PCC兵装
かつて私の生まれた地球ではおよそ世界の総人口が八十億人いるとされていたが、この世界での人口は約半分以下の三十億程と言われている。
半世紀以上の昔、小さな隕石群が北極の海に落下した。観測された大きさは大気圏内で燃え尽きるほどの大きさで特に話題にも上がっていなかった。
しかし一年と経たずに欧州、北米、アジアにて不定形の岩石のような生物が確認された、当初は未確認生物だ、大発見だと喜んでいたが次々と人間が食われ、取り込まれていく様が目撃されると大恐慌に陥った。
新種の生物が剥がれ落ちたサンプルを溶かして調査したところ地球上存在しない塩基配列に似た“ナニカ”に生きた金属と言える異常な生体系が良くも悪くも驚愕の研究報告が世界中に広まった。
どこぞの国は新型のウイルス兵器だの、研究すれば不老不死に至る等、考えることは一緒で、それぞれサンプルを持ち出し培養させることに成功した。そう“成功”してしまったんだ。
ゆっくりと捕食し侵略を危険種として認定はされたが、人類の危機になるとは思っていなかった。
だが愚かにも実験に使われたサンプルに兵器としての性質を与えてしまった。同化現象とも言える細菌のような感染病、空気中に飛散し機械的にヒトゲノムを蝕むウイルス的性質を兼ね備えてしまった。
アジアと北米を中心に瞬く間に広がり人口の半分以上が人間としての死亡、つまり異星体へと変貌してしまった。
人々は大陸を南に追われ、壁を建て浸食を抑えたり抵抗を行っていた。大規模な殲滅兵器を幾度となく使用したことにより大気は汚染され気温も下がってしまった。
そして残ったヨーロッパ、アフリカ、アジア南部、オーストラリア、南米の中心として残ったものが五大大陸と呼ばれ、所属している都市の位置はオーストラリア大陸となっている。どおりで和名や中国名が多いと思ったわけだ。移住を迫ら南下した先がココだったわけだ。
もちろんオーストラリアなんて国は存在せず、北極点から順番にAからZの頭文字と番号振っただけの名称だった。
まあ、もう区別できるほど国が残っちゃいないしその時の名残でここは“D都市”となったわけだ。周辺に存在する大小ある他の都市はD-2、D-3と番号が振られている。
現在私はC都市の北部にやってきている、もちろん目的はデータ収集だ。
彼らは独自の生態系を気付いている、まるで自分たちが新人類だと言わんばかりに。私のレギオンも恐らく同類とみなされ意外と平和的に共存できそうだな。
まぁデータを取るために私は殺生するが。
アーマメント化した私は大型異星体を捜索しており周辺には数機ほど反応を掴んだ。データの収集を行っているのならばそれを解析さえしてしまえば私自身がネットワークに割り込むことも可能だ。
まあ、親玉がどこにいるかは分かっていないがな。巧妙に隠れているのかそれとも個ではなく群体なのかもしれない。
[――目標捕捉]
『あいあい。私のコアから出る固有振動を遮断してくれ』
コアは互いの位置をある程度特定できる習性がある、このまま近づけば視認されるよりも先に気づかれてしまう。
視界内に捕捉、チタン系、腕部の肥大確認、多重装甲と思われる。
トカゲの顔したゴリラの身体、装甲は強固と来るか。あのメカメカしさカッコいいよな。趣味が合うかもしれん。
『背後に付いた。奴のをネットワークから隔離してくれ』
[――遮断膜展開 残六十秒]
――十分だ。
>>極薄の刃を両手に展開/突進/両脇下部より刃が侵入/異星体両腕にダメージ確認
切れ味を追求した私の基本にして主兵装の刃が腕部のフレームを断ち切った。
これで腕は使い物にならないだろう。奴の機械音の嘆きの声が周囲に響き渡る。
>>追加の攻撃/寝かせた刃を両サイドに広げた/挟み込む/胴体の半ばで止まる/カウンター攻撃/ノックバックした
両サイドから刃で挟み込み両断を試みるも予想以上の装甲の厚さに攻撃が止まってしまう、構造を無視し体をのけぞらせて頭突きを食らってしまう。後方へステップで勢いを流したがあの重量での攻撃はコア付近まで振動が伝わって来た。
自身のスペックに溺れるとはこのことだな。今後他の世界でも機動兵器がないとは言えないからな、気を引き締めて行こう。
>>多連装レールガンを装備/発射/効果は薄い/追加兵装光学系へ換装/発射/融解を確認/弱点属性です
