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異世界めぐり/ Dimension Drifter  作者: 世も末
魔法少女世界
145/159

内情

 シャルロットの膝の上で寛ぎながらトトナッシュの話をぼんやりと聞いている、悲壮なシーンを一生懸命語っているが所詮生存競争に負けた種族の話だ、興味がまるで湧かない。


 この魔法少女であるシャルロットの名前も先程決めたばかりで、トトナッシュが所持していたタブレット状の端末で政府機関への登録申請を行わなければならない。


 魔法少女は一般的には秘匿されなければいけない存在なのだが、非公式にファンサイトやネット上に撮影された画像データが大量に存在している。


 動画投稿サイトなどで楽しそうに配信している魔法少女がいる当たり人気商売の側面があるのかもしれない。承認欲求の塊である十台の若い少女達に強大な力や変身能力を与えればこうなるのは火を見るより明らかであろう。


 いつもどおりアラメスに指示を出してこの世界の文明度や不穏分子の調査は欠かせない。


 その中には一般人の被害状況などが頻繁に報告はされているが魔法少女の死亡報告が皆無といっていいほどない。


 死と言うネガティブなワードは人類平和の広告塔には必要ないという事か。


『――というわけダヨ~。我々妖精種は人類と一丸となって侵略者【インベーダー】と日夜、戦っているのダヨ!!』


 シャルロットの支給されたタブレット端末にはインベーダーの姿が表示される。全体的に青みがかかった結晶状の物質で尖った先端からレーザーや巨大化した結晶腕で薙ぎ払いの攻撃を行ったりとバリエーションが豊富のようだ。


 討伐難易度もA級からG級まで存在しており複数人の魔法少女でなければ対応できないインベーダーには“特”が頭に付けられている。俗に言うレイドバトルというものか、市町村には緊急避難命令が出され自衛隊も出動して活動しているようだ。


 ミサイルや銃器などの物理攻撃は効果が薄く、魔法力を込められた魔法少女の攻撃か、魔法力の込められた弾丸などが主に使用される。


 魔法力の付与物は世界中の国ぐるみで生成や研究が行われているが極めて効率が悪いらしい。


 人型、獣型、浸食型、飛行型、群体型、液状型、など様々な種類が世界には確認されており、今なお新種が確認され続けている。それに応じて魔法少女の増員が急務なのか才能がある少女が確認されると国ぐるみで確保に走っている。


 子を持つ親からすれば政府の行動は“子供狩り”と蔑称されている。


 そのことを世間へ訴えようともなにかしらの圧力がかかり、通常の生活が送れなくなってしまう。表立っての情報では見かけないがアラメスに個人端末の情報を精査させている内に公的な圧力の痕跡を発見した。


 “偶然”不慮の事故で両親が無くなった魔法少女や、多額の金銭と引き換えに魔法力研究所へ売り飛ばされたと表現してもいい少女も存在してる。

 

 最前線で戦う夢のある魔法少女の現実はこんなものだろう。


 魔法少女になることで目を輝かせてトトナッシュの話を聞くシャルロットには黙っておこう。この世界の理なのだろうがあまり気分のいい物ではないな。


 いずれ彼女が魔法少女の現実に直面した時多少の手助けを行うぐらいにしておこうか。


『僕が見つけた類まれな才能を持つシャルロットにはきたいしているんダヨ? クロベエ……さん、と協力してインベーダーをバンバン倒して欲しいんダヨ』


 気安く呼び捨てをしようとしたクソステッキにはちょくちょく威圧を挟んでいく、こいつはどうも気に食わない。シャルロットの装備としているのだろうが早々に捨てて欲しくすらある。


「で、私への報酬はなんだね? 呼び出しておいてタダ働きなどするわけがないだろう?」


『――――…………ダヨ。き、希望を窺ってもいいですか……?』


 わざとらしい語尾の「ダヨ」が消滅しているぞ、こいつなにも考えてなかったようだな。


「ふむ、魔法の術式や貴様ら種族の生体を調べさせてもらおうか。「知る」という事が私にとっての何よりの報酬なのでね。なんなら何かしらの装具のサンプルを繰れてもいいのだよ?」


