアクセスすると、歪なサイバネ技術と癒着しているステータスが表示される。
このままでは通常動作にエラーを吐き出すので丁寧に調和させ、彼女の正常な遺伝子を読み取るとそれに合わせ適合化させていく。
――あ゛ッがぁぁああぁッ!!
神経を無理やり剥しているようなものだからな、耐えがたい苦痛が体中に走っているはずだ。
四肢と基本フレームの調整はこれで問題ない、内臓の代わりにフォトンジェネレーターが埋め込まれており、生体活動をしていない。
この制御技術じゃいつ爆発してもおかしくない状態だ。
「中身ごっそり変えるけどいいかね? ああ、返事できないのか。このままでは遠からず死ぬぞ? ちなみに私の提案を受けると子供が産めるようになる――どうだね?」
フルフルと震えながらもゆっくりと頷いた。
了承を得たので神経をオリハルコニアに植え替える、フォトンジェネレーターは、反重力魔導機関の制御機能を応用し、エネルギーとして活用できるようにする。
内臓関連は同化現象さえいればエミュレートが容易だったが……異星体の生体金属の機能を持つ銀を生成すると、遺伝子マップをエミュレートさせ内臓を作っていく。
あとは脳幹にあるコアにオリハルコニアを接続、異星体の固有振動を隠蔽する被膜を生成。
動作確認の為、一度神経に命令を下す。
――あっ、んうっ。
彼女の身体に触れて行くと接触反応は良好だな、五感のエミュレートも問題ない。人工子宮の感覚や受精も問題ないだろう。ただしエミュレートされた卵子でできた子は異星体なのか人間かは分からないが。
――や、やめ、あんっ。
そうだ。フォトンジェネレーターがあるのならば、手の平からビームが撃てる兵装も追加しよう。背部には翼のように展開できるスラスターと皮膚表面には電磁障壁を展開できるように……。
管制システムのチップをコアに吸収させて、照準機能を網膜に投影させる……と。
――ま、また。やめっ。身体が――中からッ!
「よし! ちょっと立ってから動作確認してくれ。ステータスは確認できるように網膜に投影されているはずだ」
荒い息を整えて彼女が動作確認をしようとするも、私の頭を叩かれてしまった。
紅潮した表情が落ち着いていないが感情の表現も問題ないようだ。
そのまま私に近づいてくると頬を掴まれ舌を唇に捻じ込んできた。
「――これでも大人になっているんです。言いたいこと――分かりますよね。まぁ、お礼代わりです」
見かけは薄緑の髪色をしたサイバネティックな彼女だが、そのままソファーに押し倒されてしまった。
もちろん意味を分かっている私は彼女の気持ちに答えるとする。
「動作確認ですよ……動作確認。子供が産まれるならその機能を確かめるのも、私をいじった責任ですよ?」
フフッと微笑むと荒々しくも貪られてしまう。
言ってはいないが彼女の現在の体重は人間の数倍はあるんだけどな。
◇
すやすやと眠る彼女にタオルを掛けて、買って来た食べ物や衣服をテーブルに並べておく。余裕のある生活をするには優雅な朝食という者が大切だからな。
彼女が単独でも戦闘できるように、夢の中では圧縮された感覚で戦闘のシミュレーションが行われている。これで数時間もすれば格闘や射撃などの戦闘行動がとれるようになるはずだ。
目が覚めたら怒られるかもしれないが。
追加で手首から肘の間に長めの高硬度ナイフを仕込んでいるが使いこなしてくれ。
殺気を込めて頭を撫でてあげると、瞬時に戦闘行動をとり私の首元にナイフが当たっている。もちろん刺さらないが。
「はぁッはぁッはぁッ。――驚かさないでくださいよ……寝起き最悪じゃないですか……」
「あんまりにも気持ち良さそうな顔をして寝ているものでね、テストを兼ねているだけだよ」
「……起こし方に問題はありますが。おかげさまで一端の暗殺者……じゃないですよッ!! なんですかッ! 暗殺者プログラムってッ! もうどんだけ殺させるんですか! トラウマになっているのに何百人も次々に……ううぅ……」
「おかげで躊躇しなくなっただろ? 誘拐の心配も減るし。なんなら私の部隊に来てくれてもいいがね。将来性抜群だと思うしな。」
「――とにかく家に帰ってからかんがえますよ。子供が産まれたら責任を取ってもらいに行くですよ」
「もちろんだ。さて、朝食を用意した。味覚も問題ないだろうが確かめないとな」
破れたカーテンの隙間から朝日が照らし出し、インスタントコーヒーを啜りながら洋食風の朝食を摂る。ウマウマ言いながら食べているアウローラに昨日のような陰りはない。




