戦争
魔法少女に支給された端末からけたたましいアラームが鳴り響く、普段通りの依頼ならばここまでの通知にはならないはずだ。みなとは急いで飛び起きるとすぐさまシャルロットへと変身した。
『特級出現警報が出ているんダヨ!! 震源地は隣街で付近の魔法少女達には緊急招集が出されているんダヨ』
「インベーダー討伐の初出撃が特級なんてついてないよぉ~」
タブレット端末に表示されたマップには魔法少女を示す赤点が隣街へ急行していっている。これは、携行を義務付けられた端末に着いている発信機なのだろう、プライベートも糞もないな。
慌てて窓から飛び出していく彼女の頭に乗って成り行きを見守るとする。
「トトナッシュ、出現したインベーダーのタイプの報告は上がっているのか?」
『討伐難易度は特D級でタイプは群体型、個々の能力は低いけれど出現数が膨大なんダヨ! 隔離結界を何度も展開しているんだけど、破られたみたいダヨ~!!』
「という事は市街地への被害が甚大になっていそうだな、ここ最近そういう被害報告はあったのか?」
『結界を破壊するほどの規模は年に数回あるんだけれど…………事前に予兆が観測されるハズなんダヨ!? だから避難も間に合わずに緊急招集令が発令されているんダヨ!!』
端末のナビゲートに従い飛行するのに精一杯なシャルロットの耳には我々の会話が聞こえていないようだな。
震源地の周囲一帯に招集が掛かっており、端末に表示されている赤点の数は数百を超えている。こんなにも魔法少女が存在しているのにも関わらずインベーダーの殲滅はできていない、か。
あるいみ世界の免疫なのだから妖精種族が存在する限り繰り返される悲劇なのだろうな。
目的にち表示されている赤点がたまに消失していっている、おそらく発信機の反応が途絶えてのだろう。おそらくその魔法少女は――――。
しばらく目的にに向かって飛行していると目的地へ集まって来る魔法少女が複数確認できた。
髪の色が派手になったり仮面を付けていたりある程度の擬装を行っているが、あの理知的な生徒会長や赤髪のやかましい小娘、目元を隠したネクラ少女達も招集されていた。
「みな――――シャルロットさんも来ていたのですね」
今、名前で呼びそうになっていたな。意外とポンコツなのか? この生徒会長は。
「せ、生徒かいちょ――――マーガレットさんもなんですね…………アラームで飛び起きてから急いできたんですけど…………実は初陣で」
「そう――――でしたら私達とパーティーを組んで向かいましょう。報告に目を通したのだけれど魔法少女にも被害がでているわ…………生存率を高める方針で行きましょう」
さすがに命がかかっているの事態なのでネクラ少女もやかまし娘も頷いて同意する。赤髪のやかまし娘が私と目が合うと目を逸らされるのだがキチンと躾は行っているようだな。
「私の名はシリウス。連携の時は呼び捨てにして。意思の疎通を優先させる。あとと基本は遠距離攻撃、支援砲撃担当」
「――わ、私はエ、エクスフレイム…………近接メインのハンマー使いだ……です…………よろしくおねぎゃ――――がいします…………」
生意気な小娘であるエクスフレイムにはお灸が効きすぎているようだしあの件は許してやるか。
シリウスはフードを深くかぶっており魔女のコスプレのようなコスチュームで黒地に金糸で装飾が施されている。地味な割には内面は自己顕示欲高いんじゃないか?
エクスフレイムは活発さが全身に滲みでており、ゴツゴツしたアーマーに巨大なハンマーを背負っている。
「猫ちゃんは――――学校振りね…………放課後に来なかった件は後にして、私はマーガレット。二刀流の剣使いよ、スピード重視の接近戦がメインだけれど遠距離攻撃もできるわ。――オールラウンダーといったところかしらね」
眉をひそめて私を見つめて来る――照れるではないか。タハーと、小さな額を肉球でペシペシ叩くと火に油を注いだのか歯ぎしりが聞こえてきた。
「クッ!! 猫畜生が…………」
真面目な人間をからかうのは楽しいものだな。最後はシャルロットの自己紹介かな?
