人類ヤバイ
グラグラと室内に置いてある物が大きく揺れ始めた、これはかなりの規模の地震だな。数分経っても収まらず近くにある建物の看板や水道管が破裂して水が噴出している。
政府が設定している緊急事態の際に発令されるアラートが外に鳴り響き始めると街に住んでいる人々が避難シェルターへ移動を開始する。
現在本条家が住んでいるマーガレットがオーナーのマンションの防備は要塞並みに頑強にしているので避難する必要はないのだがな。
そう考えていると開けていた共用部側の窓にマーガレットである如月リツコが制服姿で慌ててやって来る。魔法少女の姿ではなくても雰囲気にお嬢様風の上品な空気を漂わせている。
「緊急避難命令が出されましたわ! 早く非難を……」
「この建物は避難シェルターより頑強だぞ? 核ミサイルを数百発撃ち込んでも壊せないほどの強固さを保証する」
「…………しなくてもいいですわね。世界で一番安全な建物かもしれませんわ、両親にもこちらに避難するように伝えようから?」
このマンションへ引っ越してから一月ほど経つがその期間中に地下に兵器を格納する空間を作ったり、迎撃砲台も壁面に埋め込み屋上にはインベーダーの観測装置を備えた。私達に傘下に入っている近場の魔法少女の集会所にもなっており軍事的な要素を備えている。
『恐らくインベーダーの大規模侵攻の影響でゴザル…………数体が空間より現れるくらいでは次元に歪が生じないのでゴザルが、この規模の次元振動ならば今までに経験した事のないほどの侵攻でゴザルよ』
「――――今、端末に情報が入ったんダヨ~」
【世界魔法少女連盟が世界中にインベーダーの大規模侵攻を確認、魔法少女の緊急招集を発令する。世界各国の指定ポイントへ全魔法少女は出撃せよ。――――なお上位ランクの魔法少女は太平洋上に出現した特A級のインベーダーの殲滅作戦に参戦せよ】
日本の都心に出現している五体の特B級インベーダーの望遠映像が表示され、現在判明している特性や自衛隊の支援火器類がリスト化されている。
自衛隊基地からの航空爆撃作戦が間もなく強行されるとの事、一般市民の避難が間に合わずともだ。それだけ今回のインベーダーの侵攻は世界的な危機であるとの判断なのだろう。
私達の魔法少女の寄り合いのような組織には公式には認定されていないがインベーダーの殲滅の外部委託のような仕事を現在行っている。報奨金に結構な上乗せをしてもらい他県への派遣業務も行っている。
上位ランクの魔法少女を数度ほど殺害していったところ白旗を上げ、渋々非公式的な組織として認めさせた。報奨金の増額はある意味、慰謝料や詫びの気持ちだろう。
私が開発した魔方陣を効率的に運用できるアイテムや高性能な端末を支給してAIにサポートさせているので、魔法少女同士の連携力や殲滅力も向上し魔法少女の組織への加入も増えて行っている。
政府の公的組織や自衛隊も下手に手出しをできない程の勢力になりつつあるので、災害個体指定された私や、魔女という二つ名を手に入れたシャルロットの名を出す事さえはばかれている。
「――――最上位の装備を魔法少女に支給しよう。我が組織にも懇願するように依頼書が入ってきたようだ、各自命令に従い行動しろ。もちろん報奨金はたっぷりと弾むことを約束すると伝えてくれ」
組織に所属する魔法少女に我々の本部への招集を掛ける。最上級の装備の無償支給も忘れずに記載する。
私が開発し販売、もしくは貸与した装備やアイテムはかなり好評で、魔法少女の間では高額で売買されるほどの人気を誇っている。政府組織への販売の打診もあったので廉価版ではあるた少量程出荷もしている。
もちろん、セキュリティもしっかりしておりフレンドリーファイヤができないようにロックを掛けている。解析して自らの技術に取り込もうとしても他世界の技術をし要しておりブラックボックス化してあるので無理だろう。
「分かりましたわ。この地域からは少し指定ポイントは離れていますけれど…………」
「地下施設にある航空兵器の使用許可を出そう。支援AIが搭載されているので行先を指定すれば自動航行と防衛行動を行ってくれる」
「了解しましたわ。――――ですが中々攻撃的なAIさんでちょっと心配なんですけれども」
「大丈夫、死ぬのは敵だけだ」
飛行テストの際に自衛隊の航空機から攻撃を受けた際に反撃を行い、消し炭にしてしまった事だろう。飛行申請は行っていたのでこちらは悪くない。
国から抗議の話もやってきたが数十機ほど国の戦力中枢である魔法省の上空を飛ばしてやったら何も言ってこなくなったな。
「みなとにトトナッシュ。お前たちは私と一緒に太平洋上空の特A級の殲滅作戦を観戦しにいくぞ。向こうの指揮下に入れられてはたまったものではないからな」
