学校
現在私は不可視化状態でみなとの頭の上に乗っている。真剣な表情で彼女は学校の授業を受けているのだがそろそろ飽きてきた。
学校の授業が珍しく付いてきてしまったのだが予想以上につまらない、ぴょこんと頭の上から降りると校内の探索を始める。
『ちょっと学校の探検にいってくる』
『――――ちゃんと帰って来るんですよー?』
『もちろんだ』
念話にも慣れた様子でこちらを見ずに返事を返してくる。静かに後ろのドアをスライドさせて教室を出て行くとひんやりとした廊下の床を歩いて行く。
ぽってぽってぽって。
人の目には映らない事を良い事に廊下のど真ん中を闊歩していく、学校へ登校するさいに探知を行ったところ魔法的反応がいくつか存在していたのでおそらく魔法少女関連の何かだろう。
もしかするとこの学校にも複数人ほど魔法少女がいるのかもしれないな。
――む?
きょろきょろと周囲を見渡しながら散策を行っていくと急に視界が暗くなる。不思議に思い見上げてみると水色の縞々パンツが視界を埋め尽くした。
「やぁ、水色の縞々パンツさん。急に私の視界を塞いでどうしたんだい?」
もちろん彼女は昨日助けた魔法少女だと分かってはいるがウィットに富んだ小粋なジョークを飛ばす。
彼女は素早く後ずさりすると頬を赤く染めながら眉をひそめて口元を吊り上げた。
「――チッ! ノッケン、こいつが本当に私の事を助けた使い魔なワケ? 微塵も力を感じられない小物なんだけどぉっ!!」
「――――ノッケン? と言ったか。貴様も苦労しているのだな」
『先入観に惑わされ過ぎなのでアール……これがいわゆる脳筋直情ガールなのでアール。良く相手を見るように言っているのでアールが…………』
腰元に括りつけられたナックルダスターがかちゃかちゃと音を立てて抗議をしている。幾分かサイズダウンしているようだがあれが待機状態なのだろう。
「なに二人だけで喋ってんのよ!? ――――取り敢えず助けられた事だけには感謝してあげるわ、次にインベーダーが来た時には獲物の横取りなんてしないでよね!!」
インベーダーにボコボコにされて死ぬ寸前だったような気がするのだが…………まぁ若い少女特有の意地というものがあるのだろう、寛大な心で受け流すか。
「――――ていうか絶対あんたじゃないでしょ? 政府直轄の特務部隊が助けたんじゃない? それに便乗して私に恩を着せるために嘘を――――」
――ビキィ。
魔法少女に変身もしていない状態でコンクリートにシートを貼っているだけの冷たい床に高重力の負荷をかけ少女を蛙の様に平伏させる。
小さな肉球でグリグリと少女の頭頂部を押し付けて頭蓋骨が悲鳴を上げ始めた。
「――――あまり調子に乗るなよクソガキが。絶対に逆らってはいけない相手というものをその身体に教え込んでやろうか?」
「――――ゴボッ、グ、や、やめ…………」
負荷を上昇させていくと少女の華奢な身体から骨が砕ける音が聞こえ始める、あまりの激痛に気絶と覚醒を数度繰り返していく。
「おい、ノッケン。犬の躾も出来ないのか?」
『――――も、申し訳ありません! ど、どうか矛を、矛を収めてはいただけないでしょうか!? 次回までにきつく躾けておきます!!』
指先から腕へ順番に磨り潰していく。隔離結界を極小に展開しているの為彼女の断末魔は誰も聞こえない、
内臓が破壊され口から血液を吐き出している少女を、ギリギリの瀕死に持っていったことを確認すると重力展開を解除する。
「――――さて、私の命令に従うというのなら今の状態から正常の身体にまで回復させることが出来るが…………どうする? ノッケン」
『…………お願いします』
ノッケンの承諾を確認した瞬間、キィンと契約の縛りが根源に到達した音が聞こえた。
「契約は成った――――≪奇跡の甘露≫」
大きな水玉状に展開した治癒の液体が少女の身体を包み込んでいく、血液が混じり赤黒くなっているが徐々に再生していくと皮膚を突き破っていた骨が身体に収納されいき元通りになっていく。
