魔法少女?
朝食を取り終わるとVアイドル至上決定戦のダイジェスト映像を公式アカウントに投稿しツブヤイターで告知を行った。
世界中からのアクセス数千万を瞬く間に稼ぎ出し、テレビやネット上でもニュースとして取り上げられフリアノンの歌が検証され始めていく。
もちろん映像を調べようとも呪術的な儀式を証明する方法など今の科学技術では不可能だろう、どこかの呪術的な家系が見ればわかるとは思うが…………存在するのかね?
私の映像も上がり警視庁の対応のまずさや政治家のスキャンダルなどが一斉に放送される。対応が間に合わずに放送局へ圧力を掛ける事もままならなかったようだな。
世界のニュースでは日本の政治家が国家の恥さらしと報道され笑いものにされている。
「自分たちの国だけが安穏とできると勘違いしているようだな。私達の企業へハッキングを行った事への返礼をしておかなければな」
特定の国家の政治家のスキャンダルの情報も放送局へ次々とリークをし始めると、社内の固定番号への通話が鳴りやまなくなる。
対応するのも面倒くさいのでウイルスプログラムを送り込んで向こう側の端末を全て破壊していく。
こまごまとした対応を行っていくと、昨夜の疲れを残した鈴音が目を擦りながらリビングへと入ってくる。
「――――電話がうるさいわね……。もう鳴りやんだからいいのだけれど」
「少し昨日の件で対応していたからな。じきに鳴り止む」
用意してあった朝食のパンは啄みながら私の肩へと顎を乗せて来る、以前とは打って変わり物凄く甘えてきているようだな。
「あー昨日歌い切ったせいか何もやる気が起きないわ――――しばらくあなたとゆっくりしたいわね」
「――――うむ…………君には説明しておかなければいけないかな」
これまでの私が歩んできた道のりと次元間交流の場で多くの妻たちと女子会を行っている事などを説明していく。
話の途中から目を輝かせながら興奮しているがなぜなんだ?
「それって、私の歌を聞かせる人たちが無限大にいるってことじゃない! ああ、素晴らしいわっ!! 神様悪魔様! 私をあなたへと巡り合わせた存在へ感謝したいわ!」
「妻が多くいる事に対して何か言われるかと思っていたのだが……」
「そんなの悪魔のあなたならあり得る事でしょうに。現にツムギとも良い仲じゃないの? そんな些細な事よりも歌よ歌」
彼女が納得してくれるなら問題はないか。次回の集まりにでも顔を出してもらうとしよう。
こうしてアイドル世界でやれることは株式化したダンタリオンからのVR技術の提供とVアイドルへの支援くらいだな。【マーセナリー・バトル・クライ】も【アイドルジェネレーション】も安定軌道に乗った。
内閣の総辞職が行われ比較的クリーンな議員が増えたことは日本にとって良い事なのだが世界的にも政争が勃発してはいる。
そういう面倒くさい事は勝手にやっていて欲しい、原因は私だが掃除は自分たちでやってくれ。
アイシクルの事務所とも業務提携を組み、フリアノンとの合同コンサートも企画され始めている。絶対無敵天使ミカエルちゃんや大会に参加していた他の出場者もいくらかダンタリオンに所属するVアイドルとなり、活動規模を拡大させていっている。
ダンタリオンに所属する関係者に自衛のできるアンドロイドが数十人程入りわが社も規模が拡大していっている。ハーヴェストも武力を伴わないアンドロイドたちの社会勉強に前向きになっているようだ。
こっそりとハインティやクティが混ざっているのは息抜きがてらに遊びに来ているようだ。
現在、私の同位体をアイドル世界に複数配置して宇宙空間にやってきている。毎回次元漂流の度に世界に影響を及ぼさないようにする配慮だ。
『アラメス。いつもどおりランダム転移をお願いするよ』
[――今回の世界あなたにしては平和的でしたね。いつ戦争を起こすか楽しみにしていたのに]
『そう言うな。たまには平和な世界があってもいいだろう? ――いくぞ?』
[――次元座標をランダムに指定。次元転移開始]
周囲の空間が歪んで次元の転移を開始し始めた。
◇
歪んだ空間を抜けるとぬいぐるみやカラフルな壁紙が目立つ少女チックな部屋の中にいる事が視認できる、なぜだか視線位置が低いため目の前にいる少女の白いパンツが丸見えなのだが…………私は悪くない。
「ねぇねぇねぇ! トトナッシュ! 私の魔法少女としての守護獣召喚なんでしょっ? こんなに小さい子猫で大丈夫なの!?」
『大丈夫ダヨ! 守護獣は見た目に反して強力な事が多いんだから!? ――ちょっと頼りなく感じるけれど…………早く召喚契約しないと!!』
