爆撃
魔法力が切れた魔法少女達が戦線を離れて行く。未だに増殖し続けている結晶体の勢いは当初よりも増しており私の熱線による攻撃も激しさを増している。
浮遊盾の展開数も数百も超えておりかなりの範囲をカバーしている、その為戦線に参加している魔法少女の死傷者は皆無だ。
「――――マーガレットどうする?」
未だに仮の指揮を執り百人程の魔法少女を束ねている彼女に問いかける、私自身い手はいくらでもあるのだができる限り魔法少女の力に委ねたい。
「不味いですわ…………。魔法力の回復には適度な休息が必要なんですの――――時間が稼げるのなら発生源である中心地に攻勢を仕掛けたいのですが…………」
「私の行う攻撃をなるべく秘匿してくれるのならば時間は稼げるが――――どうする?」
「――――なにか理由がおありのようですね、指揮下にいる魔法少女達への通達だけでいいのならば出来ますわ。とてもいい子達ばかりでしたので……妖精種族の口止めは無理でしょうけれど…………」
「――――その時は妖精がこの地球上から消え去るだけだ」
浮遊させている盾の砲口に銀を混ぜた弾丸を装填する。
カキャン、と小気味いい音を立てて数百の盾が照準を敵結晶体に向けると――――発射。
群体である結晶体のコア部に命中すると青みがかった結晶がブルブルと震えだし銀色へと変色していくとこちらに向けていた矛先を反転させた。
「浸食弾――――これで貴様らは私の指揮下に入る。自らの身体を弾丸と化し我が軍勢を増やせ」
菱形の結晶を雑に繋げた銀結晶の軍勢は身体を変形させ回転しながら結晶体を迎え討つ。両手に備わったパイル状の武器が敵に突き刺ささると銀色に変化し新たに軍勢へと加わっていく。
数分後には数千機を超える銀の軍勢となって尚も周囲の結晶体を取り込んでいく。
「――――これは、知られない方がいい力ですわね…………けれどこれほどの大規模な術ですと隠蔽は不可のじゃないかしら?」
「ふわぁ、クロベエってホントに凄いんですねえ~」
『インベーダーの浸食タイプを超える速度に指揮能力。上司が黙っていなさそうダヨ~、我々妖精種族終わったんダヨ~』
「不穏な事を言うとその通りになってしまうぞ? ――――ほら、マーガレット物資は出してやるから障壁内で休息を取ると良い、戦線は私が維持しておこう」
周囲の魔法少女達はその光景に驚くも休息を取れることで安心する、私が出した飲み物や軽食を美味しそうに平らげて行く。
私もテーブルに紅茶を用意してスコーンをむしゃむしゃと食べ始める。もちろん尻尾を使って私が淹れている、こういう慌ただしい時だからこそ休息は贅沢に取るべきだ。
私達のチームの四人も淹れられた紅茶を飲みながらスコーンを楽しんでいる、複雑な顔をしてはいるがな。
「周囲に銀色のインベーダーもどきに守られているなんて変な話だね~」
「…………変と言うより異常、私のベガも怯えてさっきからずっと黙っている」
持ち上げた魔導書らしきものがパラパラとページが捲れている。あれが彼女の妖精種族だったのか、エクスフレイムのノックスはナックルダスターとハンマーの二形態に変化できるのか?
マーガレットは両手に装備していた長剣が手首に二つあるブレスレットの形態へと戻っている。会話してはいないがあれが妖精だな。
「――――マーガレットの妖精は挨拶もろくにできないのか? 私が支援しなければかなりの死傷者と重傷者が出ていたと思うのだが」
『――――申し訳ないでゴザル。拙者、影丸と申します。貴殿の中に潜む世界ともいうべきものに恐れ慄いていたのです…………嵐を過ぎ去るまで怯え隠れてようと思いましたが逆に失礼になってしまったでゴザルな。強力なご支援感謝いたします』
――マーガレットはフリフリのドレスに貴族然としたコスチュームだったので妖精の名もそれにあやかっていると思ったのだが…………随分と和風なのだな。
「そうか、礼は影丸の保持している魔方陣の複写でいいぞ。私に提供しておけばこれからの戦線が楽になるかも知れないぞ? ――ベガやノックスもな」
そういうなり各自の頭上に魔方陣を投影し始めて行く、話が早い奴らは嫌いじゃないぞ?
