秘密基地=娯楽施設
ここ数日人里を避けて景色のいい渓谷や湖などを探してはキャンプを繰り返している。
燻製にチャレンジしてみたりこっそりと深手のローブを纏い街に買い物に出かけたり。割とのびのびと暮らせている気がする。
かつての地球での名前は失ってしまったが知識自体は残っている。私という感性はそう失われていないのだ。
スマホに搭載されていた機能を拡張して映画の上映会をしてみたり、音楽を流して炭火焼肉をしてみたり。
気にも留めていなかったがスマホってすごい、解析してそれを拡張するだけで様々な機器に応用できるのだからね。
高性能スマホで検索できる範囲でしかパソコンや周辺機器の部位の製作方法は分からないが役に立ちそうなアプリケーションもインストールしていっている。
演算装置、基盤を高性能化させるシミュレーションを延々と行ったり、帝国の戦艦の基盤データーとの親和性が無いかも試している。
希少金属も渓谷や廃鉱山らしきものから採掘を行っている。多量の吸収解析をしなければ私は生成できないが、コツコツとコンテナに溜めている希少金属を使用して制御基板の開発などはチマチマ試している。
まあ相方頼りだけどね。アーマメント化した私のバージョンアップも行いじわじわと銀を生成していき装甲にも配合していっている。
コア内でエミュレートしても開発はできるが実際に制作して融合した方が概念として吸収するためかしっかりと機能としてコアに残りやすいようだ。エミュレーションだと仮想世界なので理が定着しないのだろう。
魔導科学と現代科学の親和性はすこぶる高いらしいからとても楽しみだ。
一番期待しているのは重力魔法ともいう分野だ。虚無に連なる属性だろうと当てにして優先的に開発をお願いしている。
重力子の操作なのか場の変動なのかはさっぱり分からないが帝国もなんとなくで戦艦に採用したのだろう。魔法という分野は素子の操作を細分化して系統立てている者と私は推測している。
重力、魂という特に未知の分野への探求心が止まらない。
いずれ解明したいものだ。
相方の名称を決めなければと思い数日間悩みに悩んで“アラ”という最上位を表す言葉の意味と“ヘルメス”を合わせた“アラメス”と名付けさせてもらった。
私のように存在の固定化が行われ性能の向上と小言が増えてしまった。金属の催促も加速したな。
現在位置は公爵領の端、サムデイン商圏との境にある山岳に拠点を設営している。
安易に辿り着くことのできない断崖絶壁の見えにくい場所をくり抜き秘密基地のようになっている。拠点に作成した巨大露天風呂に浸かりながら眼下に広がる湖と森林を眺めるのが最近の流行りだ。
念のため緊急脱出路を二か所ほど公爵領と商圏側に作成している。
四人それぞれに好みの部屋の作りを聞き出し、せっせと日曜大工も行っている。
もちろん十分強度のある隔壁を所々に補強し魔導砲ではビクともしないほどの強度を得ている。
一番こだわったのは露天風呂だけどな。
イルメシアもこれにはニッコリ、毎夜毎夜私の部屋に入り浸ってしまっている。
コミュニケーションルームとして検索したバーの内装を真似てバーカウンターも作ってしまった。お酒の種類が少ないので悲しいがちょくちょくサムデイン商圏に買い物に行って増やしていっている。あそこ本当に品揃いがいいからな。
リラクゼーションルームには購入したり、奪ってきた貴重な魔導書、技術書をそろえており、シャリウちゃんが良く入り浸っている。頭脳面でしか役に立てないからと一生懸命に勉強をしている。実験的に作成した情報端末をプレゼントしてあげると飛び上がるほど喜んでくれた。
現代人が羨むキッチンは広く設計されておりキルテちゃんが料理に興味を持ったのか私がレシピを渡すと毎食料理を作ってくれるようになった。イルメシアに何か諭されていたのか、花嫁修業がどうとか聞こえたな。
私が単独では飛行もままならないので魔臓結晶の融合を優先したところ三割程度の出力だが魔法、魔導の行使が可能となり研究が加速した。
「数日程帝国に行こうと思うのだが留守を頼めるか? 防衛用のシステムにも慣れて来たと思うし単独の方が潜入、暗殺もスムーズにできるからな。アーマメント化すると帝国が火の海になって回収が大変なんだよ」