『――――それならいいん…………ダヨ? い、いや、開示できる内容は相談に乗ります――ハイ』


「契約完了だな。今貴様は契約に縛られたはずだ、嘘を付けば存在の消滅を招く事になる。もちろん「良し」と言った時点で契約はなされた、私が望んだ時には必ず開示させるからな」


『!! か、解除するんダヨ!!』


「なにか不都合な内容があるのかね? ここで私が貴様に全開示を求めればすべて話さなければ消滅を迎える」


「クロベエ、あんまりトトナッシュをいじめては駄目だよ!?」


 シャルロットが涙目になって懇願してきている。今後の事を考えて今日は引いておくか。


「この契約は根源すら縛る強力なものだ、私ですら解除不可能なものでね。今回は聞かないでおいてやるが私への対応を間違えない方がいいぞ? もちろん守秘義務も課してある。仲間を頼るなどとは考えるなよ――――トトナッシュ」


『!! ――――は、はい。丁重に扱わせて頂きます……ダヨ』


 シャルロットの膝から降りて小さな肉球でステッキをポンポンと叩く、震え過ぎて不憫に見えるがこういう種族は自己保存に関しては泥に塗れても安全を確保しようと生き足掻きそうだからな。


「お、お話は終わりかな? トトナッシュとクロベエと魔法の練習をしてみたいんだけどどうしたらいいのかな?」


『おまかせなんダヨ。――範囲設定、隔離結界展開開始』


 ステッキの先から魔方陣が展開されると周囲の景色がモノクロの世界へと変化していく。これは――位相をずらした空間となっているな、ここで暴れたり物を破壊しても現実には影響はないのだろう。


 魔方陣の式を複写して小さな猫の手を掲げると、再現できるかどうかを試してみる。――うむ、問題なく私のエネルギーで再現できたな。私の技術と互換性がありそうだな。


『!! ――僕の出番がいつか奪われそうなんダヨ……』


「気にするな、基本的にはシャルロットの護衛はするが積極的に援助する気はない、教導役とでも思ってくれ。汎用性の高い魔方陣を全て提示してくれ、彼女の手手助けになりそうな物だけでいいから」

 

『わかったんダヨ、できれば仲良くして欲しいんダヨ~』


「貴様次第だ。長い物には巻かれろというだろう? ――シャルロット、魔法の練習をするぞ」


「う、うん! ――トトナッシュ、飛ぶよ!」


 飛行の魔法陣を展開して窓から外へ飛び出していく。彼女の頭の上に乗っかると器用にだらりと寝そべる。


 展開されていく魔法陣を全て記憶しておかなければいかないからな。


「――燃えろ燃えろ燃えろ! 圧縮し炎の槍を穿てっ!」


 展開させる魔方陣の意味を解いていくと、圧縮、熱、成型。結界、飛行や契約魔方陣に共通する点は魔法言語と言うべきものが刻まれているな。――ふむふむ。


 生成された五メートルほどの炎槍は周囲にあるビルの外壁を貫いて圧縮された炎が空気を飲み込み爆発した。なかなかの威力だな、歩兵武器のロケットランチャーよりも効果が高いだろう。


 コンクリート壁を貫通する威力がどうして出ているかは謎だがな。


「――燃えろ」


 シャルロットが集中する為に唱えた呪文を省略して、魔方陣を展開する。


 ――キュゴッ。


 圧縮率を弄り放つ小さな手を右上に払った為、視界にあるビルが全て上下に引き裂かれたのち大爆発を起こした。モノクロの空間が軋みを上げているが私も結界を重複して展開している為にギリギリ形を成している。


 シャルロットの目の前には瓦礫が飛んできているが私が障壁を展開している為、無事に済んでいる。


『え、え、え、え、ちょおおおおおおぉぉぉぉ結界がっ!! 始末書! 始末書!? 書かないといけなくなるうううううう――――ダヨ!!』


「うるさいぞ。結界は重複して展開してあるから大丈夫だ。気にせず練習したまえ」


「クロベエすごいんだねぇ。私も頑張らなくっちゃ!!」


 他の属性の魔法を何度も放ったり連射性を高めたり様々な練習を行っている、原動力は彼女のもつ魔法力らしいが…………徐々に親和性が上がっている?


