新世界へ
現在私生活が安定してきている。スサノオを倒したことにより日本中の神仏に衝撃が走り、学問の神の様に戦闘力をあまり持たない神などが降伏、傘下に入る動きを一気に見せ始めたのだ。
そのせいか日本中に邪神の領域が一気に広がりを見せ、高天原勢の連中ではアマテラスやツクヨミさえ降伏を申し出てきている、残るはイザナギだけなのだが隠居爺は奥に引っ込んで出てこない。――いずれイザナミに処分してもらうとしよう。
傘下に入った神々には邪神に忠誠を誓わせる為に銀を含ませた怨嗟の欠片を埋め込んでいる。反乱防止の為、縁と紬が進言してきたためだ。
裏切れば即座に闇落ちし、黄泉の住人となってしまう。すでに数人程闇に落ちてしまい彼らは戦々恐々としているようだ。
日本各地には神仏や妖怪たちが私の力を与えて現界している、神社や寺などでは大混乱が起こっているが、最近妖怪などが街を歩くようになり緩やかに馴染んできている。
おかげで信仰が過去最高値となり神仏は複雑な表情をしている、なかには祟り神を奉っていることに気付き誤魔化そうとしている神社もいるとかいないとか。
私は別に神仏が嫌いで滅ぼそうとしているわけではなく神社庁とのいざこざから発展したことを説明すると烈火のごとくおこり裏の連中へ神罰が降り注いだ、葉隠れ一族だけは良く動いてくれたことを伝えておくとその一族からお土産屋に売っている葉隠れ饅頭が届くようになったな。全然隠れていない霊能力者たちだな。
数か月もすれば涼子との子や私の血筋を引いた神の子供がポコポコ生まれてきており、神威と言うべきものが急激に増大してきている。この世界特有の信仰から来るものなのだろう、私の欠片と言うべきものを所持している者から信仰が間接的に流れてきている。
アマテラスがこのテレビの生放送に出演して日本の真実の歴史を語ったことにより認知度が上がったせいだろう。――やつには何かボーナスでも出しておかなければな。
なぜか縁繋神社が神の派遣会社の元締めになってきている気がしないでもない。
新しく政治家になった連中は神社や寺の息が掛かったものがおおく、大雨や洪水、地震などを一定の国家予算を割り振ってもらい神がそれに対処している。
国会議員の選挙の際にもマニフェストに掲げられており、自然災害を管理できるなら安いものだと国民からも賛同を得られている。
縁繋神社の本殿は会議室の様に改装されており、空間に投影されたモニターには世界地図が表示されている。
およそ八割が青く染まっており全て私達の占領下におかれている。
「西洋の連中が引きこもって中々出てこないにゃ~、ご主人様に出張って貰わずに占領できると思ったのににゃあ~」
猫耳の生えた幼女を抱っこしながらぼやいている紬。最近生まれた第一子の可愛い子だ。
「まったく張り切った割には結果がガッカリですよー、こんなおばちゃんみたいに駄猫になっちゃだめですよ~我が子よー」
胸元に抱き締めながら子に囁いている縁、この子も第一子のキツネ幼女である。
「なんで私がここに居るのか分からないんだけど。旦那の会社がうまく行って収入がたっぷりあれば問題ないわ」
涼子がそうぼやいているが事務仕事などを手伝ってくれている。
「まあ、一応私の出身世界なんだ。荒廃しなければ適当にやってくれいいぞ。――各世界合同の女子会にも参加しているが問題はないか?」
「次元間にあんなお屋敷がある何てびっくりしたにゃ~、新参者だけど快く迎えられたにゃ~」
「宇宙戦艦なんてのもあるんですね~。もし次元間の渡航がおーけーになったら乗せてもらえる約束しちゃいました」
「ああ、陰陽術士といったかしら? 彼女も苦労しているようね。陰陽術士ではないけれど彼女の気持ちが良く分かるわ――あまり苦労掛けないようにね?」
「分かっている。――だがそろそろ私は次元を漂流してこようと思う。もちろん同位体がここにはすでにいると覆うが……」
彼女らにはひとりづつ私が帯同し、子育ての手伝いや交渉事も行っている。
「うにゃーん、御主人様の匂いの濃さが少しだけ少ないきがするにゃ。同じってことはわかるけどにゃん」
「旦那の帰りを待てない駄猫は捨てられるといいわ~」
「私には分からないけど……あまり危険な事はしないでね?」
ひとつ前の世界の人類を殲滅が終わりアラメスも処理能力が戻ってきている為、次元転移が安心して行える状態になった。もちろんこってりアラメスに怒られたが…………傷心期間は終了だ。
「分かった。定期的に女子会も開くからみんなと仲良くやってくれると嬉しい」
そう言うと部屋を出て行くと、宇宙空間へ飛び立っていく。
空気の無い暗闇の世界で心が落ち着くなんて私も宇宙に慣れたものだな。
「アラメス、ランダム転移を頼む」
[――準備中です。それで帰省はどうでしたか?]
