焼き鳥くいねえ
焼き鳥の良いに匂いに誘われ商店街にある屋台の店主に声を掛ける。
「店主よ、カリカリに焼いたトリ皮を五本お願いする――――ああ、私は魔法少女関連の猫だから財布をちゃんと所持しているぞ」
懐に肉球を差し込んで空間から取り出した千円札をテーブルに置いた、未だに唖然としているが焼き鳥が焦げてしまうぞ?
「あ、ああ分かった! ちょっとおでれえただけだ。今時の猫助は喋るんだなぁ…………」
「なかなか美味しそうな匂いが漂っていたのでな、期待しているぞ店主よ」
「ウチの焼き鳥は絶品だと評判がいいんだぜ? ――――ほれ、おまけにネギマも一本付けておくからご贔屓に頼むぜ!!」
ネギマを肉球で受け取るとハフハフと熱いうちに食べるとしよう、猫舌なのでとても舌がヒリヒリするのだが頑張って食べて行く。
したたり落ちる油で猫毛が汚れてしまうがペロリと舐め取った。
「――絶妙な焼き加減で仕上がっており味の決め手であるタレが絶品だな。店主――――ネギマを追加で十本貰おうか」
「まいどっ! このオマケ作戦で陥落しねぇ客はいねえんだぜ?」
「全く、商売上手な店主だな。だがこの味ならば間違いなく成功する作戦だな」
焼き鳥をあつあつのままパッケージして受け取ると冷えないうちにインベントリへ収納する。この味で一本百円に満たない学生にも優しい値段設定なのはさらに好印象だな。
「ありがとう、また買いに来させてもらうよ」
「あいよ! ポスターに猫も大絶賛と書き足しておくわ!!」
商店街のアーケードの真ん中をポテポテ歩いていると良く店の店主に声を掛けられて色々な物を貰ってしまう。キチンと返礼の挨拶をするのだが最初は驚かれてしまうな。
小さな園児たちがわらわらと集まって来ると雑に撫でられてもみくちゃにされるのだが私は立派な大人猫なので我慢してやるぞ?
学校は終了して放課後なのだが私は生徒会室なんぞには行っていない。なぜいちいちあの小娘に命令をされたり説教を受けねばならないのかね?
遠くでみなとの憤怒の叫び声が聞こえた気がするが気にしないことにする。
パン屋さんの看板娘らしき人物からもらった甘いパン耳ラスクをポリポリと齧りながら歩いていく。
なぜか野良猫たちが姿勢を正してお辞儀をしてくるのだが私は猫のボス扱いでもされているのだろうか? 一応話は通じるので気にするなとヒトコト声を掛けて置いた。
昨夜のインベーダーの破壊活動を受けた駅前に近づいて行くと規制線が張られていた、あれだけの犠牲者を出した割には商店街は通常の風景だったのだがここに来ると一変してしまうな。
身内が犠牲になったのであろう。家族と思しき人々が献花台に花を添えている――――ふむ、その悲しみの祈りに答えよう。
死霊術≪安らかなる眠り≫を発動させると周囲に特殊なフィールドが展開された。
死してなお彷徨う人間の魂が具現化する、死に別れた家族に気付いた死者たちがそれぞれの家族の元へ行き別れの挨拶を始めて行く。
怨嗟の念は全て私が喰らい尽くした為、清々しい気持ちにでもなっているのだろう。次なる生へと気持ちが素直に向かっている。
残された家族が亡者たちの別れを惜しむもそろそろ時間切れだ。半透明になっていた犠牲者たちが足元から崩壊していき空に向かって消えていく。
何処で消滅しようが本当は関係ないのだが残された者への演出を少しくらい行ってもいいだろう。
献花台の前で呆然とその様子を眺めていた真奈美の姿に気が付くと足元へ進んで行く。
「――――知り合いでもいたのか?」
「! うわっびっくりしたぁ。クロベエちゃんか…………もしかして、この現象も?」
