証拠隠滅
シャルロットが炎を纏いながら自衛隊基地内を歩いて行く、周囲からは集まった魔法少女と自衛官の連携攻撃が放たれる。
「どうして私を殺そうとするの? どうして私の邪魔をするの? どうしてそんなに――――弱っちいの?」
掌を“敵”にむけるとフラウロスの概念兵装が付与された炎を放射状に放つ。
敵から放たれた弾丸や魔方陣から繰り出される氷や、雷などを巻き込んで消滅させていく。――――人間だった残り滓が地面にはらりと舞い落ちた。
「――――ん。何かが入って来る…………あったかいなにかが」
シャルロットの存在が強化されていき肉体的にも魔法力も増大していく、特に魔法少女の魂は妖精に加工され上質な糧となってくれる。
シャルロットはその快感に酔いしれ空を見上げながら涎を垂らしている。
周囲に当たり散らかすように炎をバラ撒いていき、基地内は消えぬ炎が広がり被害が拡大していく。
上空から見た事のある魔法少女達が大声で話しかけて来る。
「シャルロットさん!! なぜあなたがこのような事をしていますの!!」
マーガレットが両手に長剣を携えて声を掛けてきた、その表情は信じられない物を見る顔をしている。
「――――私が答えよう」
どういう答えを出すか分からないがこの魔法少女達はあの結晶体との戦いを共にした連中だ。現在のシャルロットは判断能力が低下している為私が出るしかない。
「先日の戦いの責任を全て被せられ、殺されそうになったのだよ。そして魔法少女が妖精種族が身体を得るための政府が差し出した生贄だとも言っていたな」
あっさりと妖精種族と政府の契約内容を離してしまったがすぐには信じられないだろう。現に嘘と決めつけながら攻撃態勢にはいっているものもいる。
「――――私とシャルロットに攻撃を仕掛けてもいいが。今、君たちに説明をしているのは先日共に戦った縁があったからだ。自衛隊の命令に従って戦闘行動に入るのなら――――始末するぞ?」
「ならばあの殺戮行動を辞めて下さいっ!! 関係のない魔法少女まで巻き込まれているんですのよ!?」
「自衛隊の関係者は証拠を消す為に全て殺すことは絶対だ。――――魔法少女達は……攻撃をせずに避難でもしていろ」
「殺害を辞めて欲しいのです!! シャルロットの手を汚させるわけに――――」
有無を言わさずにマーガレットの集団から殺傷性の高い魔法弾が飛び込んでくる。炎の障壁で防がれ微塵もダメージを与えられていない。
「――――それが答えでいいんだな?」
「ち、違います!! 皆さん攻撃を辞めて下さい!!」
攻撃を繰り出していないのはシリウスにエクスフレイム、そしてマーガレットだけだ。彼女達と妖精は私の実力を知っているし契約に縛られているからな。
「マーガレット! 私の知り合いの魔法少女だって殺されたんだよ!! いくら自衛隊が私達を囮に使ったからって殺すことないじゃ――――かぺっ」
会話をしていた魔法少女の顎から上が高速の蹴撃により粉砕した、目玉と脳漿が飛び散り柔らかい何かがマーガレットの顔に飛び散った。
蹴りを放った足にドロリとした脳味噌がこびりついているのを気にもせずに次々とターゲットを変え蹴り殺していくシャルロット。攻撃を仕掛けてきている者をなかば自動的に殺害していっている。
「――――逃げなくていいのか? 今のシャルロットを止められる者はいないぞ? 参考にしてもらいたいのだが人間を殺すたびに身体能力は上がっていくし魔法無効化の障壁も展開している。挑んでみるか?」
頭部から魔法少女の脳漿を被り、血で染められた目元を拭いながら力なく顔を横に振るうマーガレット。
「もう……もう、彼女は止められないようですわ…………ですが覚えておいてください。シャルロットを血の道へ誘ったあなたを絶対に許しませんわ」
「もともと彼女には素質があったのだよ、私を召喚した時点でね。支援の魔法を掛けはしたが何も言っていないぞ?」
「それでも止めることができたハズ。――――行きましょうシリウスにエクスフレイム…………」
シリウスとエクスフレイムは一度も私と目を合わさずに去って行った。
すでに自衛隊の基地の半分程が炎に包まれている、攻撃したものの歯が立たず逃げ出す魔法少女もいるがシャルロットは止まらない。一度でも攻撃したものは自衛隊基地に張られた結界内にいる限り彼女から逃げることはできない。
シャルロットは声を発する事もなく淡々と人間を殺していく。
今は身体強化の魔方陣を継続して展開し素手で殺すことに快感を得ているようだ。
私は建物の破壊痕や死体などを銀に飲み込ませ、魔法少女だけを分別し調査と素材としての有用性を調査していく。
作業を行っていると後方支援に回っている魔法少女はまだ生き残っているのが確認できる。
彼女達へ散布した銀の霧を介して神の権能/絶対命令権を行使する。
「ここで知った情報を一切漏らすな。――――大規模なインベーダによる侵攻とでもごまかしておけ」
命令を広範囲に渡って伝令すると魔法少女達の瞳がどんよりと曇った。
「シャルロットの方はそろそろ殲滅が終わりそうだな…………命令とはいえ攻撃を加えなければ良かったものを」
また一人の魔法少女がシャルロットに内臓を掴みだされ、断末魔を上げて死亡した。