両肩に装備したレールガンで物理攻撃をするも多重装甲で衝撃が緩和されてしまい効果が薄い、フォトンジェネレーターと魔導回路から学び追加された兵装、フォトンコラプサーキャノン/PCC兵装で狙い撃つ。チリッと撃ち出した瞬間に大気が焦げる匂いが周囲に強烈に漂い、奴のコアが原子結合崩壊を起こして消えさる。
『あ゛ッ!!』
[――馬鹿]
勢いとノリで感知していたコアを消滅させてしまった……攻撃を受けてムキになってしまっていた。自身が安全ではないと分かると気が昂り攻撃的になるのは子供みたいだな。
『すまない、アラメス、私は強くなった積りでいたが、驕っていたようだ、どうか私を強くして欲しい。努力は惜しまない。どうか頼む……』
[――私とあなたは二心同体、言われずとも離れない、どうか覚えておいて欲しい、星が、宇宙が無くなろうとも、私はあなたと共にいる]
『――ッ!! 嬉し過ぎて言葉にできない……私の溢れ出す感情を君は分かっているだろうが言わせてもらう――ありがとう。どうか永久にそばに居てくれ』
反省した後は残骸の吸収を行う。物理的な防御のこいつの構造は本当に勉強になった。決して私に劣るとは言えないな、異星体も。もっと慎重に貪欲に強くなろう。
◇
PCC兵装の砲身をアーマメントのまずは二倍の砲身へと調整、フォトンの減衰を抑え射程距離の向上を目指すと共に、エネルギー出力を上げたフォトンを収束/循環させ方向性を魔導回路で誘導し発射する。
>>高出力で安定、射程距離の向上を確認
緻密に魔導回路を刻印された砲身は長ければ長いほど収束し加速する。
質量を持たないフォトン/光子の制御期間を開発した人物は偉大だな。私ならアニメでよく見る荷電粒子砲を開発しだすだろうに。
荷電粒子には質量があるが光子は無いと言われているからな。机上の空論に空論を重ねた合わせた奇跡の産物だろうな。ある意味フォトン機関は反物質機関より凄い。
その点で注目しているのが反重力魔導回路だ。魔導世界で研究しているが光すら捻じ曲げる高重力の場の力を使って兵装を開発している。
次元を渡る際に起こり溢れ出した虚無の現象を解析したところ、虚無という概念より下位ではあるが反エネルギーとも言える現象が観測できた。それを制御さえ出きれば、俗に言うワープや瞬間移動、次元を穿つ力を持つ縮退炉も夢ではないだろう。
[――実験終了]
『さっきみたいに喋ってくれても言いのに――いや、すまない君を否定したわけじゃないんだ。そう、私が喋りたかっただけだ』
[――……特別な時だけなら]
『了解。末永く行こう。さて、C都市の偵察を一応しておくか、何か面白い事が起きるかもしれないからな』
アーマメントのブースタを吹かして探知されるギリギリまで接近する。あとはパーソナル化してボチボチと向かおう。
◇
ヒュカッ――
体の各部位をサイバネティックス化されたゴロツキの後頭部から脳漿を炸裂させること数回。もう、サンプルはいらないのだがコレクション程度にはなる。
C都市のセキュリティは甘く、容易く侵入することが出来た。
その代わり世紀末と言わんばかりに治安が悪く、D都市では誰もが着ている服装をしている私がカモにされようとしている始末だ。
静音性を見込みコイルガンを使用している。まあ、銃声が聞こえても誰も気にしないだろうが。銃器の火薬の詰まった弾丸を撃つ、あのリコイルといい、何とも言えない香りが意外と好きだな。
死体から義腕を外して作りを確かめる。
先程からよく見かける、≪CHM/industry≫と刻印されたパーツだ。
最下層の住民でも取得できている事からかなりの普及率だ、D都市はクーロン技術で有名だが、ここは異星体の生きた金属を制御する方向性の発展の仕方を選んだのだな。
先程から溜まってばかりいるICで購入した良く分からない成分の煙草に火を付ける。
うむ、中毒成分がかなりの割合で配合されてるな。
プカプカ、煙を吐きながらも客引きをしている雑多な裏路地を進んでいく。
男女比が偏っている事から娼館の値段は安いな……。妊娠した女性は都市側から多少の補助制度が確立している。そうして生まれて来ても女性が多く、娼館という制度は変わりつつあり男娼がちらほら出て来ている。
性的嗜好はそう変わっていないがこれが時代の節目かもしれない。
散策を楽しんでいると私の目の前に薄緑色した髪の少女が走って来ると躓き倒れる。後方からパワーアーマーを着込んだ部隊が金属音を立てながらやって来た。
『目標確保。目撃者あり――排除する』
装備されたマッシブな銃口をこちらに向けてきている。
「やめてッ! 巻き込まないで!!」
五つほどの銃口から弾丸が放たれた。