「さて、命令の内容は私の不利益と思える行動を取らない事、だ。協力的な姿勢も見せて欲しい。もちろん私の異常性は秘匿されるべき…………だよな?」
『――――はいでアール……。上司に報告しようか悩んだだけでなにかが軋むのであるがこれはいったい……?』
「もちろん契約の鎖だ。履行されなければノックス、貴様の根源、魂と呼ぶべきものが消滅する。もちろん来世など拝めるとは思うなよ?」
『………………これが教育を怠った者の末路でアールか』
ん? 魔法力の反応を検知して数名程駆け付けてきているな。この学校の魔法少女なのだろう。
「なに、命令に従えば死ぬことはないさ、従えば、な? そろそろ他の魔法少女もやってきそうだから隔離結界を解除するぞ? その少女も回復が終了しただろう」
隔離結界を解除すると周囲に三名の少女が駆け付けていた、その中にはみなとの姿もあり他の二名は見た事が無い少女だな。
「――――あなたね、学校で隔離結界を展開した悪い猫ちゃんは」
私に問いかけてきた少女は眼鏡をかけた理知的な少女で最上級生なのか一番大人っぽい雰囲気を出している、その後ろに隠れているみなとは自身の連れてきた使い魔だとわかるとあわあわと慌てている。
残りの少女は目元隠すような髪型で沈黙を保ったままだ。
まだ授業中のはずなのだが…………教師連中には魔法少女の通知でもいっているのか? 人命に関わる緊急事態だと授業だの言ってられないからだろう。
「少し躾を行っていてな。騒がせたのなら申し訳ない」
「…………制服がズタズタに破れて下着が丸見えの可憐な少女が小さな獣に襲われているようにしか見えないのですが」
「見解の相違だな。心配ならば君が彼女を連れて行けばいい、私は君の後ろに隠れている、みなとの使い魔なのでな、責任は多分…………彼女が取ってくれるはずだ」
「ひょっ! ひょええっ!? ――――クロベエっ!! ひどいよう!!」
隔離結界が解かれた当初は緊張感が漂っていたが空気が弛緩すると共に物静かな少女はひとり去って行った。問題が無い事が確認できたために撤収したのだろう。
「取り敢えず、彼女を保健室に連れて行きますわ」
手元に小さな強化魔方陣を器用に展開させると少女の重さを感じさせないほどスムーズに抱き上げた。
「――――あなた達、生徒会長としては放課後に話を聞かせて頂きます。確か…………最近、登録された魔法少女である、本条みなと、さんですわね?」
「は、はいぃ、新人の魔法少女です!!」
「あまり大きな声で公言する事はいけませんわよ? 教師陣は知ってはいますが守秘義務が発生しますもの。――――必ず放課後に生徒会室に来ること。それと私は生徒会長である如月リツコですわ」
鋭い眼光でみなとを睨みつけると踵を返して去っていく、残されたみなとは怒りのオーラを背後に漂わせてゆっくりと私を睨みつけてきている。
「…………クロベエ」
「うむ」
「うむ。――じゃなーい!! 問題を起こさないようにって言ったでしょ!?」
「ん? 帰って来いとは言われたが問題を起こしてはいけないと言われてはいないぞ?」
「え? え? 言わなかったっけ…………じゃなーい!! 問題を起こさないのは常識!! じょ・う・し・き! わかった?」
「了解した、善処しよう」
「それって政治家の責任逃れの為の建前発言じゃないのー!!」
プンスコ怒りながら教室へ戻っていくみなと、少しばかり迷惑を掛けてしまったようだな。隔離結界はコードをそのままに使用してしまったために感知されてしまったのか。次は魔法力を感知されないように改善するべきだな。
日の当たりの良い屋上まで登って行き昼寝を開始し始める、今日は日差しがとても心地良い。
くあぁと欠伸をすると丸まって寝始める。猫の習性が強く出てきているのかもしれないな。




