プッツン
県内にある自衛隊の訓練施設へと魔法少女の緊急招集が行われた。日本国内には十万人を超える魔法少女が存在しているのだが県ごとだと精々二、三千人ぐらいか?
市区町村ごとに一定数以上の魔法少女が所属する事を義務づけられており、妖精種族もその契約を遵守している。
戦闘行動が増えれば増えるほど魔法適正も上がっていき妖精の素体としても優秀になっていく、さらにインベーダーの撃破数も多ければ国からの手厚い支援や賞金も手に入れられ良い暮らしができるということだ。
妖精種族も素体を手に入れられればいい暮らしがしたいなんて人間と同じような種族なんだろう。
一人一人の聞き取り調査と軽い面談が行われるのだが、魔法少女の人数が多い為集まる時間帯をずらして対応しているようだ。
――神の権能/|嘘と真《lie and truth》
個人情報保護の観点から、魔法少女達は変身した姿でここに集まっている。シャルロットの肩に不可視化して帯同しているので気づかれないうちに妖精種族へ極小の銀を撃ち込んでいく。
神の権能を使用して銀の概念を歪め、この施設一帯へと散布している。今の所気付いたものは居なさそうだな。
『(クロベエ様……もしかしてこの銀を散布しているのは…………)』
「(人間の素体を獲得したトトナッシュには感知できるのだったな。ここに居る全ての人間と妖精に仕込みを行っている所だな。すでにこの場を掌握しているからいつでも殲滅可能だぞ?)」
『(なんでもありなのですね…………ああ、我が種族たちよ早まるんじゃないですよ…………)』
ひとりづつ入室していく魔法少女達を眺めながら雑談をしているとシャルロットの順番が回って来た。
入り口には銃を携えた自衛官が二人立っている、シャルロットを視認すると少し空気が張り詰める。
「…………MGC番号・三四二六七二――――魔法少女名、シャルロットで間違いないな? 申請している使い魔【クロベエ】の姿が見えないが?」
「えっと、昨夜から姿を見かけないんです……私も心配しているんですけど…………」
彼女肩に乗っていることは秘密にしている。実際、真奈美の家に行ったきり姿を見せていないしな。彼女は嘘を付くのが苦手そうなので隠れているのは黙っている。
「そう、か。――――武装している妖精種族をこちらの預けて入室しろっ!」
手に持っていたトトナッシュのステッキを奪い去るとドアを開け強引にシャルロットを部屋へ押し込んだ。
私は彼女に不可視の障壁を張りつつ部屋の天井に張り付いて置く。
部屋の中央の席に座らされると手を後ろに回されて手錠を掛けられた、まるで犯罪者への対応の仕方だな。今すぐにでも殺したくなってくるが一先ず話を聞くとするか。
「――――ふ、ふえ?」
シャルロットは状況が飲めなくて混乱しているが状況は無情にも進んで行く。
室内に並べられた机に肘をついた自衛隊の将校が数人シャルロットを蔑んだ目で見ている。手元にある報告書を読み込むと溜息を付いて尋問を始めた。
「先週発生した特D級の群体型インベーダー討伐作戦への参戦しているな。――甚大な被害拡大に伴い特B級へランクが上昇しているが…………」
背後に待機している自衛官が室内の照明を暗くするとシルクスクリーンに戦闘状況の推移がデーターとして表示される。
「夜から始まった戦闘が午前三時ごろになると隔離結界の崩壊の予兆が発生、政府魔法省は街の放棄を決定、高度爆撃作戦を即座に承認した。――同時に魔法少女の部隊へ撤退の指示を出した」
「――――えっ? 隔離結界の崩壊まで私たちを囮にしたって聞いたんですけど…………」
ドンッ。将校がテーブルを強く叩くとシャルロットの発現を遮った。
「そのような報告は上げっていない。撤退命令を発令されたのは事実であり、君たちはその命令を無視した、後日、軍事裁判に掛けられる予定だ。――独断専行し街を壊滅に導いた元凶と作戦本部は判断している」
投影された映像が切り替わると私こと、小さな黒猫の映像が映し出される。
「君が召喚されたと思われる災害個体、クロベエと言ったかな? そいつの攻撃と思われる腐食する雨により自衛隊に甚大な被害がもたらされたッ!!」
おそらく帯同していた魔法少女の妖精ビトレイヤーが撮影していた映像だろう、私が展開したダンタリオンの巨腕が怨嗟の塊を天に放つシーンが映し出された。
「――――そ、そんな…………。でもインベーダーは殲滅して人間は大丈夫だって…………」
「それは君がクロベエとやらに騙されているのだよ。一般市民もあの湖に飲まれて大勢亡くなっている。空を飛べない人間の事など魔法少女風情にはムシケラ以下かね!?」
「…………あのときクロベエが動かなければ私達は自衛隊の皆さんに殺されていました。彼は間違った事をしているとは思っていません!!」
口から泡を飛ばしていた将校は腰元の拳銃を引き抜くとシャルロットに銃口を向けた。周囲の人間は止めようともしていない。
「ふざけるなぁッ!! 妖精共の操り人形めッ!! 大人しく供物にされていればいいものを!! ――――軍事裁判などせずとも殺して妖精の素体へ回すか」
パァンッ!!