そのあたりに毟り取った臓物を投げ捨てると満足そうに微笑んだ。
「――――シャルロット、その辺にして置け。後は私が後処理を行う」
彼女へ≪清浄≫を掛けると身なりが一瞬にして綺麗な状態になる、瞳の光が濁っている以外は元通りになった。
「……………………ケヒッ………………ちょっと疲れちゃった――――おやすみなさい…………」
先程まで近接戦闘ばかりを行ってきた為疲れが出たのだろう、崩れ落ちるように地面に座り込んだ。
あとはこの自衛隊基地を消滅させるだけなので、シャルロットを自宅の部屋まで転移させて送り届けるとする。
異空間より銀の軍勢を呼び出すと上空へ舞い上がり地面に向けて魔法の砲弾を放って行く。
轟音が響き渡り瞬く間に荒野となっていく――――私の直上でマーガレットが険しい目で私を睨みつけているな。
「どうした? 攻撃をしてこなかった魔法少女達はちゃんと生かしているぞ?」
「あなたはこれからも襲撃してくる人々を殺し尽くしていくつもりなんですの?」
「おかしなことを言う。襲撃されたのならば殺すしかないだろう? なるべく証拠が残らないようにはしているが…………まぁ、政府組織にはバレるだろうな」
「…………あなた達が殺した魔法少女がいなくなることでこの県を含む他県もインベーダーの被害を免れなくなりましたわ…………」
「先程行った事は真実だぞ? 妖精種族が人間の身体を求めて政府と取引をした。魔法少女を生贄と捧げる事で国は魔法技術を取得でき、妖精は自分たちの依り代の為に魔法少女の素体を欲している。――――そうだよな? 影丸、ノックス、ベガ」
彼女達が持っている武器化した妖精種族へ話しかけた、しばらく沈黙を保っていたがボソリと呟き肯定し始める。
『ああ、クロベエ殿の言った通りでゴザル。我々妖精種族がこの地球にやって来た目的は人間としての素体が目的だったのでゴザルよ。そしてインベーダーがやって来たのも我々のせいでゴザル…………』
「!! 影丸っ!? 一体どういうことですの!?」
『――――この世の理にそぐわない我々妖精種族を排除する為に世界が生み出した抗体。それがインベーダーの正体、侵略者と名付けたのは皮肉でゴザルな。我々の方が人間を食い物にする侵略者でゴザル』
「そういう事だ。そもそも、妖精たちが来なければ、政府や国が奴らと取引をしなければ――――インベーダーという侵略者は生まれなかったんだよ。それと、少女達は魔法を使う度に妖精種族へと身体が改変されて行っているから身体を明け渡したくなければ魔法少女を辞めるか魔法を使わないことをオススメするぞ?」
影丸と私の説明に少女達は沈黙するしかない。今まで信頼し共に戦ってきた妖精種族が自身の身体を手に入れるために作り変えていたんだからな。
基地の殲滅もそろそろ終了するところだし撤収するかね。
「マーガレット。何か困ったことが有れば私に相談すると良い。基本的に敵対者は全て殺し尽くすがお前は対話を求め、魔法少女達を止める立場に付いた。妖精種族を殺し尽くすこともできるし、制約を課すこともできるので奴らに身体を乗っ取られることは無くなると思うぞ? エクスフレイムにシリウスもだ」
そう言うとシャルロットを尻尾でつかみ転移を開始する。結局先に送ることが出来なかったな。
「――――援軍や偵察班が来る前に撤収すると良い。巻き込まれると軍事裁判にかけられて妖精の材料にされてしまうぞ?」
「………………後日、連絡いたしますわ…………」
「ああ、待ってるぞ」
シャルロットの自宅へと転移すると見慣れた室内へ着地する。彼女の変身を強制的に解除させるとベットに優しく寝かせる。
「トトナッシュ。力が漲っているんじゃないか?」
共にいると宣言していたのでシャルロットとの契約を強化して魂に紐づけをしている、魂を吸収して強化される度にトトナッシュも同様に強くなっているはずだ。
『…………ここまでとは思わなかったんダヨ。妖精の幹部連中が束になっても私には敵わないと確実に言える実力を手に入れたんダヨ~、力を手に入れたはずなのにクロベエ様の底が一向に見えない事が恐ろしくもあるんダヨ…………』
「まあ、数千程度の魂では私の力の足しにもならないな。それと魔法少女の素体をかなりの数を作れそうなのだが…………何かに使えるかは?」
『!! ――――私の知り合いを引き込む為の交渉材料にはなるんダヨ。ノックスやベガ、影丸は事情も知っているし引き込んでおいた方がシャルロットの都合がいいんダヨ~』
「では、そういうふうに連絡しておいてくれ。どうせ雑魚が今後も湧いてくるだろうから戦力を増やしておいた方がいいだろう。――――私が出ると加減が効かないんでな」
『そうなんダヨ~、一回の戦闘で数千人は死んでいる気がするんダヨ』
「私は少し外に出て来る。みなとのケアをよろしく頼んだぞ? もう身体を手に入れたんだから抱き締めてやれ。人肌という物はストレスの緩和にいいと聞くぞ?」
『私は百合属性じゃないんダヨ。でも、ちょっと疲れたからそれもいいかもしれないんダヨ~』
トトナッシュにみなとを任せて真奈美の自宅へと転移する。疲れた時は人肌に包まれる事がストレス発散の極意だから――な?




