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レギオン

[異星生命体の侵略から半世紀近く経ちました。我ら“自然保護推進機関”は安心、安全の生活を保障します。ぜひ、次期党改選の際には英断なる投票を]


 街角の電子公告スクリーンには一応の合議制なのか議席獲得の為の政争合戦の広告が無秩序に打たれている。

 

 生存戦略の最中、軍事的な部分は独裁しているが世界に散らばる都市の利権を争うのは自由だとさ。まあ適度にガス抜きしないとクーデターなんぞ起こされたら本当に生存の危機だな。


 ひしめくビル群の屋上テラスに営業しているカフェの席に座りながら、昼食代わりのパウンドケーキを食べている。地表付近のカフェではビルに埋もれて窮屈すぎる。せめて見晴らしの良い場所で気分転換をしているところだ。

 

 どこからか唸り声を上げている初心ウブそうな霧島なんちゃらさん。


「ほら、ケーキ奢ってやるから気にするな。ちょっと激しいスキンシップを取ってただけさ。それに子孫繁栄の尊い行動だぞ?」


 特に優秀なクローン体や名のある家系は頭文字のロットナンバーが消去される。都市の存在する権利が得られるわけだ。クリス女史も霧島ちゃんもその条件をクリアしている。まぁ住基データの奥底にログが残っていたのを発見しただけだが。


「霧島ちゃんも――自身の血を引く子ががいたら嬉しくらならないか? 私は嬉しいね。これ以上は言うつもりはないがな。それと任務が入ったんだろう? 端末にデータを送ってくれ」


 公共の場で軍事的作戦書を閲覧するのもどうかと思うが一応周囲に見えないように電子的セキュリティを掛けている。うちのアラメスちゃんスーパーなハッカーになってしまったよ。もはやこの都市は彼女の揺り籠となっている。現在、他のナンバー都市への遠距離通信で管理AIを調教中との事。アラメスの妹が生まれそうだ。


[異星生命体コアの捕獲作戦書]


 何々。接近すれば同化現象を起こす為、遠距離攻撃が有効だが今回、生きたままのコアの捕獲作戦が立案された。重要作戦遂行者は“SHINTA D2”――いきなりやれるならやってみろと言わんばかりの作戦内容だ。まぁやらせてもらいますけどね。

 ディメンションドリフターの頭文字二つでD2ね、ありがたく、シンタ・D2(ディーツー)とこれから名乗らせてもらおう。


「なかなか私の異星体へ抱く恋心の分かっている作戦だね。同化現象を遮断する容れ物はどうするんだい?」

 

 無茶な作戦に対する皮肉を飛ばし作戦内容を読みこんでいく。

 端末を操作している彼女から、捕獲用の兵装の仕様書が追加で私の端末に放り投げられる。霧島ちゃんも無茶だと思っているのだろう、複雑な表情をしている。


「大丈夫だって。霧島ちゃんは無事を祈って待っててくれればいいよ。何なら帰ってきたら熱烈なキスで出迎えてくれ」


「……知りませんッ! ――ですがあなたならこの作戦でも容易く成功させ戻ってきそうですね……ええ。頬にキス程度なら考えないこともないですよ?」


 それ挨拶と変わんねえな。彼女が提案してくれたんだありがたく受け取ろう。

 作戦の随伴機が二機。作戦日時が四日後、合同訓練で連携能力を上げろ、か。

 

 カフェを出ると雑多な街中へ生活に必要な必需品を買い込んでいく。

 

 それと今日は買い物の他に行くべきところがある。都市の奥まったところにある同化現象に犯された元操縦者や都市外で被害に遭ったものの者の隔離施設だ。


「ここは……危険です。同化現象は感染の可能性があります。それに医療関係者と軍の許可なく――」


 私はクリス女史に発行し貰ったIDと許可証を霧島ちゃんに見せるとふくれっ面をしてそれ以上はも言わなかった。

 

「なに、ちょっとした実験さ。今度から任務でも異星体と接近するんだ、事前訓練とでも思ってくれたらいい――では行ってくる」


 霧島ちゃんでは感染してしまうので施設外で待機していてもらおう。

 分厚い厳重なゲートを数回ほど潜るとここの施設でももはや手遅れに近く体の九割程飲み込まれている患者の隔離区画へと入っていく。もちろん同行者などいない。同化現象に完全に飲み込まれた時にコアが生成され異星体と成り下がってしまう前に隔離されているだけなのかというと、抑制剤の研究に感染者がなりたての異星体ならば安易に駆除できるからだそうだ。ここは緩やかな死を待つ終末への監獄だ。


 同化現象が進み最終フェイズになっている患者ががこちらを驚愕の目で見つめてきている。右目以外が全て硬質化、黒く変質してきているのに生身の人間がこの場にいる事などできないはずだ。現に体を抑えようと健気に頑張っている。

 自動で同化現象と私に襲い掛かってくる患者の右腕。

 次の瞬間私に左では掴まれて皮膚表面がパキパキと硬質化していく。

 

「これが同化現象か。微細なコアが生成されているな……解析……宿主を浸食するというだけの単一命令か。人間を触媒としか考えてないようだな――命令オーダー宿主の存在を個と認定、マスター権限を譲渡、私を管理者とし以後秘匿情報を守れ。それと人間の身体情報、パーソナル情報構築、君らをレギオンと認定、アラメスの指揮下に入れ――身体生成を開始」


