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異世界めぐり/ Dimension Drifter  作者: 世も末
アイドル戦国世界
139/159

本選開始

 IGGのCEOに釘を刺してからは出場者から出場する旨の連絡が来て滞りなく事前準備を行うことが出来るようになった。


 嘘のように事務所に掛けていた圧力も収まり、ダンタリオンへの広告掲載の打診が次々に舞い込んできた。


「掌返しが激しいにゃあ~、でもいくら金を積んできても優先順位はつけさせてもらうのにゃ~」


「まぁ、そう言うな。どの時代でもカネと権力を握っている者には逆らえないものなんだろう。こうして協力的な姿勢を見せているだけマシなほうだ」


 次々に中小規模の事務所に所属している売れないアイドル達がバーチャルアイドルへの参入を表明し始めてきている。


 だからと言って本人達が露出しているアイドル業界に陰りがあるわけではないところがこの世界の凄い所だな。


「そういえば国からの税務調査がはいっていたから適当に妖術で化かしておいたにゃ」


「この社員数で莫大な金額が動いているから不審に思うだろうな、数字上は間違いない筈だし決して黒字と言う訳ではないのだがな」


 純利益が凄まじい事になってはいるがポイント制を取っており、換金作業やプロモーション費用も億単位で出費している。


 このような状況で莫大な税金を掛けられたのならば私でも頭にきそうだ。


「開催時間まであと少しだ、サーバーの監視や視聴者の誘導案内の告知も順次出しておいてくれ」


「はいにゃ~。天音にゃ~ん、準備はいいかにゃ~?」


 室内スタジオでは目を瞑り高揚している気持ちを落ち着けている天音がいる。


『――――問題ないわ。この昂る気持ちが抑えきれないくらいよ』


 耳元に付けているマイクが拾う天音の声から呪言が漏れ出ている、気持ちが高ぶって制御が甘くなっているようだ。


 まもなく世間が注目するバーチャルアイドル至上決定戦が開幕する。







 アイシクルのメンバー五人と事務所の関係者が特設スタジオ内でモーションキャプチャーなどの機材をセットしている。


 ダンタリオンの提供するキャプチャーシステムを使用すれば手足の動作は補完される。事前にダンスやパフォーマンスのデータを提供すれば違和感なく表現されるがそれでは生の臨場感に対応できないと事務所側が判断を下した。


