やっぱり騒動に巻き込まれる
食堂内にいる霧島ちゃん以外全ての生命を殺し終えるとイスに座り、注文され寂し気に配膳台に乗っていた私の定食をのんびりと味わい始める。モニターからも築かれないように極細の銀を殺した軍人達に突き刺して解析を掛けている。
申告された通り筋繊維に金属のような鉱物が混じっており、個体差がかなりある。これがヒトゲノムを汚染した異星生命体の“毒”によって浸食、変異させられた部分だな。金属、鉱物の生命体とは私の親戚みたいだな、友達になれるといいが。
食事はキチンと暖かく肉の質感もするが、なんだろう、コレじゃない感。
農業を営むようすらないのか培養したたんぱく質に色と香りを付けただけじゃねえのかな。はぁ。この世界に美食要素は早々に絶望的となってしまった。
お残しは行儀が悪いの警備員が持っていた銃を拾いいじりながら黙々と食べる。
ふむ、バッテリー可動式の銃か。コイルガンのような原理か? 情報は集まって来ているが現物を吸収しておこう。
正気に戻ったのか大量の死体の中で食事をとっている私を信じられないような目で見て来る。
「これ……失礼だと思うけど。不味くない?」
「……あなたは……自身が何をしたのか分かっているのですかッ!!」
霧島ちゃんは刀の柄を握りしめて今にも切りかかってきそうだ。
効かないって言ったばかりなのに、若いなぁ。
そろそろ即応部隊也なんなり展開してきそうだけど落としどころはどうするんだろうな。周囲に飛び散った血肉や臓物を眺めながらぼんやりと考える。
「何をしたって……正当防衛? 言葉を尽くそうとしたのに殴られ撃たれ押さえつけられようとしてなお何もするなと言えるのかね君は?」
「ッ!! 殺しすぎです!!あなたなら……うまく納められたはず!」
「それ、する必要あった? 攻撃したら暗に殺すよって何度も警告はしたんだ。これ以上は無理だね」
「それでもッ――」
彼女の首を握り中に浮かせる。刀を腰元から奪い取り、ホルスターの銃も没収する。若いなぁ。青いともいうべきか? 彼女の雰囲気は武家の家系に厳しく育てられ正義にあこがれる年頃なのかな。それとも使命感?
「“生かされている”弱者が何を言っても滑稽だよ、我を押し通したいなら強くなるしかないよ――早く誰かと連絡とってよ。自由にココ歩いてもいいならいいけど……」
彼女を床に放り投げると血肉に汚れてしまう。震える手で通信機を握りしめ上司との通信を始める。
奪い取った刀を鞘から抜き取りまじまじと見物する。どこかの地域に日系の文化でもあるのかな、日本刀に似た作りをしている。平行世界が存在するのもあながち間違いではないな。
食堂の窓の外に大型の高エネルギー体がひの、ふの、み。全高十メートルはあるんじゃなかろうか。あれは確か――
こちらに兵装から放たれるビームのようなものが発射される直前に霧島ちゃんをアーマメント化した私の中に収納、共に操縦室の中で密着する。
食堂の壁をぶち破り外部へと移動する。空中から分析したあの三体の高エネルギー体は私の好きなロボットアニメに出て来るシルエットとよく似ていた。
私のアーマメントもカッコいいと自負しているが。
ふわりと空中に腕を組んで立たずみ三機の期待を観察する。
光学兵器の銃口をこちらに向けて来るとすぐさま撃ち落とそうとしてくる。
『どうしてこうも君たちは短気なんだい? そういう民族なのかな?』
ビーム兵器で私ごと抹殺されそうになった霧島ちゃんは震えながら呆然としている。上司との会話で時間稼ぎをされた事を理解しているのだろう。
空中から見る軍事基地、いや都市ともいうべきか。狭い土地の中に高層ビル同士が接続された連絡パイプが入り乱れている。
天井は隔壁で封鎖され人工照明のほの暗い明かりが都市を照らしている、その過密さと雑多さは冒険心を擽られそうだ。先程からビームの乱射を回避しているのだが都市戦は想定外だったのか背後にあるビル群に命中していっており火災が発生している。まさか自分たちが操縦するロボットのようなものを持っているとは夢にも思わなかったのだろう。ビームで焼却処理すればいいやという甘い幻想が悲劇を産んだ。
私は攻撃をせずに先程から避け続けている。一筋のビームで何人の人間が死んでいるかは分からない。
「ねえ、霧島ちゃん。ビルに当たってるビームで人が死んでるよね。これでもあの機体を破壊しない方がいいのかな? それともずっと回避していればいい? どんどん人が死んでいくけど――選ばせてあげるよ」
「――なんということを……。鎮圧するだけじゃ駄目なのだな……」
「もちろん殺すよ。むしろここまでされて回避しかしていないのはよく我慢していると思うんだけど」
「そう、だな。――無抵抗の相手に対し意味もなく戦闘行動を取り、民を虐殺する者など――この都市にはいらぬ」