「ああ、最期の別れでもプレゼントしようと思ってな。あの時全てを助けなかった軽い詫びでもと、な」
「そっかぁ、私は昨日の今日でこの現場を見たら震えちゃって…………。救われてよかったのかなぁって。色々な事が嫌になって酔いつぶれていた私が助かって私より若い子が死んじゃってさぁ…………。――――生きてていいのかな? 私」
話をしながら段々と俯いて行く真奈美、気鬱になっているようだな。あの惨状の時は現状を認識しきれずにぶり返してきたのだな。
尻尾で彼女を掴み取ると不可視化したのち上空へと飛び上がっていく。
円形に暖かい空間を展開しながらにが落ちて行く街並みを二人で眺めてる、懐からそっとカリカリに仕上がったトリカワを取り出すと彼女に渡す。
「――――そういう時は良い景色でも見ながら美味しい物を食べると良いのだぞ? ほれ、食欲が無くても齧ってみると良い」
「…………うん」
渡されたトリカワをカリカリと咀嚼し始める、何度か繰り返していくうちに食べる勢いが増していく。
「――――元気がなくってもお腹は空くんだね…………コレ、美味しいなぁ」
「店主曰く絶品の焼き鳥だそうな。ネギマもあるぞ?」
真奈美の方の上に座ると焼き鳥のタレが落ちないように器用に食べ始めた、二人して焼き鳥を無言で食べ終わると暖かい緑茶を空間から取り出し彼女へ渡した。
本当は淹れたてが美味しいのだがいつでも飲めるようにある程度の暖かい飲み物は常備してある。
「ありがとう――――ずずっ、はふっはふっ、あちち――――身体が芯からあったまるなあ」
私は少し熱めの温度が好みなので彼女には少し飲みにくいかもしれないな。
「――――クロベエちゃんはなんで私にこんなに優しくしてくれるの?」
沈みゆく夕暮れが彼女の横顔を照らす、物憂げな表情も相まって庇護欲を誘う大人のオンナの奇妙な色気が出ている。
「うーむ。最初は若い子が酔いつぶれて不用心だなと思った、家に行ったときはだらしない女だなと呆れた。そして落ち込む姿をみて慰めようと心が動いた――――ただそれだけだ。まぁ、気安い友人と思ってくれても相違はないな」
「ブフッ! ――――ケホッケホッ、だらしないって、あんたねぇ……もうクロベエちゃんって呼ばないで呼び捨てにしちゃうぞ?」
口に含んでいた緑茶が霧状になって街に降り注いでいく。
「呼び捨てで構わないぞ? そもそも「ちゃん」付けは好きではない」
「そっか、じゃあクロベエだね。――――ああ、クロベエが人間だったらホレちゃってたかもなぁ…………猫で残念だねえ~このこの~」
肩に乗っている私の頬を指で突いて来る真奈美、やめてくれ、ひげに当たってむず痒い。
「言っていなかったが私は人間体にもなれるのだが? 元々は人間で悪魔で、猫になったのだが?」
「――――ん? え? ヒトガタになれるの!? 先に行ってよ!!」
「特に必要性を感じなかったからな。――――ほれ、これが人間体だ」
肩から飛び上がるといつもの男性体へ変化する。パリッとしたスーツに最近貰ったお洒落なネクタイを装着し、腕元には高級で頑丈さが売りの自動巻きの腕時計を付けている。
清潔感をアピールする為にオールバックに髪を仕上げているがこれは会社の営業用に外向きの髪型となっている。
「!! ――――は、初めまして遠坂真奈美っていいましゅっ、か、彼女はいましゅか?」
「何を言っている? クロベエだと言うのに緊張しすぎだ。ほら、お代わりのネギマでも食え」
掌に出現させたネギマを彼女の開いている口へゆっくりと放り込む、串で刺さると危ないからな。顔を赤くしながらもきゅもきゅと食べ始めているが少しは元気になったようだな。
