戦いですわ
[各魔法少女部隊は後方支援に当たれ。特殊部隊の射線には間違っても入るなよ]
数百にも及ぶ全高五メートルの魔法少女のデバイス機が海上を舐めるように編隊行動を取る。広域通信から入って来る他の魔法少女の部隊の通信が機体内部に流れている。
私はすでにダンタリオンに乗機し、特A級の結晶体の上空に滞空している。
衛星高度から魔法少女の部隊を観察している状況だ。数十門からなるM.P.C.C兵器も機体周囲に展開している。
魔法少女のデバイス機で結晶体が手に負えなくなれば即座に始末できるように待機している。災厄個体と言う抑止力ではなく彼女達がこの世界で力という物を見せつけなければ抑止力足り得ないからな。
機体内から部隊長であるマーガレットへ通信を繋ぐ。
「間もなくデバイス機の射程距離に入る。その機体の装甲強度は充分結晶体の攻撃にも耐えるはずだ。もし手に負えなくなれば私が介入しよう」
スクリーンに投影された少女、マーガレットは唖然とした表情をしている。
「? どうした? なにか問題があったか?」
『い、いえ、その、あなたが……おじさまだったなんて知らなかったの(やだ、意外と好みかも……)』
恥ずかしそうにもじもじとしているが小声で喋ってる声ももれなく聞こえているのだが、そういえば人間形態を見せたことがなかったな。
「これが本来の私の姿だ。最近は黒猫の姿に馴染んでいたからな」
『そ、そうなのね。……ん、う゛ん! 射程距離に入り次第攻撃を開始しますわ。あなたの手を借りなくても私達の部隊だけで特A級を撃滅しますわ!!』
「期待している」
そう言って通信を切る。特A級すら撃破できればこの世界の脅威はほぼなくなるだろう。夢を抱いて魔法少女になり、妖精に利用されて来た報われない幼き魂に救いを。
◇
望遠モニターに巨大な結晶体が表示される。 間もなくこの機体に装備されている魔砲の射程距離に入る。
「影丸、射撃のサポートをお願い。それにしてもあの人は凄いわね。こんな期待をホイホイ用意しちゃうし妖精たちを支配してしまうなんて……」
『了解でゴザル。かの御仁は災害のような方でゴザル。敵対すれば絶望しかないが支配されてしまえば揺り籠のような存在になるでゴザルよ、ある意味幼き少女達を食い物にしていた妖精種族への罰であり救いかも知れぬでゴザル』
「…………そうね。歪な関係が修復され今後は人類と妖精が共存するしかなくなったわ、私達魔法少女にとっては救世主のようなおじさまね。あの方に彼女とかいるのかしら? もしかして結婚とかしているのかしら…………」
『……マーガレット殿がジジ専とは知らなかったでゴザルな……射程距離に入ったでゴザルッ!』
ロックオン可能のアイコンがモニターに表示される。各デバイス機に通信を繋いだ。
「各機! 魔砲準備ッ! 目標結晶体の中心部を狙うわよっ! ――――撃てッ!!」
数百に及ぶ機体から魔砲が放たれた。放たれた光線は結晶体に照射されじゅくじゅくと溶断していく。
「魔法力が持つ限り照射し続けて!」
結晶体の核に届くまで魔砲を照射し続けなければ弱点に届かない、このまま核を撃破できれば作戦の成功となる。
しかし結晶体から高熱源反応が発生する。
「――――攻撃中止ッ!! 各機散開!」
マーガレットが各機に指示を出した数瞬後極大なエネルギービームが通り過ぎて行く。回避したのもつかの間、ビームが細かな線に分裂すると魔法少女が登場するデバイス機を狙い撃つ。
その攻撃速度は飛行速度を上回り各機に命中し煙を上げて行く。
「ダメージレポートッ!!」
モニターに数百のメーターが瞬時に表示されるもオールグリーンで彩られている。
初撃のエネルギービームーならまだしも細分化された攻撃ではデバイス機はダメージを負っていないようだ。
『――ノーダメージでゴザルな。この機体強度凄まじいものでゴザル』
「最高ですわっ! 各機反撃開始っ! 回避行動を取りながら各自の判断で攻撃せよ!」
『了解』
クロベエの元、VRシミュレーションでの連携訓練がここに生かされている。撃墜されるかもしれないという恐怖はデバイス機の堅牢な装甲によって払拭された。
全方位から繰り出される攻撃は巨大な結晶体をドンドン削り取っていく。
「このままいけば結晶体の核に攻撃が――」
『フラグでゴザルなぁ……』
巨大な質量である結晶体がドロドロに溶けだし周囲を飛び交うデバイス機に取り付いた。膨大な熱量にも耐える装甲だが接触面からの浸食を開始する。
マーガレットのデバイス機のモニターには浸食警報のアラートが鳴り響く。
「こんなの今まで見た事も聞いたこともないわッ! 浸食はあり得ても粘性体に変化するなんて……」
『不味いでゴザルよ! いくら装甲に耐性が有れども関節部から浸食が始まっているでゴザル!!』