 この親和性を実現するには身体を弄らない限り不可能と言ってもいい、ちらりとステッキを睨みつけるとこちらの視線に気づいたのか震えている事がわかる、隠し事とはこの事も含まれているな。


 トトナッシュへと会話を始めるために思念を叩きつけるようにぶつける。


「(おい、私が言いたいことは――――分かっているようだな。説明しろ。シャルロットに聞かせないだけ温情と思え)」


『ピィッ!! (…………………………我々と契約し魔法を行使する事によって妖精種族に近い身体へと改変されていく…………)』


「(それだけではないはずだ。なぜそうするかを答えろ。私へと融通を利かせれば貴様だけは生存の可能性がでてくるぞ? ――私の力は世界を破滅させるほどの膨大なものだと理解している、そうだろう?)」


『(――はい……我々の種族ともども世界は滅びに向かうと確信しておりました。会話が通じる事と温和な方だと思い、いずれ交渉の場を設けようかと考えておりました…………)』


「(私の存在としては決して人類の味方ではない事を言っておこう。ただ、気にいるか気に入らないか、それだけだ)」


 しばし沈黙が続く。シャルロットの練習している魔法の爆音が鳴り響いている。


『(人類とは契約で魔法少女である素体の提供することで、我々は魔法技術を提供し共通の敵であるインベーダーを撃破する事と――――建前ではなっています。………………………侵略者は我々妖精――――浸食種です。人間を羨み、肉体を欲し人類と契約したのです。魔法少女は我々の身体へと近い物へと改変されていき何れ妖精の精神が支配下におくためだったのです)』


「(侵略者、インベーダーはこの世界の拒絶反応、攻勢の防衛行動なのだろう。人類だけが世界の頂点ではないからこそ虐殺も起きている。――原因はそもそも侵略してきた妖精種族と言う訳か)」


『(はい、あなたに縛られた私では消滅の道筋しか見えなくなりました。できる限り誠実に対応する事こそが生存への唯一の道だと未来視でも出ています)』


「(ほう、そのような事も出来るのか…………………ふむ、取り敢えず私は妖精種族の侵略行為に対して現状は何も言わない。もし私の不利益になる行動などをしなければ今のままの関係を維持しよう。その代わりシャルロットは諦めろ)」


『(でしたら今魔法を使用する行動を止めなければいけません。魔法少女の活動を停止する事に関しては上司を交渉を行わなければいけませんが…………)』


「(そのことに関しては貴様の提供する情報と交換で素体を提供しよう。遺伝子情報が有れば人間そのものを用意する事が出来るし金属生命としても転生することが出来るぞ? シャルロットは魔法少女の活動を続けさせればいい、彼女の身体に妖精の精神が侵入できないようにプロテクトを厳重に掛けておくから問題ない)」


『(!! わかりました。生存が約束される上に素体の提供をしていただけるのならば望外の喜びです。情報を圧縮して送信しますのでお受け取り下さい)』


 精神生命体でもある妖精のため込んだ情報が膨大な量となっている、ギブアンドテイクの関係だが生存権が確保された上に報酬が美味しいもので実現性のあるものだと判断したのだろう。利益が出ることには敏感だな。


「(確かに受け取った、情報が入り次第随時送ってくれ、素体のモデリングのプレーンを送っておくから好きなようにデザインしてくれ。それをそのまま生成するからステータス値の調整もしっかり行ってくれよ)」


『(ありがとうございます!! これからも末永くよろしくお願いします! 犬と呼んでください! ――――ヤッタァッ! 数十年待ちの人間の素体だぁ!)』


 現金な種族だな、まあ人類がうらやましかったんだろう。現行の政府や国と契約を結んでいるのならば取引とも言えなくもない。手を結んだ相手が侵略者だけだったという事だ。


 自らの世界の防衛行動と永遠と戦い続けなければいけないとは人類とは業が深いものなのだな。


 シャルロッテが魔法の練習に満足すると、結界を解除して自宅に戻っていく。


 いい汗をかいたぁ~、と呑気にタオルで顔を拭きながらお風呂に入る準備を行っている。まぁ今が楽しいならいいのではないかな?

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