「は~い。特A級ってどれだけ大きいんだろうね? トトナッシュ~」
みなとは子供の様にはしゃいでいる。観戦するとは言ったが…………まぁあながち間違いではないな。
「遠足じゃないんダヨ!? きっと物凄く大きくて恐ろしいんダヨ~」
みなとより頭二つ分小さな銀髪の幼い子供。
トトナッシュ用に調整した素体でありビスクドールのようなくりくりとした大きな瞳と、透き通るように輝く銀色の髪の毛が特徴的な幼女だ。
妖精であるトトナッシュの人格は妖精種族でも幼い精神年齢であり、本人の年齢に調整したところ大分幼い見た目になってしまった。
彼女はその幼い素体に最初はプンスコ怒っていたがみなとにかわいいかわいいとおだてられて気に入ってしまったようだ。あの二人はなんだかんだ言って相性が良いのかもしれないな。
「準備ができ次第出発する」
次元振動は未だに収まっていない。各地に続々と出現するインベーダーは魔法少女や人間達に襲い掛かっている。
世界の理からすれば動植物と人間の区別は付けていないのだろう。たとえ人類が滅びようともありのままの地球、豊かな自然が残りさえすればいいのだから。
◇
『儀式魔方陣展開――――全力で魔法力を込めろ! 照準合わせっ!』
上空に待機している指揮官である魔法少女の号令で数百人規模の魔法力が込められた陣から極大のエネルギーの奔流が感じられる。
妖精種族と魔法省が共同で開発した儀式魔法を応用した極大光線魔方陣が展開されている。
数百人規模の魔法少女達が苦悶の表情を浮かべながらも全力で力を注ぎ続けている。
目標はもちろん遠方にいるはずなのに圧迫感を感じる巨大な結晶体。その全長は成層圏にも届き得るほどの大きさだ。
その姿を見ると共同研究し世界でも有数の戦力を獲得することが出来た自慢の儀式魔法陣がとてもちっぽけに思えて来る。
「私達人類はあのインベーダーに勝利する事が出来るのか……? ――――充填率はどうだ? 儀式魔法陣の規模を大きくしてでも魔法力を込め続けるんだっ!!」
部下の魔法少女へ八つ当たりの様に指示を出していく、あまりよろしくは無いのだがあれを見ればそうしたくもなる。
「今までの奴らは全力ではなかったと言いたいのか? まるで我々が馬鹿にされている様ではないか…………」
しばらくすると儀式魔法陣絵の充填が終了し発射シークエンスに入る。
「魔法力充填完了…………カウント始めッ!!」
オペレーターがカウントを始めるとともに結晶体の発光現象が始まった。儀式魔法陣が増幅した魔法力に反応を示したのだろう。――――マズイッ!
「カウント破棄ッ! 今すぐ撃てぇえぇぇぇぇぇえぇえッ!!」
――――キュオッォォォォオォォォオッ!!
断末魔のような音を鳴らしながら儀式魔法である光線が放たれた。結晶体の表面がジリジリと溶かされていくが…………。
嫌な予感がした。発行する光が小さな粒へと分裂していくと即座に部下たちへと命令を飛ばす。
「――――総員今すぐ海に潜るんだッ!! 反撃が来るぞッ!」
――キュカカカカッ。
断続的に致死に至るであろう熱量を含んだ淡い光が雨の様に周囲に降り注いだ。
光線や、熱線の威力が少しでも減衰させる為に海中へ飛び込むように命令したのだがどれだけの魔法少女が生き残っているであろうか……。
魔法力による感知を周囲へ飛ばしてみると彼女達の反応が三分の二程に減ってしまっていた。この作戦には緒戦として六万人程の魔法少女が参戦していたのだが、今の攻撃で二万人も死んでしまったのか…………。
敵の攻撃が止み海中から顔を出して周囲を窺ってみると、焼け焦げた異臭が周囲に漂っていた。
障壁を全力で展開したのだろう、身体は半端に焼かれ苦しんで死んだことが伺える魔法少女。上半身が消し飛び海に漂っている死体、海には大量の血液が流れ込み悲惨な色に変わってしまっている。
「――――――体制を立て直すぞ…………。一時撤退だ。この状況では士気すら保てないだろう」
通信機を介して撤退指示をすぐさま出した。もしかすると生きている者もいるかもしれないがインベーダーに認識されている現状、撤退しなければ全滅もあり得る。
悔しいがあの巨大な結晶体への対抗策が私達魔法少女には思いつかない…………。もはや手段は選んでいられない。
「撤退が完了したら世界魔法少女連盟に魔法核兵器の使用を進言する。大気圏内がどのような状況になるか分からないがな。人類が絶滅するか人の住めない世界になるか二択だろう…………運が良ければ故郷が残るかもしれないな」
本当に最終手段である秘匿兵器の使用は行ってはならない。だがどうすれば数十キロもの巨大な結晶体を撃滅できるというのだ?