空中デートは日が沈みお開きとなった、彼女の希望でお姫様抱っこの状態で自宅へ送ることになった。
玄関先に辿り着くと寂しそうにこちらの顔を見ながら自宅のドアと視線を行ったり来たりさせている。
「どうした?」
「こ、この前みたいに添い寝をして欲しいなぁ~って。一緒にいてくれたらまた元気になれるかな~?」
今は元気に見えるが一人になると確かに気鬱になる可能性は否定しきれないな、まぁ甘えたい感情が見え見えなのだがしょうがない。
彼女の頭へとゆっくり手をおいて撫でてあげる、くすぐったそうな顔をするも大人しく撫でられている。
「――――わかった、今日は真奈美と共にいようかね。なかなか甘えるのが下手な不器用さも悪くない」
「猫の癖にナマイキだっ!!」
プンスコ怒って胸元に頭突きをお見舞いされるがじゃれているだけだろう。彼女の肩を持ち室内へ入っていく。
「――――風呂に湯を入れておいてくれ、焼き鳥だけでは夕食には物足りないだろう? ちょっとしたものでも作るから食べようじゃないか」
「はっ! 真奈美一等兵は、お風呂を洗ってお湯を入れて来るであります!!」
シュババと敬礼してお風呂場へ走り去っていく、おそらく奴は自炊もあまりしないタイプなのだろう。どれ、美味しいご飯でも作りますかね。
ふんふふ~んとお風呂場から聞こえる鼻歌をBGMに暖かい特製シチューを手際よく作っていく。魔導世界で良く野営の際に作った得意料理だ。
野菜を一口サイズに切りそろえ、質のいい鶏肉と野菜を炒めた後、加水して煮込んでいく。小麦粉にコンソメを足していき後は調味料で味を調えて行けば煮込んで完成だ。
コトコトコトコト、シチューいい香りが部屋に漂い、鼻をヒクヒクさせながら真奈美が風呂場から戻って来る。
「うわぁ、美味しそうな匂いですねぇ~。――――シチューだっ!! 私、シチュー大好きなんだぁ」
「喜んでもらえてよかった。あとは煮込むだけだから食前酒にワインでもどうかね?」
軽いつまみとワインをテーブルに出現させると彼女がニンマリと笑う。
「ぜひぜひ、見た事ない言語の銘柄ですねぇ~」
「実際、異世界産の有名な銘柄だからな。なかなかフルーティーで飲みやすい物をチョイスしたつもりだ」
次元漂流する度に名産品を倉庫単位で買い込んでいくからな、百貨店を開けるレベルで物資が整っている。
「それでは、乾杯」
「かんぱ~い!! ――――ふひひ、楽しいなぁ~、クロベエぇ~」
テンションが上がり過ぎな気がするがたまにはいいだろう。それからシチューを食べ終えた彼女は酔ったまま私を風呂場に引きずり込んで身体を洗って欲しいと強請って来た。
風呂上りは二人とも裸のまま髪の毛を乾かしてくれとのおねだり攻勢に負けてしまい、ひたすら彼女を甘やかした気がする。
当然の様に私は彼女にベットに引きずり込まれてしまい、肉食獣張りにマウントを取られてしまう。だが、彼女の勢いは最初だけであとは生贄に捧げられた小鹿の様相を晒していたがな。
次の日の朝に起きた全裸の彼女は私の驚き布団の中に顔を隠してしばらく出てこなくなってしまった。
しかたないので私が朝食を準備していると布団の中から声を掛けて来る。
「――――また、来てくれますか?」
ビクビクとこちらの様子を窺うように見つめて来る。
「ああ、もちろんだ。安心しなさい」
そう言うと満面の笑みで抱き着いてきた。
二人で朝食を取ると彼女は仕事へ、私はみなとの元へと帰っていく。みなとに顔を合わせると睨まれてしまったが知らんぷりをする。きっと昨日の生徒会室でこってりと絞られたのだろう。




