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苦労人だヨ! マーカス隊長!

 これってマズイんじゃないのぉー。

 

 俺ってばさ、柄にもなく魔導士部隊の大隊長なんてやらせてもらってるわけよ。

 取り敢えず隊で一番魔法射程距離ある隊員に城壁上からあの“銀津波”にひと当てしてもらったわけよね。


 え、どうなったかって? 少々勢いがほんの少し弱まったかなーって気持ちがするだけでどうにもならなさそうな事が分かったわけ。

 ……これ撤退ルート確立して置かないといけないな。


 魔導士隊には飛行偵察艦が配備されているから逃走自体は問題ないのだけれど帝都が壊滅しちゃあ帰る家がなくなっちゃうもんな。


 ウチのギルス元帥も無茶な注文するもんだねい。

 はぁ……。


「作戦目的を遅滞戦闘を行うことを最優先としろ。熱量を限界まで収束させたファイアランス、もしくはフォトンレイをツーマンセルで制御限界まで増幅させて撃て。それでもだめなら帝都民の避難先に向かわないよう誘導射撃を行え。以上ッ! 行動開始ッ!」


 はぁ……絶対効かなさそう。

 今もなお増殖しつつ帝都に向かってきている、生体魔導研究所では古代から生息している怪物の細胞を培養しているって聞いてたけどあんなのになるとか聞いてないよぉ。

 奴隷を使ってマッドな研究をしているからウチの部隊でも評判は悪かったんだけどね。

 こりゃあ生物学が禁忌扱いになるだろうねぇ……。有効な学問だったんだけど。


 さてさて遅滞戦闘の作戦でも練りましょうかね。

 給料分は働かないと。





 無理無理無理ッ無理だってば!!


 もうすでに眼下に見える城壁外は全て銀で埋め尽くされている。

 閉じられた城門の隙間や、薄い部分などすでに溶かされていて帝都に侵入を開始している。


 憎たらしくも下水から優先的に侵入していってるから進行速度から一刻もしない内に帝都全域に広がるだろう。


 西からの侵攻だったから東門からぞろぞろと避難しているけど。商人や貴族何て金目の物や商品を荷車に満載させて避難の妨害をしているし火事場泥棒も発生している。

 あーあー、あいつら絶対に逃げ遅れるね、間違いない。

 引き際を間違えた人間はどうしようもないねこりゃ。


 すでに城壁の三分の一は消化されてそろそろ崩壊が始まるだろう。

 俺の家のローンまだ残ってるのになあ……まあ借金もともなくなってるし。

 

 魔導通信によれば“なぜか”帝城への進行速度がとてつもなく早いそうで宝物庫や大図書館が真っ先に狙われたらしい。その代わり避難できる時間が稼げているんだけども、あの銀津波絶対知能あるでしょ。

 宝物庫を狙うなんて態とだろうに……。もしかしたら交渉とかも出来たりして……まさかなぁ……。


「銀さん銀さんちょっといいかい?」


 まさか……ねぇ……え゛!?

 俺に向かって手を振ってやがる……まじかぁ……。


「……交渉できるかい? なにか私に出せるものなら全て渡そう……情報でも何でも、まあもう飲み込まれていない物に限るが……」


 お。周囲の銀津波が止まっている。交渉が成功するか分からないがテーブルに着くだけでも遅滞効果が見込めるなぁこりゃ。


『魔導関連の書物、情報、周辺国を含む全ての情報開示を即時行うのならば避難する住民にはなるべく被害が行かないようにしよう。愚鈍な商人と貴族以外はな。ああ、それとこんな私と交渉のテーブルに付こうとした君の大英断を評して君たちの部隊には今回一切手を出さないことを誓おう――返答や如何に?』


 キタキタキタキター! 俺! 大・勝・利!

 もちろんもちろん否はないっすよ!! 対応いたします!

 オラッ! 貴様ら! 情報を吐けぇッ!





