糧となれ
月面近くに設置されているディメンションゲートの解析、小型化に成功し徐々に広がりを見せている私固有の次元空間へやってきている。
何度かディメンションゲートの警護の依頼が来ており、間近で確認できる機会があったためその時に調査を行っている。
今いる同位体全ての出力をフル活用しても日に数センチほどの拡張しかできていない。
回収した人間のブランクを存在強化に全て回しているが次元の生成は困難を極めている。
家族で暮らすには多少狭いが生活できるほどには拡張することが出来た。
ディメンションゲートを組み込んだ安定装置兼転移装置の設置にはクレア女史が立ち会っている。
「ようやくこれで家族が揃って生活できるようになるわね。あなたにしては遅かったんじゃない?」
エデン世界では異星体の侵略も落ち着いており、ヒトゲノム変異を進め人工進化を促す薬と、同化現象の抑止剤の発明は発表され彼女は大忙しとなっている。
寛げる空間が欲しいとの事で設置を無理にでも行ってくれたが。
「それにしてもあなたの子供、もう百人超えるわよ? 私達の子もすでにIQが高い事を示しているわ。女性側の特性が強く反映されるようになんているみたいよ?」
私の子供たちは女の子しか存在せずに、魔臓の出力が高い子、最初から神の権能を所持している子、カリスマと覇気に満ち溢れている子、霊力がお腹に居るころから放出を始めている子など才能豊かな子供達となっている。
「もう種族として名乗っていいぐらいに繁栄が約束されているようなものね。――よしできた、これで各世界にいる子達に転送リングやチップを埋め込めば任意での次元転送が可能になったわ」
「そうか、ならば次元の拡張作業を頑張らないといけないな。惑星の吸収と今いる世界の魂の回収で演算能力の向上と出力が上がっているから同位体も増やせるしな」
「あなた同位体を増やすのは良いけどお盛んなのはどうなのかしら? レギオンに所属してる子たちが幸せそうなのは良い事だけれど……」
すでにレギオンの子達ともひとりひとり私がそばについている。
「身重の妻を一人にはしておけないだろう? もう少しここも大きくなったら独自に学校でも運営しようかね」
「それには賛成だわ。各世界の技術交流の拠点ともなるのね。一つの世界に固執しない聡明な子に育って欲しいわね」
そう語り合いながら寄り添っていく。
すでに全員に配布している最新型デバイスには次元間通信も可能と成っており妻同士の交流も活発になってきている。
各世界の固有の問題や子育ての悩みなど話し合っているようだ。
「そういえば今いる世界、戦争中なんでしょ? そろそろ片付きそう?」
「地球への降下作戦が計画されている所だ。配属は決まったようなものだが命令は降りてきていないな」
「あなたの配属先に悩んでいるんじゃないの? へたをすれば国が滅びそうだわ」
「失礼な。これでも手加減には慣れてきた――ハズだ」
「錬金世界で大陸を滅ぼしそうになったとルクレに聞いたわよ?」
むう。情報が早いな。クレア女史にとって錬金術師の技術は興味深い分野の様だな。
「降下作戦が終われば今の世界も必要な技術はない、と思う。また次元の漂流を始めるさ」
「ウチの旦那はいっつもフラフラと……まぁ、ここに来ればすぐにでも会えるようになるし検疫や世界の理の適性を調査していけば他世界へと往来できるなるしね」
「エデンの後輩世界からすれば精霊世界や魔導世界が平和に見えるだろうな。そういう所でも交流で楽しんで行けばいい」
「荒廃した世界なんて見てもなにも面白くないもの、平和で豊かで活気にあふれた世界がみたいのよね」
「身体が作り変えらられていれば理に対する耐性と適性が生まれるが、全員がそれを望んでいるわけではないからな。そこの所調査を進めて行くさ」
「早くしなさいよね。楽しみに待っているんだから」
それからクレア女史と固有次元内のマイホームにて逢瀬を楽しんだ、彼女の世界に帰った後で再びこの次元の調整をアラメスと試行錯誤していく。
[――まずは拡張優先してみてはいかがですか? 時間はかかりますが私達に時間など気にしなくてもいいですから]
「そういうな、ちょっと平和な世界も見たいものもいるんだろう。次元と理の耐性を付与できるアイテム開発の開発頼んだぞ?」
[――いいでしょう。その代わり楽しい次元世界を私と共に見て行きましょうね]
「もちろんだ」
◇
地球降下作戦の前哨戦として衛星軌道上からの艦砲射撃が行われている。
地上へ降り注ぐビームの雨は軍事施設をピンポイントで焼き払っていく。すでに宇宙圏で地球連合軍の戦力は皆無であり、反乱軍の所属するコロニーも制圧された。
私は新型兵装と歌い、大型PCC兵装である全長一キロのMPCC/メガフォトンコラプサーキャノンを四門周囲に浮かばせており、いつでも射撃ができるように待機している。
戦艦ほどの全長であるが線が細くなっており、遠くから見れば巨大なビームソードの形状をしている。
なぜここで待機しているかと言うと。軍上層部からの強制命令があった。艦砲射撃ではビームシールドを展開され効力射が見込めないと判断されており。それを打破できる特異技術を披露せよと意識高に言われたのだ。――生意気にもな。
未だに根強いアース教徒の連合大陸を攻撃せよとの“ご命令”なので時間を掛けてクレア史とアラメスの共同開発を行い、とんでもない兵装へと仕上がっている。
