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異世界めぐり/ Dimension Drifter  作者: 世も末
過去の原風景
127/159

邪悪領域拡大

 周囲が汚染されぬよう厳重な結界の中にとある神社の通信販売で購入した護符が封印を施されている。


 結界を張っている結界術士たちは滝のような汗を掻いている。


「駄目です結界が持ちませんッ! 汚染濃度が上昇、神秘が――神の秘術が破られていく……」


「意地でも持たせなさい――――こんな薄っぺらい十ユーロにも満たない護符にこんな邪悪な神気が込められているなんて……恐ろしい場所なのですね、縁繋神社とは」


 とある国の教会内ではYEAH! TUBEの邪神の眷属の生配信を見て調査に乗り出した巨大組織がいた。


 高品質な聖衣を纏う姿は階級の高さを表す。護符の調査をしている高齢の上位司教が険しい顔をしながら封印術の儀式を進めて行く。


 縁繋神社の護符を購入した下位の牧師が、安易に神聖な教会内に持ち込み大惨事が起きるところであったのだ。


 封印術がうまく進めることが出来ずに歯噛みする。


 聖なる光が護符を包み込むも邪悪なオーラが悪魔の様な手に変化していき封印術を食い破り始める。


「!! ――全員直ちに教会内より退避しなさい! もう持ちません! ここは放棄します!」


 結界を張っていた人員や見守っている幹部クラスの司祭の避難が完了すると封印術をそのままにし、外へ走り出し退避する。


 バキバキッ、教会の壁を突き破り、瘴気を放つ悪魔の手が教会を包み込み、暗黒の影へと沈んでいった。


 その影は周囲にじわじわと広がっていき、瘴気を周囲に振りまき始める。


 聖なる神気はあの悪魔の手の栄養となっているのか、聖術を放つたびに肥大化していく。


「そんな……我が神の神気が飲み込まれ、悪魔の糧となるのですか……」


 神の威光が効かないことに絶望する信徒達。これが邪悪な魔導書であったり、凶悪な悪霊ならまだ話はわかる。


「十ユーロの和紙の護符に教会支部の全力を出した上で負けたのですね……それに国内に何百枚と頒布されていることが確認されている…………。だめだわ、私が挫けてしまったら信徒たちにも神にも顔向けができません」


 そこへ秘匿回線を通じて緊急連絡が入って来る。


「どうしたの? 今は忙しいの。要件を早くいいなさいな」


「――不味いです。送信した画像を見て下さい」


 高齢の司教はデータを画面に表示させると嗚咽を感じさせるほどの瘴気に晒された。すぐさま聖術で防御を行い正気を取り戻した。


「なんなのッ! これは――――呪言の画像? 読めないけれど意味が込められている…………もしかしてっ!?」


 通話を繋げたままであった相手から返事が返って来る。


「この画像が全世界に出回っています……実際に魑魅魍魎や神秘に効果が出ており、一般人にはお守りとして出回りつつあります。体調が少し良くなる程度ですが証明され、爆発的に流行っております。――ですがそのエネルギー源は我々の神気や善なる存在を吸収し、魑魅魍魎は使役されどこかへと向かって行っています」


「――ああ、もう……だめなのかしら……護符でもないたった、たったこれだけで……我が神よりも高位な存在だというのッ!!」


「この画像が出回ってからすぐに神降ろしがなされ、我が神から信徒たちに伝えられた言葉があります。『決して逆らうなかれ、かの邪神は世界を飲み込んでも余りある力を持っておる。我なぞ塵にも等しき強大な力を……今は隠れ潜み、災厄が過ぎ去るのを待つのみ。不甲斐ない神を許せ。等しくそなたらを愛しておる』との事です…………不甲斐ないッ! 我らは神を失望させてしまったのか……」


 その伝言をきくなり司教は膝を地に着いた。絶望感と虚無感が胸の中に舞い込んでくる。


「あれは……あれは、安易に手を出してはいけない存在だったのですね……わかりました、今は牙を研ぎ雌伏の時を耐え忍びましょう――いつの日か討って見せます、邪神よ」


 そう決意する女性司教は周囲にこの事を伝え共に涙する、汚染された教会は接近禁止の上、永久封印とされ距離を置いた場所に一般人が入り込まないように認識阻害を施す。


 国内に広がる汚染に対しての聖術の禁止が間もなく通達され神の領域が狭まっていく。信心深い信徒たちに支えられながら辛うじて存続している神は震えながら災厄が過ぎ去るのを待つばかり。もし攻められでもしたら即時降伏の意を示すだろう。


