表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/159

驚異ッ! 怪物は存在したッ!

 生体魔導研究所内部。

 床に鮮血と人間の内容物が飛び散り、先鋭的なアートが展示されている。

 複数設置されている無機質なカプセルの中には培養された人間の魔臓が数多く浮かび上がっている。


 恐らくここに侵入する際にいたダガラ王国の人間、奴隷として連れてこられた人間が実験体として使用されたのだろう。


 魔臓の移植。


 個体差が存在するようで適合しなければ拒否反応を起こし人間としての死が待っている、拒否か反応が低くても障害を負う。と報告書には記載されている。


 私が行った魔臓をミキサーにかけて触媒として使用する実験も行われていたようだ。移植が出来なけりゃ移植できる実験体作ればよくねッ! というのりで作られたのが。眼前のカプセルに漂う竜のような、蛇のような、良く分からない怪物だ。


 聖泉付近の深い地層に存在していた骨の中にあった強靭な細胞を培養して自然界に生息する獰猛な生物や、人間の細胞すら掛け合わせたそうだ。

 失敗の連続であったが、人間の魔臓だけは親和性が高く。幾百人も生贄として捧げられたそうな。


 どうするか、これ。研究内容の資料や高純度の魔臓は全て吸収して魔臓結晶となってもらっている。長い事研究していたのか大量の圧縮された魔臓エキスとやらが巨大なタンクに保存されていたからな。私が持っている結晶の五倍程の大きさになったことから数多の生贄が捧げられたのであろう。

 おかげさまでコアに馴染めば魔導機器類や開発した魔法のしようが容易になるであろう。

 抽出する技術はそこまで必要はないが研究資料は大切に読ませてもらう。

 さて、この怪物を吸収するか否かを決めねばなるまい。

 カプセルに小さな穴をあけると黒針を慎重に怪物へと突き刺す、どれどれ、少しばかり細胞を吸収、解析に回して……。


「ぐぅッ!! こいつはとんだ大食いだなッ! 餌をくれるもんだから死んだふりをしてやがったなッ!」


 概念物質である銀すら逆浸食を始めやがった。

 この怪物はこの世界の特異点とでもいうのか……。

 かつてこの地に舞い降りた私が大陥没を起こしたのではない……あれは虚無が残世界に現出することによって引き起こされたただの災害だ。

 ご都合主義的にこの怪物を大量に吸収していたのならばすぐさま目を覚まし膨大なエネルギーを蓄えていたはずだ。それほど細胞を培養したこのサイズの怪物でも私と吸収力が拮抗しているのだから。


 だがこいつに打ち勝たねば私に未来はない。

 こいつの危険性は増殖、繁殖能力だ。

 こんな危険なものをけんきゅうしてやがったのか帝国は。バカだろ。

 私に似た性能を持っているが環境適応能力を舐めるなッ! 

 拮抗さえすれば貴様の負けだ。

 ジリジリと私の吸収能力が上昇していく。

 三分の一ほど吸収し終えたところで様子が変わる。

 まるで諦めたかのように私の吸収がスムーズに進みあっけなく終わってしまう。

 

「ぐぅううううぅううううぅぅうぅぅッ! 糞ッ敵わないと思いきや共存、混ざり合う事にしとのかッ! 糞野郎ッ!!」


 オーバーフローを起こしたのか身体の制御が聞かなくなりドロドロに銀が溢れ出す。生体魔導研究所をあっという間に溶かしつくし。郊外に建てられていた研究所を丸ごと飲み込むと周囲の家屋や人間、木々や地面など異常な速度で吸収、増殖していく。未だに私の意識は存在してはいるが私の環境適応能力が悪さをしてあの怪物の増殖能力、繁殖能力が強化されてしまった。あれほど生成に苦労していた銀を生成するのにエネルギー消費するのではなく、無機物、有機物関係なしに概念からして置換し書き換えて行く。もうすでに生物的な細胞分裂ではない。“リライト”というべき権能だ。


 ――アラメスッ! コアの制御権を何とか掌握してくれッ!!


[――了――解]


 畜生、アラメスも限界のようだな。

 別に乗っ取られて制御できていないのではない。むりやり奴の能力を《《押し付けられたんだ》》もうコアすら溶けだし細胞ひとつひとつが“私だ”これが群体生物とでもいうべき存在か。


 レベルアップは少しずつって学ばなかったのか怪物め。

 奴の生存戦略が能力さえ残ればいいなんて思わなかった……自らの自己存在などはなっからどうでも良かったんだな。


 ああ、すまない。周辺の人間が次々と飲み込まれ書き換えられていく。


 これが“存在置換”か……吸収、解析、生成はできるな、じゃなきゃ銀だけ量産されてあらゆるものを暴食するマップ兵器みたいになっちまう。

 

 体内に疑似コアともいうべき中央演算装置を生成――成功。

 元々のコアと遜色ない出来だ。

 複さらに数個生成――成功。

 

 ――アラメス。こいつで何とかしてくれ。


[――はぁ、了解]


 こいつ今溜息付きやがったぞ。複数コアが生成されて余裕ができたな。

 あーあ、帝都に軍隊が出動し始めたな。

 ん、待てよ。いい事思いついたぞ。


[――馬鹿ウマシカ]