ふむ、妖精個人のオリジナルの魔方陣などもあるようだな、遠距離や近距離の部分強化の陣や運用ノウハウが垣間見えるな。
今なお戦闘を行っている銀の軍勢へ魔方陣をインストールしてアップデートを行っていく。
「――マーガレット、今休憩中の奴らの妖精にも同じ要請をしてくれ、今戦闘を行っている銀の軍勢のアップデートを随時行っているから戦闘が楽になるぞ?」
「!! わかったわ、見える範囲のインベーダーもどきに私のオリジナル魔方陣が展開されているからあながち嘘でも無いようだしね」
「もちろん、私にも利益が無ければ協力などせぬよ。こうみえてコレクター気質でな。あればあるほど私の機嫌が良くなる」
「それはあなたに返せる報酬と言う訳ね。こちらは情報の開示だけで減る物でもないし彼女達も快く受けてくれそうよ」
そう言うと話を聞いていた魔法少女達が先にやって来ると妖精に魔方陣を投影させていく。
支援のお礼もキチンと言ってくる当たり魔法少女に選ばれる基準は人格面のカルマも加味されていそうだな。悪く言えば純粋で騙され易そうだ、という感想が浮かぶ私は薄汚れた裏を見過ぎたせいだろうな。
私が用意した投影型の新型デバイスで簡易的な作戦会議が行われる。作戦立案者はマーガレットと私で結晶群体の発生源である市街地のマップが表示されている。
現在進行形で自衛隊による避難誘導が行われておりすでに隔離結界は意味を成していない。
銀の軍勢の増殖も現在の数は万を超えており強力な援護も期待できる、基本人数が五人でフォーメーションを組む。遠距離三、支援一、近接一のバランスをなるべく取っている。
各グループには銀の軍勢が護衛に数百機ずつついており、口頭で指示すれば命令も聞くことを伝えてある。
「――――ベテラン組が外縁、新人が中心部に隊列を組んで間もなく移動を開始しますわ。クロベエさんのご厚意で銀の軍勢が貸し出されるので使い捨ててもいいそうです、遠近攻守の簡易的な命令に従うのでうまく使って下さい」
「守備力が強固な浮遊盾も数個帯同させるのでとにかく進行方向の結晶体の殲滅を優先させてくれ、発生源の撃滅こそがこの作戦の要だ」
「そろそろ隔離結界の崩壊が始まります。魔法砲撃の角度に注意してください、もちろん命が優先ですので頭の片隅に覚えておくだけでいいですわ」
隔離結界が崩壊すれば市街地への被害が凄まじい事になってしまう、作戦を素早く遂行しなければ街の再興は不可能になるだろう、私は考慮などしないがな。
体力の回復やけがの治療が済み空中に百人以上の魔法少女が隊列を組んでいるのは壮観だな。皆、緊張の表情をしているがそれも仕方ない事だろう、発生源ともなれば結晶体の圧力も先程よりも強い筈だからな。
「総指揮は私、マーガレットが取ります。各隊長は戦況が変わり次第、逐次念話を行って下さい。負傷、撤退する際は銀の軍勢を帯同させますので――――それでは、作戦開始!!」
マーガレット隊である我々が先頭を切って突き進んで行く。銀色の壁が進行方向の結晶体を取り込むか破壊して進路を確保していく。
使い勝手がよさそうだったので銀の軍勢が十万を超えてからは異空間に順次収納していっているの内緒だ。なかなかの生産速度で私の懐が温まっていく、世界のリソースがほんの少し削れるが生産設備としては優秀なインベーダーだな。
もちろん殲滅する事も可能だが私が手を出し過ぎては、妖精種族にすぐさま脅威判定されてしまう。
我々の進行方向以外は阿鼻叫喚のままなのは頑張って欲しい。
タブレット端末に予測されている発生源までの距離は十キロに満たない、飛行速度はかなり出ている。道中に問題が無ければ十分も経たずに到着するだろう。
ギシリッ! 突如モノクロの世界である隔離結界が粉々に砕けて行き、通常空間へと戻ってしまう。すると上空に待機している自衛隊の爆撃機が視界に入って来る。
「――――なんですの…………? まさかッ!!!!」
今更ながらタブレット端末に周囲の魔法少女達への退避勧告が行われている、これは囮に使われたな。結晶体諸共魔法少女を殺しておいて避難勧告は出しましたと良いわけでもするのだろう。――――気に食わない。
隊列が乱れ慌てふためく魔法少女達。作戦の遂行は不可能だな。
――絶対命令権《我に従え》
「――――私が何とかする。落ち着いて隊列を乱すな。ちょっと奴らに死んでもらうだけだ」
