初日終了
フリアノンの勝利が決定的となり対戦カードが終了する。VR空間である会場から天音が接続を切ると同時に崩れ落ちる。
床に倒れ込む直前に私が彼女を支えて奇跡の甘露を頭から掛ける、身体が濡れてしまうが気にしている場合ではないな。
降りかかる雫が彼女に染み渡ると荒い息遣いが穏やかになり気を失った。
「――お疲れ様。まったく全力を出しすぎだろう」
穏やかに眠る天音の頭を撫でながら彼女の部屋へと運び込んでいく。≪清浄≫を彼女にかけベットに寝かせると布団を掛けて退室する。
「大会の初日の全プログラムが終了したにゃ~。天音は寝ちゃったかにゃ?」
リビングにやってくるとツムギが話しかけて来る、初日の演目が終了したのならあとは今回の大会の内容をダイジェスト化して公式動画として広告を行うことぐらいだな。
「ああ、大分疲れていたみたいだからな、部屋で休ませている」
「大会は明日までだから今は休ませておいた方がいいにゃん~」
大会のダイジェスト動画を公式のトップページに掲載するなり世界中からのアクセスが殺到する、大会の映像を複製したり撮影を禁止にしておいたからな。
ツブヤイターの公式アカウントにもこのサイト【アイドル・ジェネレーション】へ誘導するURLを乗せておこう。
休日の昼間から開催されたVアイドルの大会が終わり時刻は夜に差し掛かっている、同日である夜の部ではこっそり告知して置いた【マーセナリー・バトル・クライ】の大規模ギルド戦が開催される。
もちろん私の趣味として企画した大会なのだから私的に設立したギルドも参加する。
VR空間にあるギルドにログインすると出撃する為の機体をセレクトしカスタムをしていく、ゲーム内で高難度のクエストをクリアする事で手に入れられる特殊兵装を装備していく。
攻撃力は汎用的な兵装と変わりないが、対戦相手の機体へクリティカル攻撃を行う事が出来れば一撃で大破させることが出来るアビリティが備わっている。
他のプレイヤーでも入手しているの者がいるがあまりにもの使いづらさに使用されていない不遇な装備だ。私がこの兵装がすきなんだがな…………。
機体のペイントは私の本体であるダンタリオンの金属装甲もモデルに塗装を行っている、禍々しい黒と赤のフレイムパターンに髑髏の装飾を頭部に装備している。
胸部にあるコクピットハッチを開けると機体に乗り込んで発進シークエンスを行う。
「出場者同士の条件は五分なんだ、ネットゲームの世界にはまだ見ぬ猛者がいる事を期待しているぞ?」
試合開始のカウントがゼロになるとともに自動生成されるマップに舞い降りた、今回は市街戦を想定した戦場で拠点にある五か所のエネルギージェネレーターを守り通さなければ。
逆に敵拠点に攻め込んでエネルギージェネレーターを全て破壊すればこちらの勝利となる。
参加しているギルド数は数百にも及び、各ギルドには平均で数十人もの人間が所属している。
合計で三千人以上もの人間が参加している模擬戦争だ。世の中に出回っている通常のネットゲームではできない戦いだろう、もちろんこの様子もツムギが司会となってアカウント登録していない人間でも視聴することが出来る。
機体を所持していなくとも歩兵としての参加も随時行っており、勝利した陣営には特別な装備やポイントがプレゼントされると大々的に広告も行っている。
この中継を見ている初心者の視聴者もすぐさま参戦できるために極めて流動性の激しい戦争となってしまっている。
海外の人間でも自動翻訳されるこの空間では自由に会話できるし連携も容易だ、提携している企業の人間も実験的に参戦している事だろう。
すでに敵拠点に攻め込んでいるギルド員が迎撃用砲台にハチの巣にされて行っている。歩兵が侵入していくと爆発物を設置して砲台を破壊しようと試みるも同じく遠距離からスナイパーに始末されて行っている。
もし、死亡しても拠点でリスポーンする事ができるがペナルティとして自身が敵を撃破して獲得したポイントを消費するか、数回分しかない復活権を使用しなければならない。
あまりにも死亡すると復活権を有料で販売している為に購入してもらうしかない。このVRゲームは有料にしても惜しくない程のできだし、勝利すれば課金以上の賞金ポイントも手に入れられるからな。
もちろん撃破数やアシストでもポイントは加算されていき各分野でMVPも決定される。今後も同じような大会を行う為のテストみたいなものだな、この大会は。
遮蔽物であるビル群に身を隠しながら敵拠点へと進んで行く、周囲には他のギルド率いる機体が数十機ほど帯同してきている。