「シャルロットです!! 接近戦は…………したことが無いので……。遠距離攻撃をメインに行います!!」
シャルロットは金髪碧眼の正統魔法少女の風貌といったところだ。マーガレットが灰がかった髪色に、シリウスが漆黒、エクスフレイムが真っ赤でシャルロットが金色だな。
日曜日の朝に放映されている魔法少女グループの完成だな。
「リーダーは発起人である私が取らせてもらうわ。理由はシリウスとエクスフレイムとの連携の経験が豊富なのも加味しているとだけ――」
みなも頷き疑義は無いようだ。それからマーガレットの提案するフォーメーションを軽く練習した。
群体型の戦闘経験もあり、囲い込まれないように互いをフォローする作戦のようだ。
彼女達が話し合う中でトトナッシュとノッケンと念話を行っていく、他の二人の妖精種族は沈黙を保っており会話はできていない。
「(私はしばらく様子見をする。最悪の場合君たちの魔法少女の安全の確保は約束しよう)」
『(ありがたいでアール。クロベエ殿が援護してくれるなら心強いのでアール)』
『(良かったんダヨ~、クロベエ様がパパッとインベーダーを始末すれば一瞬だろうけど目立ってしまうんダヨ~、そしたら上司も出張って来そうなんダヨ…………)』
「(そうなるとかなりの人数の妖精種族がこの世から消えそうだな。そうしないためにも大人しくしておくさ)」
作戦会議が終了しすぐさま戦地へと向かい始めた。彼女達も今回のような大規模レイドは初めてなのか緊張感が漂っている。
「シャルロット、最悪私がフォローするからそう緊張するな。――絶対に死なせはしないぞ?」
「――――うん、ありがとうクロベエ。私じゃなくてみんなを守ってあげてね?」
「…………了承した。シャルロットを守りながらでも周囲を守る事など造作もないがな」
すぐさま私の同位体を人数分展開した、魔法少女各自の肩へ転移するとかなり驚かれてしまう。
「!! な、な、なんですの!? そういう事が出来るなら先に行ってくださいまし!!」
「びっくりした……」
「ぎえぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
「そんなに驚かなくてもいいではないか。接近する敵個体の迎撃や障壁の展開は私が援助する。君達は気兼ねなく攻撃を行ってくれたまえ」
発言を証明するかのように周囲に張られた魔法障壁に彼女達は目を見開く。
「これは…………私の全力でも破れそうにないわね…………あなたには言いたいことがたくさんありますけれど今回はありがたく受け取らせてもらうわ」
シリウスとエクスフレイムも同意見なのか軽く頷いている。
「ボロボロの隔離結界が見えてきたな、そろそろ戦闘地帯へと突入するみたいだぞ?」
私がそう宣言すると各自特有の武器を展開していく。
マーガレットは両手に長剣を、シリウスは魔導書らしきものを、エクスフレイムは巨大なハンマーを、シャルロットは魔法のステッキを展開する。
結界の境界線を越えると共に視界中に溢れている結晶群が。
今、目の前で戦っていた魔法少女が結晶群に集られて押しつぶされ、臓物が飛び散った。
「!! ――うぷっ」
凄惨な現場に直面し、各員の動きが鈍ってしまう。身体が震え始め硬直してしまった。
「貴様らぁッ!! ここは戦場だ!! 気を抜くんじゃねえぞッ!!」
嘔吐感を催した四人に敢えて軍隊で使われるキツイ口調で激を飛ばしていく。
「各自、作戦通りのフォーメーションを展開ッ!! マーガレットを中心に遠距離攻撃を始めぇッ!! ――シリウス、シャルロットは火力の高い詠唱を開始せよッ!! ――――マーガレットォ! 貴様の命令には同志の命がかかっているんだぞ! 気合を入れろォッ!!」
肩に乗りながらマーガレットの頬を尻尾で叩く。数瞬呆けていたが目には確りとした闘志が宿る。
「――――ありがとう、クロスケ。乙女の頬を叩いたことはチャラにしてあげますわ…………フォーメーション展開ッ!! 外側から削っていきますわよ!! 危機に陥っている魔法少女を少しでも援護できる位置取りを念頭に行きましょう!!」
いくら大勢いる魔法少女とはいえ一人一人が幼い少女達だ、少しでも助けられる作戦で行くのだろう。少しは協力の姿勢を見せますかね。
――射撃管制を頼むアラメス。
[――了解。まったく少女と言えど女に弱いのはどうにかして欲しいですね]
――あいあい、射撃用ビットを展開、この世界基準の攻撃力で熱線を放ってくれ。
[――迎撃開始。全力を出さなければいいのですね?]
――ああ、頼んだぞ。
銀色の浮遊盾を少女達の周囲に数十と展開する。
――ターゲットロックオン、撃て。
キュカッ、極小の熱線が射線上の結晶体を複数体貫き焼き切っていく。一度、二度、三度、と繰り返されると地に倒れ伏した魔法少女達がこちらに気付き、歓声を上げた。
このチームの魔法少女達もそれに続いて炎の槍や、範囲攻撃であろう雷を伴った攻撃を行っていく。
「クロスケには負けられないですわよっ!!」
「クロスケすっごーいっ! 私も頑張るんだから!」
シャルロットも練習で披露していた炎の槍をガンガンと打ち込んでいく。周囲の結晶体の軍勢の圧力が少しづつ減ってはいる。
周囲の魔法少女達もこの攻勢に機を見たのか自然と集まっていき攻撃を集中させていく、指揮官がマーガレットと気付くと傍により一声を掛けていきチームの人数がドンドン増えて行く。
「右翼の弾幕が薄くなっていますわ!! 範囲系の魔法を撃ち込んで!!」
「了解!! 負傷者は後ろに撤退して!」
回復系の魔法が得意なものが負傷者の回収と救護を担当し、軍として機能し始めて行く。この戦場の範囲は数十キロも広がっておりこのような集団が点々と戦いを行ているようだな。
タブレットに報告されている戦況は思わしくないようだな、特D級だった難易度が特B級までランクが上がっている。
さて、どうしたものかね。