 黒一色だったゴツゴツとした不揃いな体表面が溶けだし黒銀へと薄っすらと変わっていく。彼女の遺伝子情報をシミュレートしよすがの姿へと回帰していく。彼女の生身の部分はもう数パーセントしか残っていない脳髄だけだ。同化現象を起こしていた生きた金属、異星体は彼女となり生きて行く共生関係となった。


「――どうだ気分は? すでに十全に扱えているだろう。気持ちの整理はひつようだがな」


「あなたは一体……いえ、分かってます管理者よ。意識が無くなりかけ“私”という存在は消えかけていた。こうして混じり物だが確かに“私”は救われた、文句を言える立場ではあるまい。貴君の指揮下に入ろう」


「そうだな……今から全ての同化現象が起こっている同胞を救いに行こう。友達は多い方がいいだろうう? ――クリス女史。実験は成功だ。なに、君の指揮下に強力な部隊員が数百名ほど増えるだけだ。もちろん協力してくれるよな?」


 端末で成り行きを見守っていたクリス女史は呆れと諦めの混じった乾いた返事をしてきた。隔離施設の数百人もの人員がいきなり増えるのだから。見た目は人間でも体が異星体なのは間違いない。人権に配慮したいくらかの実験や、経過観察を経ていづれ私の元にまとめてやって来るであろう。そう交渉したしな。


 今、彼女を整えた命令権を含んだ指輪程度に生成した疑似コアを彼女に持たせて隔離施設内の患者を直して行っている、治すではなく直すなのは癒してもいないし元に戻していないからだ、適応させているに過ぎない。


 脳内でアラメスが忙しくも命令を行い、パーソナル情報を叩き込んでいる。

 誰が上位者で、自身の身体を十全に扱える情報をな。万が一契約が履行されないことを考え、緊急事態には自己防衛が行える兵装のパターンも入力しているし履行されれば問題ない。


 隔離施設内の中央広場には数百人ものレギオンメンバーが並んでいる。彼女達、いや少ないながらも男性がいるようだな。


「すでに理解しているだろう。“私”が誰なのかを、何なのかを。決して君らが憎む異星体ではないぞ? 其の武力、知力は十全に私の為に生かしてもらう。もちろん手厚く部隊へと迎えるぞ。それと同化現象の侵攻フェイズが進んでいた者の方が強化値が高い、これを渡しておくから同胞と遭遇した際は仲間に加えてやれ」


 先程渡した命令権を含む疑似コアの指輪を渡していく。一人ももれなく頬を染めながら左の薬指に嵌めて行っている。おかしいな、刷り込み効果でもあったのか? 


「間もなくクリス女史に頼んだ検査員がやって来る、調査に協力してやれ、ああ、不埒な事や違法まがいの実験をしようとしたら目に物を見せてやれ、君たちには新しい力が備わっている。ある意味君たちは新たな人類だ。誇りを持ってくれ――以上だ」


 しばらく広々としたロビーで寛いでいると抑制剤を打ったであろう数十人の団体がやって来た、クリス女史に待機していた霧島ちゃん、検査員と警備部隊だな。おっと銃を向けるなら考えがあるぞ?


「やめなさい。死ぬわよあなた達――ごめんなさい。まだ理解できないアホウがいたわ。今すぐ任務失敗で帰投せよ、説明したはずよ、絶対命令だと。ほらあんたたち検査に取り掛かりなさい。下手な真似をすると命がないわよ?」


「すぐに対応してくれたし問題ない、見た目はすでに人間と変わりないだろう? 膂力も思考も上昇してるはずだ。生身の部分がちょっと金属化してるだけだし生殖活動もできるはずさ、生まれて来た次世代がどうなるかはエミュレートしている最中なので分からないが」


「充分よ、同化現象に感染しない優秀な操縦者が数百人単位で増えるし追々わかることよ、まぁ周囲の都市や上層部がどう動くか分からないけれどね。誤魔化すのが大変よ……あなたが守ってくれるんでしょう?」


「もちろんだ。その際どれだけの都市が落ちるかもしれないが」


 冗談ではないと理解したのだろう、ブルリと震え考えを放棄している。

 今日の調査自体は簡易的な物だけで数日程経過観察が行われる。

 あとは別人として新規IDを発行するだけだ。

 戸籍関連もアラメスが住基データを念入りに改ざんし住居も活動資金も動かしている。


「機体の材料の回収を行っているか? 仕えなさそうな廃棄品でも何でもいいんだが」


「数機分は確保できてるけれど追加の材料は本当に生成カスやランクの低い金属でもいいの? なんだかあなた自重しなくなってきてるわね……」


「私一人ではできる事など少ないだろう? それならば優秀な人材の確保は重要だろう。機密も守れて忠誠の高い部隊――喉から手が出るほど欲しかったのだろう?」


「……どこでそれを知ったのかは聞かないでおいてあげる。私の願いを後押ししてくれそうだからこそあの時、悪魔に魂を売ったのよ」


「後悔はさせないさ。君はこれから幸せになる――それだけだ」

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