すれ違いざまに敵機体のコクピットブロックへ致命の一撃を叩き込んで沈め、侵攻を再度開始し始める。
『――SIN:TAさんすげえな、すれ違いざまに次々に機体を大破させていってるぜ。あの使用している特殊兵装、レアリティの割にゴミ兵装って言われている奴だぜ』
『――命中率がカスなパイルバンカーだろ? 超接近戦でしか使えずにコクピットブロックへクリティカル出さないと意味がないし無駄に頑丈な鈍器だよな』
『――ああ、あれを使っているプレイヤーはあの人しか見た事ねえよ。ミサイルポッドもマシンガンも使わずにアレ一本でここまでやれるなら俺も練習しようかな…………』
『やめとけやめとけ、ただでさえ機体の操作性が極悪なMBCの特殊兵装のロボットなんだ。指が二倍になってもあの繊細な操作技術は真似できねえぞ? あのSIN:TAさんはある意味人間やめてるぜ……』
無線での会話でギルド員同志の会話が流れてきている、確かに人間は辞めているがこのゲームをプレイしている際は身体能力を人間まで落としているのだがな……。
『そこのギルド員達、私の話題を出しているなら丁度いい。私が切り込むから援護射撃をお願いしたい――――エネルギージェネレータ付近の敵戦力が分厚いのでな』
味方の無線装置への通信を一帯に繋げてボイスチャットを行う。
『!! す、すまねえ。俺達ギルド【バーバリアン】は、あんたを援護するぜ!!』
『同じく援護させて頂こう。私達はギルド【レクイエムソング】だ、あんたのお陰でミサイルポッドの残弾がたんまりあるんでな』
『わかった。突っ込んだら随時援護射撃を頼む――――――行くぞ』
脚部に装備された陸戦用のキャタピラがギャリギャリを駆動を開始する、固定砲台や敵機体からの弾道予測を自ら行いギリギリで回避していく。
機体の背後にはミサイルや弾丸が地面をゴリゴリと削り破片が飛び交う事で私の機体にもダメージを受けるが些細なものだ。
正面にいる機体の胸部へとパイルバンカーをぶち込むとそのまま加速する、パイルで貫いたまま敵の固定砲台へと叩きつけると使用していなかった兵装を全て展開させる。
カシュカシュ、とミサイルポッドの砲門が開き、固定砲台へ至近距離からの最大ダメージを叩き込む。発射と同時に敵機体からパイルを抜き取り固定砲台の爆発に対する盾とした。
持ち構えた敵の機体はゴリゴリと背面が爆発に巻き込まれていき胴部以外がバラバラに破壊された。周囲には大爆発に巻き込まれた敵戦力が混乱状態に陥っている。
すぐさま味方勢力へと無線で連絡を入れた。
『――敵戦力が混乱している、今が総攻撃のチャンスだ』
『――了解。お前らぁ!! 全弾ぶっ放せ!』
『――あいさー! 旦那ぁやってくれるねえ!!』
味方機体から放たれる数百のミサイルが敵拠点のエネルギージェネレーターへと叩き込まれていく。
私は混乱している敵戦力の背後に回りながらサイレントキルを行っていく。ジェネレーター付近にいれば爆撃に巻き込まれそうだからな。
数分のちまずは一つ目のエネルギージェネレーターが破壊された事をシステムアナウンスが行われる。
今の総攻撃で私達のミサイルなどの兵装の残弾がなくなっているため、一度拠点へと帰還しなければいけない。
『――旦那ぁ、やりましたね!! おい、お前ら拠点に戻って補給しにいくぞー』
『――私達も一度戻らねばな。SIN:TAさん、ナイス吶喊でしたまた連携しましょう』
『ああ、いい援護だった。――――補給したら次も攻めにいこうか』
無線で会話しながら拠点へと戻っていくギルド同盟、こういう仲間同士で協力する戦いも楽しいものだな。今までが一人で戦い過ぎていたのかもしれないが。
二時間程行われた大規模ギルド戦は私達の陣営の勝利で戦いが終わった。
最大撃破数は逃してしまったがアシスト数でMVPを獲得することが出来た、まぁギルド員は私しかいないから必然なのだがかなりのいい連携を取れていたと思う。
味方拠点のエネルギージェネレーターが破壊されそうなときに指揮官として無線を飛ばしまくったからな。
大会終了後も情報交換会やパーツ交換会など盛り上がってしまった。
協賛しているゲーム企業からもパーツや機体にロゴを入れて販売してもらえないかとの連絡も来ており、流行りの兆しを見せている。
私も大規模な疑似戦争で闘争心を満たすことが出来たので満足している。VR空間からログアウトした際にご褒美を強請って来るツムギにベットの中へ引きずり込まれてしまったがコラテラルダメージだと思おう。