原子崩壊の拡散速度と連鎖崩壊の能力も向上しており、大陸なら確実に滅ぼせるとお墨付きを受けている。
『特務部隊ダンタリオン戦時少佐。間もなく作戦時刻となっております――射撃準備が完了次第、こちらへ報告をお願いします』
「了解した。こちらはいつでも大丈夫だ。そちらのタイミングでカウントしてくれ」
『了解。間もなく第一次艦砲射撃は終了します』
大気圏内の滞空している地球連合軍の艦隊が沈没していく。
しばらくするとビームの雨は止み、連合大陸が照準内に入った。
『命令。直ちに発射態勢に入れ――――カウントスタートします。五、四、三、二、一、撃て』
トリガーを引く。
圧縮されソード状に整えられたフォトンビームが大陸に接触。眼に見えるほどの大爆発が連鎖的に起こっていく。
ギャリギャリギャリ、地球の回転に合わせて地面が引き裂かれ、大陸が悲鳴を上げている。通過した後にはマグマが間もなく吹き出し、大都市を飲み込んでいく。
連鎖崩壊の作用によって広範囲に渡り原子崩壊が発生、地上に住む人々が真っ先に消滅していく。
四筋のフォトンビームが大陸を五等分にし、やがてマグマと水蒸気爆発によって大爆発が起こり、見るも無残な姿になる。
緑色の粒子は人々を蝕む毒として残り続けている。
「どうだねオペレーター君。君の命令で何億もの人間が消滅するさまを見て。世紀に残る英雄として語られるのではないか?」
『――――うぷっ。趣味が悪い冗談ですね』
「うむ冗談だ。この奪った命は私が頂いたものだ。誰にも渡さんよ」
何億もの怨嗟が心地いい。
どれ、駄目押しをするかね。
停止していたMPCCを再稼働。圧縮率上昇。
『――高エネルギー反応確認……まさかッ! あなたと言う人は悪魔かッ!』
「MPCC発射」
再び大陸に襲い掛かる四つのフォトンビーム。辛うじて生きていた人間も取りこぼさずに逝けただろう。
地殻に深く叩き込まれたビームが地上の地球内部の大規模変動を起こし、世界中に感じた事のない大地震が襲い掛かる。
連合大陸は疎か、他の大陸でも大損害を受けているだろう。
頑強に建てられたシェルターのアンカーさえへし折り、高層ビルは崩壊した。
沿岸部は大津波で壊滅し、大気温度も上昇するはずだ。
艦砲射撃を行っていたグイン帝国の宇宙艦の混乱した様子の通信が飛び交っている。――あれはいったい何なんだ、と。
『!! 即時射撃中止命令が軍上層部から発令されましたッ!! もう、もう辞めて下さい……』
「ん? アース教徒は地球を大事にしているからこうして戦争が起きているのではないか? ならば――――地球を無くしてしまえばいいのではないか?」
ガキョン――四門のMPCCが前方に構えられると中央に黒点が発生し始める。
『死よ、生よ、等しく無価値であり、無知蒙昧な塵どもよ、今ここで虚無へと還れ、我の慈悲として糧として生きることを許す、眠るように消滅せよ――――』
『――――ッ! それは報告にあった…………黒点」
「愚かな軍上層部よ。私に命令をするとはこういうことだ。しかと目に焼き付けると良い」
――虚無の回廊
私の機体から放たれた黒点は壊滅した連合大陸上空に命中する。
反応が見られない様子にオペレーターも疑問の声をあげた。
『反応は……ありません……失敗したようで――――』
キュゴッ。黒点が莫大なエネルギーの坩堝として顕現すると瞬く間に大陸が飲み込まれた。
『!! 高エネルギー反応増大! 留まることを知りません!? このままでは……地球が…………滅びてしまう…………』
どんどん大きくなる黒点は隣接している大陸にも影響を及ぼし始めている。
『あれを! あれを止めることはできないんですかッ!?』
「命令を下したのは貴様だろう? ――もう誰にも止められんよ」
グイン帝国軍全ての物が地球が黒点に飲み込まれていく姿を呆然と見つめている。
「それよりもいいのか? 即座に全軍後退しなければ重力異常に飲み込まれるぞ?」
『!! 司令部へ緊急通信! このままでは重力異常が発生し、衛星軌道上にいる艦隊が飲み込まれてしまいます! ――繰り返します、このままでは重力異常が発生し――――』
地球が抉られていき、すでに取り返しのつかない程に飲み込まれたとき黒点が急に力を失い消滅する。
「やはり不完全だったか。連射すれば惑星崩壊が可能だがまだまだ出力の安定には至っていないな。データの収集はできたし良しとするか」
艦隊に見えないように地球の核の部分へ私の銀を転送していく。せっかくのごちそうだ、無駄なく私の糧となってくれ。
『重量異常発生確認しました。惑星中心に引き込まれていきます!!』
信じていなかった艦隊も焦り始め全力で離脱を始めている。忠告はして置いたので巻き込まれても私は責任を取るつもりが無い。
徐々に自らの自転により崩壊を始めている地球、住んでいる人間が数十億人と莫大であった為、アスタロトの概念を与え作り出した破壊神と共に吸収した惑星よりも存在値が含まれている。
また一段階、私が強化されることになるだろう。
「作戦終了だ。――ちなみに私はこの放った攻撃を受けてもビクともしない事を言っておこう。強制命令など出した軍上層部の無能共は大人しく引退しておけ。――もし、私の友人や知人が危害を加えられたその時は、命令を下したクズの故郷が数秒で滅びることをここに宣言する」
そう言うとMPCCを収納し戦艦ケルビムへと帰投する。
格納庫内では静まり返った空気が流れていたがな。