構えた拳銃から弾丸が放たれるもシャルロットの直前で弾かれてしまう。
シャルロットは目を瞑ってブルブルと震えていたのだが、片目を開いて不思議そうな顔をし始めた。
「愚かだな。妖精と取引をして幼い少女達を生贄に捧げているのだから」
不可視化を解除してシャルロットの前に姿を現す。背後に佇んでいた自衛官も拳銃を抜いてこちらへ照準を合わせている。
「!! 貴様かぁッ!! 我ら自衛隊にたてつく災害個体は!! ただで済むと思うなよ!!」
「ん? おかしなことを言う。――ただで済まないのは貴様らの方だが?」
尻尾を一振りすると構えていた拳銃が全て爆発して腰元の肉や、両手と共に弾け飛んでいく。
「がッ!! がぁああああッ!! クソッ! 悪魔め!!」
室内の自衛官たちが呻きながら呪詛を吐いている、ああ、なんと心地良い下種の断末魔か。
「おお、怖い怖い。――――実際に殺されかけたのだがシャルロット。こいつらをどうする? このままでは証拠がここに残ってしまい家族諸共、平穏な日々が壊されてしまうのだが?」
シャルロット。もとい、本条みなと。
彼女は魔法少女に対して幻想を抱きすぎた。所詮国からすれば妖精種族との契約上の生贄でしかないという事も理解したであろう。
選択しなければならない。――――殺すか殺されるか。
私を召喚したのなら君の胸の内に潜む狂気が存在するはずだ。そうでなければ私という災厄を召喚できるはずがない。
後ろ手に手錠を繋がれたままのシャルロットは俯いて表情が見えない、自衛官たちが救援の為の無線を飛ばしているので決断する時間はそう長くはない。
後方の扉が蹴破られると自衛官が雪崩れ込んできた、負傷した将校が引きずられ後方へ避難させると、魔法が付与された対インベーダー用の通常兵器がシャルロットへ向けられた。
「――――魔法少女・シャルロット!! 直ちに降伏せよ!! そこの災害個体は最優先殺害命令が出されている。魔法少女と契約している使い魔のであれば貴様が自害の命令を下せるはずだ!!」
「…………――――おとうさん、おかあさん…………」
「早くしろ!!」
気を急いた自衛官が一発シャルロットへ弾丸を放つも、障壁に弾かれて地面に転がり落ちた。
「殺、す? 自害さ、せる? 死、ぬ? ――――死死死死死死死死死死んじゃうのはぁ~自衛隊のみなさんデス~。クロベエは肉じゃががががが好きなんデス。家族の平和を守るのは魔法少女の使命なんデスッ!!」
目がグルリと回転するとシャルロットの瞳は濁り切り、暗い光が灯った。
シャルロットの手元にトトナッシュのステッキが飛び込んでくると形態変化が起こ禍々しい死神の鎌のようになる。
バキリッと手錠が弾け飛ぶとゆっくりと椅子から立ち上がり自衛官たちの方へと視線を向けた。
シャルロットは顔を傾けながら彼らをねめつけると、鎌を後ろの引き付けたのち――――放り投げた。
――ヒュウン。
部屋の壁を切り裂き、廊下にいる自衛官共々上下に分断された。
トトナッシュの援護により切断強化の魔方陣が付与された鎌は普通の人間など容易く殺傷せしめた。
自らが真っ二つに分断された事など理解できずに声にならない断末魔を上げて死んでいく、部屋には臓物から飛び散った血液と汚物の腐臭が漂い鼻が曲がりそうになる。
「キヒッ。キヒヒヒヒヒヒ――――家族家族家族の為為為。死んじゃったね死んじゃった殺しちゃった殺しちゃった」
顔を上にあげ涎を垂らしながらケタケタ笑い始めるシャルロット。良い壊れ具合だな。
『――――シャルロット…………傍にいた日数は少ないけれど君の事は本当に友達だと思っているよ…………私も共にいるから』
トトナッシュがシャルロットの意を汲んで身体強化の魔方陣を展開した。この状況をモニターしていた自衛官たちの援軍が次々にやって来るだろう。
だがこの気に内からの通信は全て私が遮断し、逃亡できないように結界を展開してる。移動が不可能になっていることにそろそろ気付くころだろうな。
「――――彼女の殺人処女の祝いだ。存分に強化を施してやろう」
闘神の権能、炎の悪魔の概念、膂力支援魔術、魔法無効障壁、精神高揚の付与を次々と行っていく。
「殺せ殺せ殺せ。【魔女】シャルロットとしての新生の時だ」
付与の仕上げとして殺した相手の魂を奪い取り自らの糧とする権能を分け与えた。同族を啜ってこそ人間としての卒業式となるだろう。