 ――んな事言うなって。全部吸収してしまえばいいんだよ。城にある資料や金属、魔導具関連だけ選り分けてくれるか? 恐らく今のアラメスならできるだろう? 魔臓結晶のストックも欲しいしな。


暴走する銀の増殖を後押しするかのようにマルチコアの演算で後押しをした。


 





 帝都にある帝城の会議室では先日強奪された大型兵器工廠の対応に追われていた。工廠が建造されている領の伯爵も会議に出席している。


 兵站を司っている将軍も出席しており厳しい表情をしている。

 

「で、犯人は捕まえたのか? 兵器保管庫にあった飛行輸送艦が全てボロボロになっていると聞いているが……」


 苛立たし気に兵站担当のガルフィ将軍が詰問してくる。

 警備担当の責任者が汗を拭き出しながら返答に苦慮している。

 まあ。生贄に捧げられているだけだろうがな。

 責任者は責任を取るために置かれているのだからな。


「調査したところ、覆面で顔を覆っており。声質から“男”だけとしか……死者は出ておりませんが根こそぎ希少な戦略物資が奪われておりまして、周辺の街へ聞き込みに回っておりますが。少し前に怪しい黄色い肌の人物が情報収集していた……と、諜報員の可能性アリと報告が上がっておりすぐさま暗殺者を送った所、失敗しております。依頼した暗殺者に問い詰めたところ“割に合わないと”依頼をキャンセルしてきました」


「なぜその暗殺者は生きている? この報告書ではその後もその男と仲睦まじく一緒に居たと書いてあるが? 捉えて拷問しなかったのか?」


「ええ、ええ、もちろん捕えようとしました――ですが有名な暗殺者らしく帝国の諜報部隊が悉く殺されまして……ええ……」


ダンッと会議室のテーブルに拳が叩きつけられる。

無能な諜報部と警備担当に対する苛立ちだろう。

損害報告書を見れば。ああ、こりゃあ切れるわ。


「現在戦線を複数抱える状態の帝国に必ず必要な新設される飛行輸送艦隊に組み込む予定の……予定の……数十隻が全てだと…………ふざけるなああああぁぁあぁぁぁぁあぁッ!! 殺せェッ!! 警備担当も強奪された勤務していたものも殺せェッ!」


 護身用に帝城内でも携行を許可されている刃渡りの短い短剣を警備担当の責任者の額へ投げつけるガルフィ将軍。

 貫通する寸前でギルス元帥が短剣を弾き飛ばす。


「これ、今殺してもどうにもなるまい。責任者は責任を取るまで生かしておくことが手間を掛けずにすむぞい? 今ある飛行輸送艦でどうにかやりくりするしかあるまいの……ダガラ王都の消失問題でも頭が痛いのにのう……ダガラ王国の王都以外はなかなか歯ごたえがあって苦労させられておるというのに」


「チッ。そのための輸送計画がパアじゃねえかよ。幸い他の向上で建造している余剰戦艦がある。そいつを輸送用に改装してどうにかするしかあるまい」


「マール連邦がそろそろ欲を出してきそうだわい。横から奪われぬように防衛都市を優先的に攻め立てるぞい」


 すでに出た損害に対する処置はあっさりと決まり侵攻計画を新たに練り始める、俺の役割はこうして発言内容を議事録として記録していくことだけだ。

 先程の処刑未遂はうまくボカしておこう。


 会議の最中に扉が荒く叩かれて入室の許可を待っている。

 返事がない事にさらにガンガンガンと叩き続けられる。

 失礼なノックに無視しようとした将校たちも緊急事態と感じすぐさまドアを空けさせる。


「――ハアッハアッ大変です!! 生体魔導研究所から粘性の銀のようなものが溢れ出し現在帝都に向かってきております。偵察艦で計測したところ半刻程で帝都に到着する計算が出ております!! 脅威レベルは最高値。あらゆる物を溶かして未だに増殖、拡散しております! 鉄材、石材、木材。全て消え去っております……もちろん人間も……偵察艦の小型魔導砲では効果確認出来ずッ!!」


 その詳細な脅威判定に偵察部隊の高い技量が伺えるが聞くだけでめちゃくちゃヤバい事が分かる。大型の魔導砲が高い城壁に数百と設置されているが粘性を伴うならば鋼鉄の弾丸など粘性体を飛び散らせるだけだ。

 魔導士部隊の出撃させ遠距離攻撃することがベターだが。最悪を想定して王族や貴族の避難を最優先するしかないだろう。


 ダァン、とここでの最高権力者であるギルス元帥がテーブルを叩き付け注目を集める。


「魔導士部隊は急ぎ編成し、城壁で迎い撃て。帝城の騎士団は王族、貴族の避難誘導。訓練場にある飛行戦艦を使え。帝都に緊急宣言を出せ。最大レベルの脅威が接近中とな。貴族街に急いで使いを出せ、死者を出せば政治的に危うくなる。あとは個人的な君らの家族ぐらいなら飛行戦艦に入れていい。そのかわり全力で働けよ? 以上ッ! かかれッ!!」


 大変なことになっちまったな。急いで嫁さんと可愛い娘を避難させるか……一応仲のいい奴には教えといてやるか。全力で逃げろってな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