「――了解。よくできました」
瞬時にレールキャノンを両手に展開。操縦席らしき場所を撃ち抜いた。
炸薬が無い為ある程度の原型を残して墜落していく。すかさず両腕を銀に変形して機体を絡めとり吸収を開始する。
なるほど。これは生きた金属だな。意思というものが無くなった異星生命体の残骸だな。じっくりと調べさせてもらおう、その前に――
残りの一機をすれ違いざまにくし刺しにする。ギャリギャリと装甲を食い破り操縦者ごと背後まで貫通した。それなりに貴重な機体だったのか慌ただしく通信が飛び交っている。
未知の機体の出現に大騒ぎになり尚且つ都市に被害まで出てしまっている。
私が出した被害ではないが恐らく罪を擦り付けられるであろう。
通信を傍受して作戦指揮所に右腕のレールキャノンの照準を向けたまま通信に割り込む。あのヒステリックレディがいるようだしな。
「聞こえるかね。ヒステリックレディ。いやはや無力な私は正当防衛をしただけなのだが残念な擦れ違いで都市に被害が大量に出てしまった――お悔やみを申し上げよう。ああ、ビルが崩壊したり火災が発生したのは君たちのへたくそな操縦者のおかげ様だがね。私はかすりも被害を出していないのだが……さて私と君たちの戦力比は理解できたかね? そろそろ都市内を散策でもしたいのだが」
静まり返った指揮所の中で特に短気そうな声が響き渡る。
「ふざけるなッ! 異星生命体の貴様のせいでここまで被害が出たのだッ!! 早く追加の部隊を出したまえ!! ただちに破壊せよ!」
「――とのことだがヒステリックレディ。どうする? 最初から最後まで私から一切攻撃していない上に都市に配慮した上に対話までしているのだが……私とその喚き散らしている老害、どちらが正しいか明白だが?」
老害の叫び声以外はシンと静まり返っている。そもそもあの老人が軍人を煽ったのだろう、そのことを理解していないとは言わせない。
「そうだ。魅力的な提案をしようじゃないか。ヒステリックレディ。君は随分と知恵もののようだ、君の指揮下に入りある程度の戦力として協力すると約束しよう。そのかわり自由を約束したまえ」
あっという間にご自慢の機体を殲滅したことと危なくも魅力的な提案に指揮所内が揺れている。老害は相変わらずだが、悪くない提案だと思う。
「ああ、そこの老害が微妙に困る権力でも持っているのだろう――そう、事故が起こる、突発的な事故が今から起きるとしよう。どうだい? これなら首を縦に触れるだろう」
その悪魔のような取引にヒステリックレディは――返事をした。
その瞬間、戦闘指揮所の上に滞空していた私から、銀の槍が老害と共に地面に突き刺さる。弾け飛んだ血肉は周囲の人物にもヒステリックレディにもかかってしまう。
「すまないヒステリックレディ。紳士として女性を汚してしまった、そう、これは事故、不幸な事故だったんだよ。なに、約束は守るし常に連絡が取れるように通信機器も携行するさ――楽しい対話を今から始めようじゃないか」
アーマメント化を解除するとお姫様抱っこの形でゆっくりと戦闘指揮所へ向かう。バケモノを見るような目で見られてしまったが照れてしまうではないか。
随分と建設的な話をすることが出来たのは私もニッコリだよ。
やはり艦砲外交は正義、誰にでもわかる法則だね。
ゆっくりと人工的に作られたお茶を啜る、食事は食べれたものではないが菓子類は随分とまともなようだ。少数ながら穀物の栽培はうまく行っているとの事。
テーブルを挟んで霧島ちゃんが俯いている。私の監視員の任務が継続となりこうして一緒にお茶を飲んでいる。最も彼女のお茶は冷めてしまっているのだが。
「霧島ちゃん元気出しなよ。私、君を守ったつもりなんだけど。一緒に居るのは怖いのかな?」
ちなみに刀に銃は彼女に返却している、霧島家に伝わる由緒ある刀だったそうで私が持っているととても悲しそうな顔をしていたのだ。
当初いた軍事施設の惨劇は周知の事実となってしまい私が居る事でまた変な軋轢が生まれてしまいどうにもできない、移動してほしいと頭を下げられてしまった。私も意地悪ではないし素直に了承し。ヒステリックレディもとい、クリス女史の兵器研究所に所属を置いている。
異星生命体の第一人者であり生態の解明に最も貢献しているらしい。
政治的判断もできるクリス女史だがさすがに無能すぎる上司には困っていたようだ。一番の膿が“事故”で二階級特進したおかげで風通しが良くなったそうな。
この世界にも二階級特進があることに驚いたが。
「いえ、怖くはないのです……状況を消化しきれていないだけです」
そうか、と吐息交じりに返事をし黙々とクッキーみたいなものを食べる。
こういう者は変な事をせずに時間が解決してくれるものだ。
あの異星物交じりの機体の解析も終わる頃だ、どんな結果が出るのか待ち遠しい。