トトナッシュ? 少女の持っているおもちゃのステッキのようなものが明暗して言葉を発しているな。
『契約魔法陣展開!! 召喚獣よ真名を告げるんダヨ!!』
なにか私に強制させる効果のある契約陣を展開しているが無駄な事を。
『!! マズイ!! 予想以上に強大な存在を召喚してしまったかも…………仮の名でいいから付けるんダヨ!』
「――わかった! 我が名はシャルロット! 汝に与えし名は【クロベエ】!! お願い! 私の召喚獣になって!!」
お願いか…………陣の内容を読み解くも強制的な契約内容ではないな――――了承しよう。
私が許可の意思を示したために魔方陣が部屋中に広がると眩い光を放ち、私とシャルロットという少女の間には半透明の鎖が接続された。これが契約の鎖なのだろう。強制力のない意思疎通を行う為のツールにしか見えないが…………多少の力の譲渡はできるようだな。
「ふう……了承してくれてありがとね! クロベエちゃん? さん? 喋れるのかなぁ?」
「【さん】で間違いない。性別としてはオスになるのだからな。いきなり呼び出された身としては詳細な説明を求めたいのだが…………トトナッシュとやら?」
いきなり召喚された事に抗議の意を込めてステッキを睨みつけるとブルブル震えだし沈黙したままだ。シャルロットへ視線を向けるも不思議そうな顔をしている。
『――――そ、その威圧をやめてほしいんダヨォ。こんなに恐ろしい召喚獣を読んじゃうなんてシャルロットの才能が末恐ろしいんダヨ~』
ん? そこまで威圧感を込めたつもりはないのだが…………この小さな体に私と言う理を無理やり押し込んでいる為に不具合が起きていそうだな。
視線を全体へと散らすとステッキは溜息を付いてブツブツと何かを言っている、息を吐く口などは見当たらないのだがどういう作りをしているんだ?
『こわかったんダヨォ~。契約も完了したことだし説明を始めるんダヨ』
ステッキのトトナッシュと言う輩の話を聞きながらマルチタスクでこの小さな黒猫の能力を確かめて行く。獣型だと人間の私には動かしづらいが他の世界で獣の動きをしていた異星体のモーションパターンをトレースしてどうにかするとしよう。
小さな耳をピコピコ動かしたり尻尾を振り回しているとシャルロットと言う少女が近寄って来ると私を抱き上げてしまう。
「ああーん、可愛いっ! 耳をピコピコさせてそんな私に構って欲しいんだねっ!」
けっしてそんなことはないのだが彼女の好きにさせておこう、トトナッシュの説明はまだ続いている。
魔法世界にある妖精たちの国が侵略にあい存亡の危機に瀕している。この世界の現実にも侵略者の魔の手が迫っている。
そこで妖精たちが正義の心を持つ適性のある少女達と契約を行い魔法少女へと変身し戦ってもらう。この地球上では妖精の力が激減してしまい少女達に力を貸してもらっているとの事。
契約することで少女達にも叶えたい願い事を何でもとはいわないが報酬として支払われている……か。
この世界の国々でも魔法少女を支援する公的機関が存在しており、契約し魔法少女になったものは必ず国へと登録をしなければならない。
登録している地域の侵略者【インベーダー】が発生すると支給された端末にターゲットランクと報奨金が提示され出撃の有無が問われる。もちろん断ることも可能だが魔法少女となったからには義務的ノルマが存在するそうだ。
ノルマを消化できなければ支給された装備や優遇されている衣食住の特別控除が解除され借金と言う形で負担する事となる。
彼女達の防具や攻撃用装備は妖精と国の共同開発でかなりの金額がするようだ、もちろんノルマをこなしてインベーダーを撃破していけば借金は帳消しになりかなりの高所得者になることもできる夢のような職業、という世間の認識だ。
良い事ばかりを羅列しているが戦場にこのような幼い少女達を放り込んでいく国と妖精は信用に値しないな。まぁしばらく様子を見るとするか。
「私が魔法少女になる対価として願ったのは心強いパートナーが欲しいってお願いをしたんだっ! クロベエさん、仲良くしてくれるかな!?」
「――――ああ、いいだろう。それとクロベエと呼び捨ててくれて構わないぞ、シャルロット」
彼女の腕の中でモフりたおされているがされるがままになっている。
今回の召喚獣の招致は彼女の願いから来る特別待遇のようだな、トトナッシュの様子を見れば私の存在は不確定要素だっただろうに。危ない事をするものだ。