実家へ帰り墓参りをした事を思い出した。それと幼馴染の涼子との仲もだな。
「有意義だった。自身の過去をハッキリと思い出せたし、墓参りも出来たしな――ただなぜ虚無の空間に居たのかは分からずじまいだな」
[――すぐにわかってしまっては面白くないでしょう?]
「ふふふ、そうだな。すべてわかったり、既知になるという事は楽しくないな」
空間が歪んでいきどこかへと引っ張られていく。
「アラメス、サポートを頼む」
[――どこまでもついて行きますよ]
世界が廻る。
◇
暗澹とした室内で口から血を流しながら歌を歌い続ける少女がいた。
その歌声はもはや呪詛の領域となり周囲を蝕んでいく。壁に血液が飛び散り、アイドルのような衣装がどす黒い血液で染まっている。
「――――アッ――ウウゥ゛ッ! アア゛ァアアアア――!」
頭を前後させリズムを取っているのだろう、血涙を流しながらもっともっとと感情を声に乗せて行く。その鬼気迫る表情は私ですら目を見張るものがある。
血液が致死量に近い量が流れているハズなのに彼女は歌い続ける。
――美しい。
素直にそう私が彼女に抱いた感情だ。
部屋の中に漂う異臭も、食べ物の残骸も、彼女が垂れ流した汚物さえ気にならない。
きっとここで歌い続けたのだろう、奇跡なぞに頼らず自らの力で歌を歌い続けたのだろう。
彼女の怨念にも似た歌に対する執着が伝わって来る。
彼女を注視し、解析すると薬物を使い過ぎて内臓がボロボロだ、肺が傷付き満足に呼吸すらできていない。
それでも歌うのか君は――――
「――――ゴボッ――――わ、わ゛たじには…………う、うたじが、うたしか、ないのに゛ぃぃぃ…………うば、うばわないでぇ…………こえ、を――――」
大量の血を吐き出し頭を地面に打ち付けると、床に零れた血溜まりに頬を擦り付ける。倒れた時に空の注射器が砕け、破片も身体に突き刺さっている。
「――――だ、だれぇ? ……まだ、わたしは、死ねない…………カエレぇえぇッ! しにがみ……めぇ――――」
焦点の合わない瞳で私をようやく認識したようだ。生にしがみ付く執念が凄い。
眉間に皺をよせ最後の力を振り絞り、私に一喝するとは……、それを最後に気を失い体温が急激に低下していっている。マズイな、このまま彼女を死なせるには惜しい――――死に際の願いを聞き届けるとしよう。
力を失いだらりと開けられた口に指を差し込み回復の権能を発動させる。
――奇跡の甘露。
顔を上に向けて胃の中へ流し込んでいく。
膝の上に彼女を乗せてしまったために私の衣服も汚れてしまったな……。
指先を払う仕草を行い≪清浄≫を発動させる。元は防音室だったのかコンクリートが打ちっぱなしにされた無機質な壁が出て来る。
食べ物の残骸や注射器が砕けた破片が綺麗に消滅していく。
彼女の身体を確認するとじわじわと内臓が再生していき、正常な状態へ戻っていく。声帯になにか障害があったようだな……これがあの姿になった原因か?
しばらくすると呼吸が落ち着いて行き、穏やかな寝息を立て始めた。彼女の衣服も≪清浄≫で綺麗になっており問題ないが……。
「取り敢えずここをがどんな世界なのか把握しないといけないな」
室内を漁るのは行儀が良くないが仕方ないだろう。アラメスにも頼んで情報収集を行う。