部隊のデバイス機がドンドン粘性に変化したインベーダーに取り込まれていく。
通信回線から部隊員の悲鳴が聞こえて来る、辛うじて粘液に捕らわれなかったデバイス機に後方へ退避するように指示を出せた。
「半数以上が捕らわれたようね……、機体からの脱出もままならないわ! クロベエさんに助けてもらうしか――」
『ウ゛ウ゛ゥゥゥゥゥア゛ア゛ッッッッァァァァァァァアアアア!!』
通信回線からシャルロット機からの叫び声が聞こえだす。
「なにっ!? シャルロットさん!?」
モニターの表示が切り替わりシャルロット機を映し出した。その映像にはパステルピンクのシャルロット機が炎を纏い、機体に纏わり付いた粘性体を焼失させていく。
「!! 各機ありったけの魔法力を機体周囲に展開ッ! まとわりついた粘性体を振り払って!」
魔法少女とは個人個人特異な属性が必ず備わっている。炎や風、雷や光など。
マーガレットも得意属性である雷を機体の周囲に展開して粘性体を振り払う事に成功した。
粘性体を振り払うのに不利な属性である水系統の魔法少女達の救助を行いながらなんとか後方に下がることに成功するマーガレット。
「シャルロットさん! 大丈夫ですの!?」
魔女と化したシャルロットの機体だけが膨大な熱量を纏い、粘性体を殲滅していく。その様は通常の魔法少女が出し得る出力ではなく、自らの機体を自損しながら敵を焼失させていく。
マーガレットの通信にも応答せず暴走している。
「ッ! 後方から粘性体を魔砲で援護射撃を開始するわ! シャルロットさんに当たらないように注意して!!」
自損しながら暴走し突けるシャルロット機に怯えるも援護射撃の命令を下す、暴走が収まるまでに敵性体を殲滅させるには援護するしかない。
「シャルロットさん! 炎をコントロールして! そのままではあなたまで燃え尽きてしまいます!」
通信で声を掛け続けるも目に見える粘性体を殲滅し続けるシャルロット機、太陽の如き炎を見に纏う姿は魔法少女達から言葉を失わせる。
しばらく援護射撃を続けて行くうちに周囲に飛び散った粘性体は焼失し、シャルロット機の攻撃がインベーダーの核に届いた。だがシャルロット機の損傷もはげしく両足と左腕が欠損し、コクピットブロックに亀裂が入っている。
「シャルロットさん!!」
マーガレットが叫ぶと同時にコクピットハッチが崩壊し、インベーダーの核に機体の右腕が突き刺さった。
ハッチが崩壊し望遠モニターに映るシャルロットの姿は無残にも焼け爛れ、眼球すら剥き出しになっている。炎の概念を司るフラウロスの耐性が強く、身体の崩壊を免れているのだろう。
厳戒以上の出力を出し続けたシャルロットの命の灯が尽きようとしている。
シャルロット機の右腕の貫き手がトドメとなったのか、粘性体の核の明かりがゆっくりと消滅していき。作戦の成功が確認できた。
「――!! クロベエさん! シャロットさんを助けてッ!!」
返事を聞くまでもなくシャルロット機のコクピットに黒猫の姿が出現すると、シャルロット機ごと銀が包み込んだ。
全てが銀に取り込まれ黒猫の体内へ収まっていく。
「そんなッ!」
『慌てるな。シャルロットは無事だ。今修復を行っている最中だ、終わり次第会える』
機体の通信にクロベエの声が聞こえてくると、一先ず安堵の溜息を吐いた。
『――作戦は成功した。各機撤収せよ。今回頑張った君たちには希望する報酬を出すつもりだ、期待していてくれ――よく頑張ったな小娘たち』
クロベエからの労いの言葉で繋がった通信先から歓声が響き渡る。中には溜息だったり、鼻声だったりするが一先ず安心しているようだ。
「疲れましたわ…………クロベエさん。報酬楽しみにしていますわよ?」
『ああ、希望があれば何でも言ってくれ。私にできる事なら叶えよう』
もじもじしながらモニターを眺めているマーガレットは勇気を振り絞ってクロベエへと質問をする。
「あ、あのクロベエさん。質問なんですけど……」
『ん? なんだ?』
「報酬には…………クロベエさん自身は入ってますか?」
その質問内容は三百人もの魔法少女達に繋がった回線にも流れ、シンと通信が静まり返った。
空中に浮かんでいる質問された黒猫は尻尾がピンと立ち、驚いているのが分かる。
『…………“そういう意味”での報酬なら“可”だな。まぁ、応相談だ』
「――ふふ。楽しみにしていますわ」
そのクロベエの返事の内容に、広域通信に魔法少女達から黄色い声が聞こえてくる。
その穏やかな空気のまま撤退が開始された。
もちろん後方に待機していた部隊にも作戦の成功が伝えられると、歓声を持って迎えられる。戦闘内容の壮絶さも世界中に中継がされており、その戦いぶりは誰の目から見ても称えられるものであった。