 神とて意識のある存在。永遠と思われた命が消滅する可能性が出てきたのだから。命が惜しい――今日程人間の感情を理解した神達は多いだろう。そしてこうも思った。


 ――もっと人間に寄り添って行こうと。


 実感しなければわからなかった人間の心。共感さえ覚えてしまった人間臭くなった神。偉大さよりも親しみやすさが増えた神に信徒の信仰心も増えたのは怪我の功名だろう。







 九州地方の繁華街にある元コンビニエンスストアの居抜き物件の看板には、縁繋神社:アンテナショップと掲げられ店舗内に護符やペットボトルに詰め込まれた霊水を買い求める客で混雑している。

 

 店舗の外には妖怪が人間に擬態して待ち時間を表示した案内板を掲げている。


「在庫は充分にありますにゃ~ちゃんと並んで待つんだにゃ~」


 猫又である彼女は人間に擬態している、つもりなのだが明らかに人外とバレバレであり、周囲の人間がスマホで撮影を行いネットに画像データがあげられている。


「店長~っ! 列が道路までできて、警察の野郎が来たにゃ~」


「えぇっ! これで何回目よ! 絶対目を付けられてるわね……」


 店長であるママ猫又が髭をピクピクさせながら恨み言を呟く。


 現在縁繋神社のアンテナショップは全国の北から南まで七地域に一店舗づつしか存在していない。実際に効果のある護符がテレビやネット媒体でも紹介され爆発的な人気となっている。


 ネットで転売もされ始めるもすぐさま鎮静化しており、値段の高騰は起きていない。護符や霊水、ブレスレットなどが出品された瞬間い個人情報が特定され神仏妖怪掲示板に晒し上げられるからだ。


 流通の阻害を絶対に許さないという強固な意志を感じ、今では転売する者はいない。


 警察への対応をのらりくらりと躱して店内へ戻って来るママ猫又。


 しばらくすると娘猫又がまた店内へ入って来る。


「また何かあったの?」


 やれやれとウンザリとした様子を見せる。


「今度は学問の神の使いが菓子折り付きでやって来たにゃ~どうするにゃ?」


「――猫神様案件ね。事務所に案内して頂戴、なるべく粗雑に扱わないようにね?」


 すぐさま眷属や配下に配られている高性能デバイスを使い、猫神様へと連絡を取る。


「――九州支部の艶姫つやひめです。猫神様、学問の神の手下が菓子折り付きで挨拶に来ました。――ええ、はい。 ――ッ! 分かりました。そのように対処します。はい、はい。間違いなく――――あれを渡せばいいんですね?」


 ママ猫又は猫神の上司に艶姫と名付けられ喜んでいたが、そのせいで猫神からの猫使いが荒い。通話を行っている最中だがこめかみに手を当てて顔を伏せている。


 手入れを欠かしていないつやつやの自慢の尻尾も煤けているように見える。


 通話が終わり艶姫はデバイスを地面に叩きつける。頑丈な作りをしているのでデバイスは傷ひとつ付いていない。


「あんの糞アバズレ猫がぁッ! ご主人様に名付けをしてもらったことを根に持ってこうもネチネチと嫌がらせをしてきやがってっ!!」


 フッシャー!! と耳と尻尾の毛が逆立ち、お淑やかなタイプの顔が憤怒の形相へと変わっている。周りにいる娘猫叉や息子猫叉がビクビクと怯えている。


 しばらく備品を蹴ったり破壊したりするとようやく落ち着いて、いつもの大和撫子然とした雰囲気に戻る。


「――――ふにゅぅ。こんなところをご主人様に見られたらせっかくの寵愛が受けられなくなってしまいますわ……おほほほほ」


 人間の大きさまで成長した艶姫との子猫叉がぽこぽこ生まれてきており、成長力も学習能力も高く、今店内にいる子猫叉もすべて二人の愛の結晶だ。


「それにしても“コレ”を渡して来いなんて宣戦布告をしていると思われても仕方がないじゃないですか――――だぶんそれが狙いなのですけれど」


 ご主人様から受け取っている怨嗟の結晶を手の平で転がして遊んでいる艶姫。


「ああ、学問の神の使いの顔が歪むのは面白いですけど…………戦争が起きるでしょうね、間違いなく」


 こうしてアンテナショップを開き、日本各地の神域や、霊域はドンドン汚染されて行っている。地方に根を張っている神や仏が黙っているはずがない。

 

 すでに生存権を巡る争いは始まっているのだ。


「だとしても、地方のクッソたれの神や仏共。力の無いあの頃の猫又ではないことを見せてやるわ」


 大妖怪へ成長した今の艶姫の力はそこらの神や仏とも遜色ないほどになっている、周辺に存在する悪霊や猫叉を吸収、傘下に置き一大勢力となっている。


 神社の境内や、寺の仏閣に護符や怨嗟の結晶をテロリズム的に投げ込んだり、閑散とした田舎に人海戦術で邪悪な結界を設置していっている。


 神域から早々出てこれない引きこもり共の力はドンドン削れていっているはずだ。


 やる気に満ちた表情で伸ばした爪をペロリと舐める。


 ザラリとした猫舌が爪を研いでいく。争いの時は近い。

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