『ふむ、世界樹共和国には特異な触媒を用いた特質な魔導や書物が、イルヒ法国には神聖文字を使用する発声魔法か………意味ある文字を創作、もしくは発音自体が空間振動によって術式回路にでもなっているのか……? マール連邦には古代遺跡の発掘が盛んで、サムデイン商圏は他大陸間との交易が盛んで儀式魔法の古文書がある可能性……と。特に気になるのがやはり世界樹共和国だな、異民族の楽園か。ああ、ついでにその通信魔道具もくれないかね。それと熱心に紙に情報をこれでもかと書き込んでくれているんだ。なにか希望などあるかね?』


 希望……希望ねぇ……。


「即時撤退して頂く……のは駄目そうなので……今、生存している帝都民は見逃して頂けないかと……」


『…………ふむ。では通信の魔道具で上に伝えたまえ。外道な人間以外は見逃す……と。火事場泥棒、住民を押しのけたり殺している貴族、今から私に攻撃をしている者、あとは、奴隷商人かね? 一応この身はダガラ王国出身なのでね侵略戦争を行っている君たちには思う所が無いわけではないのだよ』


 条件は……理不尽ではないな。そのまま通信を繋いだまま聞こえるように情報を流している、最初からな。


『別に戦争を辞めろとは言わないが……まあ無意味な虐殺だけは辞めておいた方がいい。君たちが虐殺される立場になるとだけ言っておこう。この身はな一欠けらでも存在していればいくらでも増殖できる。帝都のどこかに私が常に存在している。気持ちひとつで滅ぼされるのだよ君たちは』


 あんまりにもあんまりな内容だぁ……どうあがいても絶望じゃないっすかぁ……。


『まあこの会話を聞けば皇帝は怒り狂うだろうけどね。帝都はこれより物質的なものは全て――もちろん帝国城もだよ? 全部飲み込まれる。ニュートラルな帝都民は生存できる。これが最終判断だ。ああ、皇帝は殺しに行くよ? 全力で逃げるといい。もちろん攻撃された人間だけを殺しに行く。何処に居ようともな。早く皇帝に見切りを付けるといい、なんせ私はな――空を飛べるのだから』


 帝都に存在している銀津波の身体が魔導回路のようにキラキラと発光をしだした。

 まぁじかよ。終わった。皇帝終わった。


『君たちとの有意義な会話は終了だ。ああ、これを上げよう生体魔導研究所で開発していた魔臓結晶の粉を配合したブレスレットだ。これを付けているだけで魔法の効果が増幅される一品だ。もちろんこれに私はくっ付いてないよ? 寝首を掻かれる心配はないさ、願わくばその装備で罪なき幼子や虐殺が行われないことを願っているよ? ではな』


 そう言い終わると空中に浮いた銀津波が帝都全てを覆い尽くす。

 旦那ぁ……ホント頼んますよ……そして皆ぁ、攻撃するなよ……。


「通信終わり……隊長、どうしますか?」


「どうしますか……だと。どうしようもねえだろアレ? 空が見えなくなってきてるぞ、おい」


 暗闇に飲み込まれようとする帝都、脱出のために待機していた飛行戦艦がったった今飲み込まれた。

 恐らく皇帝を含む王族や大臣、将軍は死んでしまうだろう。

 ああ、厄日だ。戦勝ムードでにぎわっていた帝国が一夜にして陥落だとはねぇ……。


「どうしようか……あれ、飛行戦艦飲まれちゃったよ。通信入ってきているか?」


 通信役の部下が耳に当てている最新式の通信魔道具からの内容を復唱する。


「――皇帝陛下は……崩御されました……次期皇帝候補である王太子は生存、指揮権限が委譲されました……」


 考えうる最悪のパターンじゃーん。

 評判最悪のアーパー王太子じゃーん。

 絶対狙ってやってるよあの銀津波。

 荒れる、絶対荒れる。


「…………あ゛あ゛あ゛あぁぁぁぁぁぁぁぁあぁッ!! 荒れるぞ……絶対荒れるぞおおおおッ! もう嫌だッ! 嫌だあぁぁぁぁぁ!! ――ふう。お前ら転職は早めにな……辞表はちゃんと受け取ってやる……今回困難な任務に最前線で戦ったんだ。立派だよお前らは。魔導士ならどこでもくいっぱぐれはないだろ……」


「マーカス隊長……その口調珍しいですね」


「……てめぇらぁッ! 実は余裕あるだるぉッ! 内心いつも乗り突っ込みしてたんだっつの! もう固い言い方は辞めるんだぁ! ええん泣きたい逃げたい駄々こねたい!! ――ふう。銀津波への攻撃は不可。奴さん俺達をよけてくれるだろうし会話は通じるだろ。さっさ避難誘導に掛かれッ! 以上!」


 了解。と部隊員から元気のいい返事が聞こえる。こいつら案外根性あんのな。

 はあ、食料供給やインフラの敷設……考えうる今後の課題を検討すると遷都だな。候補地はいくらかあるがそれは会議次第だろう。どれだけの将校が残っているかだな。


 さて今日も給料分働きますか。

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