強制的に命令された彼女達は私の命令に従い整列を始めた、強力な言霊に縛られ自己意識で行動が不能となっているはずだ。
――――ダンタリオンの巨腕。
ゾゾゾゾ、と空間を引き裂きながら私の本体の腕が出て来る。今回は金属系の装甲を纏っており邪悪感を抑えたつもりなのだが…………。
妖精種族たちがガタガタと震えている音だけが悲しく周囲に響いている。武装化している者が多い為顕著に聞こえている。
巨大な掌の先に怨嗟の籠ったエネルギーを凝縮させる、金切声が聞こえて来るが効率の良いエネルギー体なので気にしないで欲しい。
「クロベエ、あれ、なんなの?」
私と契約をしているシャルロットは絶対命令権の範囲外になっていたようだな。
「人間の負のエネルギーと言うべきものだな。嘆き、悲しみ、苦しみ、憎しみといった感情だ。攻撃という指向性を持たせれば中々いい性能を発揮するぞ? ――――ああ、あの腕のことか。私の腕なのだが?」
「ふえ? クロベエの腕おっきいんだね…………抱っこしきれないなぁ」
この子はちょっと純粋過ぎないかね? だからこそ魔法少女の才能があるのかもしれないが……。
目標上空の爆撃機。怨嗟の塊が両掌より放たれる。
自衛隊の爆撃機の横を通り過ぎて行くと機体が腐食していき、ドロドロに溶けていった。
されに上空へ登っていく怨嗟の塊が停止する。
「――――地上に群がる結晶体を喰らい尽くせ――【腐食の雨】」
パァンッ、と塊が周囲に飛び散ると赤黒い霧状の雲となり、血液のような雨が周囲に振り始めた。
「――――人間は対象外にしているから安心すると良い。着ている衣服は溶けてしまうがな」
建物も地面のアスファルトさえもドロドロに溶かしていく、結晶体に赤黒い雨が降れた瞬間に煙を立てて崩壊していく。
今この場には私独自の障壁を張っているため、腐食の雨の影響は受けない。
コンクリート壁がドロドロに溶け、鉄筋がむき出しになっていく。様々な建材の溶液が地に溜まっていくと周囲は巨大な醜悪な湖となる。
発生源が消滅した手応えを感じたので絶対命令権を解除すると魔法少女達のざわめきが戻って来る。
「――――赤黒いカラーリングをどうにかすればイメージアップに繋がるかね?」
「何もかも溶かすという特性自体が極悪過ぎてカラーリング程度じゃどうにもなりませんわ…………はぁ、作戦は失敗ですが目標は撃滅したのでしょう?」
「もちろんだ、爆撃機で我々共々屠ろうとした連中には死んでもらったがな」
「!! 私達を殺そうとしたのですね……。仕方がないとはいえ騙し討ちのようなことを…………」
ネット上に魔法少女諸共焼き殺そうとした映像データを密かに流出させている、魔法少女に対する世論の操作は不可能だろうがちょっとした腹いせの報復だ。
避難命令が意図的に遅らせていた事実も証拠として乗せてはいるが…………政府がグルなのだから意味はないだろう。いずれぶつかった際に彼らが死ぬだけだからな。
「ここにいる妖精種族へ警告して置く。私に逆らえば貴様ら種族諸共殺しつくす。この情報を上司に報告をしてもいいが…………その瞬間に貴様らの命が消え失せる事を理解しておけ」
精神生命体のみ感じ取れる重圧を根源へと叩き込む。多少武装が破損するがこれで多少は従順になるだろう。
「マーガレット。ここにはもう湖しか残っていない。残務処理があるなら今の内に済ませておけ」
「――――各員タブレット端末から報告書を提出する事。…………クロベエさんの事に関しては秘匿しなさい、もし政府に知られれば都心がこのような惨状になることを心得ることですわ。今回政府には私達魔法少女が囮に使われ、インベーダー諸共焼き殺されそうになった事実、決して忘れてはなりませんわ――――もし、悩み事や相談事があればわたくし、マーガレットの個人連絡先を教えますので連絡を待っておりますわ」
「私は敵対しない限りむやみに力を振るったりはしない。君達諸共焼き殺されそうになったのでな。そのことを覚えておいてくれ」
各員報告を行い素早く撤収を開始する。このままここに居ようとも現場検証などかなりの時間を取られてしまうだけだ。
上空から撮影を行っていた人工衛星の物理的破壊もすでに行っている、送信されたデータは残るがそこまで気にしてられない。
一同疲れた表情をしているのでサービスで≪奇跡の甘露≫を霧状に展開しておいた。彼女の頑張っている姿を見ていたからな、どうかゆっくり休んで欲しい。