夕食の食卓でそう宣言すると彼女たちが数瞬固まった。
それはそうだろう。彼女たちの人生を狂わせた元凶なのだから。
「希望があるならば殺して欲しい人物が居れば始末してくるぞ? やはり報復は蜜の味だからな」
そう言うといかにして帝国の経済、政治をめちゃくちゃにできるかを熱く討論を始めてしまった。将軍や大臣、皇帝など様々な人物の名前があげられていった。
食事が終わる事には優先殺害リストの最上位の皇帝と将軍の名が記載されていた。連ねられた名称を脳内リストにピックアップしていきながら食事の後片付けをする。
「なあ、なぜ王太子の名前が入ってないんだ?」
王族を虐殺でもしないのかなと短絡的に考えていた私は彼女たちに聞いてみた。
私もかなりのどんぶり勘定になってしまったものだなと自虐する。
ニッコリと軽薄な笑みを浮かべイルメシアがその理由を説明してくれるようだ。
「だって、無能を残しておかないといけないでしょう? 色欲に狂った異常者はいるだけで帝国に害しますもの。もともと廃嫡する話が上がるほど有名でしたもの」
なるほどね、十分に調査、回収出来たら彼女たちの笑顔の為にひと働きしてくるとしますか。
食後のくつろぎタイムに星空を眺める事の出来るテラスにて喫煙習慣を懐かしみタバコの代わりに購入した葉巻をゆっくりと嗜んでいる。
ゆるりと煙を吐き出し、ホットワイン飲みアルコールの香りを楽しむ。
シャリウちゃんに勧めたホットワインが意外にお気に入りとなってしまったのだ、ブランデーもいいが夜景を見ながら暖かい酒を飲むのは風情があっていい。
ギシリ、と隣にも設置しているリクライニングシートにお酒片手にイルメシアが座る。彼女もくつろぎに来たようだ。
「私を放置するなんてひどいじゃない。とことん愛してもらわなきゃ逃げちゃうわよ? ま、私が張り付いてでも逃がさないんだけど」
「おお、怖い。蛇のように絡めたられてしまいそうだね」
フフフ、と笑い合い夜景を眺めながら良い雰囲気となる。散々貪り合った仲だ、お互い体の知らぬ箇所などないのかもしれない。
「ちゃんと私の娘も手籠めにしなさいよね? 初めてなんだから優しくはしてもらいたいけど……最近よく夜中にシャリウちゃんと覗きに来ているんだけど……興味のあるお年頃なのかしらね? まだ十代半ばなのにね」
そういうイルメシアは下手をすれば二十代前半にしか見えないのにな。まあ年齢の話は女性には禁句だろう。彼女は若い。それだけだ。
「あなたに救ってもらってからは何もかも変わってしまったわ……もちろん良い事よ? 王国で王妃をしていた時よりも楽しくて――幸せなんだから。余り言いたくないけれど。あの人の事忘れそうになってきているの、それほど今の暮らしの密度が高く、愛されているからかしら。王妃としての私よりも女としての私が本性だったみたい」
「そう感じてくれているのならば幸いだな。私は君たちに嘘を言いたくないと思っている。好意は素直にストレートに伝えて行く。もし不安になったり足りなくなった時は聞いてくれ。ありのままを伝えよう――もちろん今も愛していると言い切れるさ」
「――そう。ちょっと気分が良くなってきちゃった。いえ、かなり良くなってきちゃったわ……」
飲んでいたグラスをサイドテーブルへと置くと私のお腹の上に跨って来る。
首元にしなだれかかり甘く囁いてくる。
じっとくっ付いているのは屋外の気温差から来る肌寒さを、互いの体温が混じり合わう気持ちよさをゆっくりと感じているのだろう。
「ずっとこのままでいれたらいいのに……」
「今を好きなだけ楽しんだらいいんだよ。変わらないものはない――だがそれをいい方向に変えて行けばいい」
「たまにはいい事を言うのね」
「いつもいい事を言っているつもりなのだがね……まあ、巻き込まれ体質で突拍子もない事をしているのは認めよう」
「――んむっ……」
心が少し傷ついたのでお返しに彼女の唇を貪り食う。
「――もうっせっかくあなたの暖かさを楽しんでいたのに……ムラムラしちゃったじゃない……責任取りなさい」
彼女への返事はお姫様抱っこをして私の寝室へと運び始めた。
キルテちゃんとシャリウちゃんがまたやってるよ、というジトめを向けてきているが勘弁してほしい。
腕の中にある彼女の重さが心地い。