 有名どころの事務所に所属しているVアイドルならば同じ選択を行っているだろう。


「ベアトリーチェ、いよいよ…………だな」


「ああ、IGGの妨害にあったが唐突に撤回されるとは思わなかったよ。謎の奇病が流行り出したと聞いたときは驚いたがな」


 エイネーグが私の肩に手を置いて力強く握って来る。痛い…………。あの落ち込んでいた時に励まされて以来彼女のボディータッチが激しくなっている気がする。


 そういえばエイネーグに男の影を一度も見た覚えがないな…………そっと、彼女から距離を取った。


 大会の始まりがツムギと言う猫耳の美女が司会を行う中宣言された。


 予選通過上位五組のVアイドルにはシード権が得られておりしばらくは大会の様数を大型モニターで視聴する予定だ。


 暫くするとモニターに映し出された出場者同士のステージが開幕した。


 事務所のバックアップなしに繰り広げられる踊りと歌の戦いは今までのステージ演出やMVの概念を覆すほどのものだ。


 私達が想像する最高のステージを超えている…………。


 まるで生きているかのような動物たちや街並みを歩いている人々、息づく生命がそこに確かに存在しているかのようだ。


「凄いな……これは」


 エイネーグも隣で息をのんで視聴している。これでダンタリオンの販売しているゴーグルを装着していればさらに凄い映像を拝めるのだろう。


 すぐさま事務所の人間に用意されたゴーグルを渡され視聴を始めるとその映像とVアイドルの演出に飲み込まれそうになる。


 すぐさまゴーグルを外して深呼吸をした。


「エイネーグ。ステージが開始されるまでこれを付けて見ない方がいい。無名のVアイドルでさえ飲み込まれそうになる演出なんだ」


「――――あ、ああ。アイドルとは演出どでこうも輝きを増すのだと実感したよ…………IGGの圧力が無くなった今この技術をウチの事務所でも取り込みたいぐらいだな」


 事務所の人間も深い溜息を吐くほどの技術力と演出力にさっそく小さな会議が行われているようだ。


 バーチャルという世界に新しいアイドルの道を切り開いた【ダンタリオン】という企業、侮れないな。


 交互に歌い演出するVアイドルへの視聴者の最終的な投票で勝敗が決定する。


 端末を操作してVアイドルのステージのどちらかを選択して視聴することができる。もちろんアカウント一つにつき片方のアイドルしか見れない。


 視聴者を引き付ける何かを持っていなければ勝つことが出来ないシビアな戦いだ。


 アカウントを所持していない視聴者はどちらも見ることはできるが投票権は所持していない。もちろん特等席でVアイドルを見ることはできないし演出も俯瞰してしか見れないところが運営の経営手段なのだろう。


 ツブヤイターでもゲストIDでは俯瞰映像しか見れないことに焦って、アカウントを取得する人間が続出しているようだ。


 ステージでの戦いが終わると集計が行われ勝敗が決した、勝者のステージには盛大な花火が上がり司会者によって紹介が行われるが敗者であるVアイドル同士がお互いの戦いを賞賛し合っている。


「――こういう素晴らしい催しなど最近見ていなかったな…………アイドルとは争い合う事が常でドロドロしていたのだが…………互いを称え合う関係など久しぶりだ」


 確かにそうだな…………アイドルランキングを意識せずにはいられなかった、価値基準が全てそこに集約しているのだからな。至上決定戦と命題を打ってはいるが本当に素晴らしいステージだったな。


「アイドルと言う分野にはもっと様々な可能性が埋もれているかもしれないな」


 そうエイネーグは頷きながらひとり呟いている。


 この大会を視聴しているアイドルのファン達も同じことを感じているだろう、バーチャルアイドルを偽物と言うものも減るはずだ。

 

 この後も何度かの対決が行われ勝者と敗者が順当に決まっていく、我々の出番が刻一刻と迫って来ている。


「準備はいいか? ベアトリーチェ」


「もちろんだ。フリアノンとの決戦はまだ決まってはいないが奴は必ず勝ちあがるだろう…………初戦で負けるわけにはいかない」


 対戦相手は有名なアイドル事務所にバックアップを受けている勝ち上がって来た新人らしいが……。

 

 出場者用に繋げられた開戦から開始の告知がなされる。徐々に減っていくカウントが私の鼓動を加速させる。


「――――この様に緊張するなど初ライブいらいじゃないかな? まるでデビューしたての新人の気持ちを思い出したよ」


「エイネーグにも初々しい時期があったのだな」


「私の肝が太いとでもいいたいのかい? 失礼だなベアトリーチェは。私にだって生娘の様にビクビクしていた時期があったものさ」


「――ブフッ! 笑わせるなよエイネーグ。緊張が吹き飛んでしまったじゃないか」


「…………緊張を無くすために言った冗談ではないのだが――――まぁいい。行くぞ」


「ああ、行こうっ!!」


 ゴーグルのスイッチをオンにすると視界中に何十万もの観客に包まれている。


「――――ゴーグルを外さなければ良かったと今更ながら思ったよベアトリーチェ」


「ああ、ドームでもこんな動員数を記録したことはない…………VRの世界とはこのような事も可能にさせるのか――――昂るではないかッ!!」


 私達のグループ【ICICLE】をイメージした雪景色の銀世界、氷の巨城の中央広場は人で埋め尽くされている。


 空中に浮遊する氷のステージに立つ私達は百万にも届く眼に射貫かれている。


 期待、興奮、歓喜、歓声。


 全てが私達の後押しをし、エネルギーへと変えてくれる。


『――――聞いてください。【氷花】』


 アイシクルの代表曲のイントロが荘厳なオーケストラの元流れ始める。音圧も音響も素晴らしく、心を振るわせてくれる。


 この最高のステージで最高のパフォーマンスを披露しないわけにはいかない!!

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