訓練
昨夜、ハイネマンと会話はできたが蟠りの解消には至らなかった。
そうしているうちにディメンションゲートが近くにあるコロニーに到着してしまう、厳重な臨検が行われ二日ほどドック内で取り調べを行う程の警戒を敷いていた。
その間にハイネマンはエヴォルグと共にどこかに行っており連絡が取れていない、これほどの厳重な警戒を行っているコロニーなので安全だと思うがな。
情報ネットワークのセキュリティを突破し、情報を閲覧するとかなり統制の取れた軍隊だな。下位貴族の納めている場所とは全然違う。
戦艦ケルビムもここの軍隊に編入されることになるだろう。
外出は許可されていない為、ケルビムのカタパルトデッキに寝そべりながらタバコの煙を宙に拭き付け、益体もなくボンヤリと考える。
ふと、視界に陰が掛かると帝国軍人の女性の正装の中にある秘められた純白のレースのパンティーが見える。やや食い込んでおりそこはかとないエロスを感じる。
「感想は?」
「見かけによらず純なパンティーだな。機会があればぜひ脱がしたいな」
「バッカ野郎」
ぐしゃり。尖ったヒールが私の額に突き刺さる。しかしパンティーを拝むのを辞めない。
「いつまで見てんだ? 金取るぞ、そんなに暇してんならW.Fのシミュレート手伝え。てめぇが寄越した射撃管制システムの調整で忙しいんだよ、ちょっと的になってくれるだけいいからよ?」
「ふむ。――勝負するか? もし私に勝つことが出来れば何か君が好きなものをプレゼントしよう。宝石でも、戦闘用システムの改善でもいい」
親指を弾いてルビーの宝石を彼女に渡す。
「それは情熱的な君の髪に似合うルビーだ、これは挨拶代わりのプレゼントだがね。そして、私が勝てば――――情熱的なキスを君から頂こう」
彼女のこめかみがピクリと反応する。両腕は前に組んで堂々と大股を開き、仁王立ちに変わる。
「良い度胸じゃねえか。もちろんチームで挑んでいいんだよなぁ? あたしらが勝てば人数分プレゼントとやらを寄越しなッ!!」
「もちろんだ、勝てればいいがな――それと、いつまでもパンティーを見せるという事は誘っているのかね?」
いつまでも寝転ぶ私の目の前には開かれた彼女の局部、食い込みまでハッキリと見えている。
「――ッシ!」
カァンッ、とデッキとヒールの衝突音が響くも私は回避している。
「一度は受けたがあくまで謝罪代わりだ。そういうアピールは丁寧に受ける事が私の流儀だよ」
すでに彼女の背後に回り込んでおり、背中を指で上からツツイと擦り下ろす。
「ッ!! テンメッ!」
振り返り裏拳の攻撃が来る、手首をに捻り上げ彼女の背に回すと必然と両者の顔が近くに来る。
吐息を感じれる距離で鼻先が触れる。
「情熱的な女は嫌いじゃないがね。だがいつまでも勝てると思わない方がいい、もう少し慎みを覚えたまえ」
空いている左手のフックが迫るも人差し指で受け止める、今度は膝蹴りか、本当活きがいい女だ。
捻り上げた手を離し、彼女と距離を取った。
「W.Fで決着を付けるのだろう? 白兵戦も得意だが……」
「ッチ。さっさと行くぞ。ぜってぇブッ殺してやる!!」
彼女の背後に着いて行くと格納庫の近くにあるシミュレーションルームへ入室すると、十数台もの簡易的なコクピットブロックが並べられている。
増員されたケルビム所属のW.F部隊員も訓練を行なっており私へ視線が集中する。
「われらがケルビムの救世主“狂人ダンタリオン”がW.F部隊全員を完膚なきまでに叩き潰してくれるとさ。――商品は好きなものをなんでも奢ってくれるとさ」
さきほど彼女に渡したルビーを見せびらかしペロリと舐めとる。
女性隊員が比較的多く、目の色を変えている。
「――このシミュレーターは実際の機動に対して疑似重力が発生する。パイロットスーツに着替えなくてもいいのか?」
彼女は更衣室に向かう際そう声を掛けて来る。
「なに、じゃれて来る小娘数匹あやすことに力は必要ないだろう?」
「ッチ、いけすかねえ男だ」
私は適当なシミュレーターに入ると目を瞑り戦闘を心待ちにし瞑想する。
戦場はビルがひしめく都市戦すでに試合は始まっていないが互いに位置取りを開始している。
私は都市の大通りに実体剣を両手に装備しているだけである。
射撃兵装など装備しておらず機体は量産型。舐めプをするつもりかとスピーカー越しに叫ばれるも相手になれば装備してやると挑発する。
――GET READY?
モニターに戦闘開始の合図が表示される。もちろん構わないとも。
――COMBAT START!!
開始の合図とともに視界が数十の光線で埋め尽くされる、ピッ、ほんのワンアクションレバーを動かし、軽く前進させるとすり抜けるようにビームを回避する。
前進、前進、半身になり回転、後方へステップ、着地の瞬間を狙われたので実体剣を地面に突き刺し反動で後転する。
変則回避をする際には実体剣の重量に身を任せて回避する。その様はまるでW.Fのバレリーナを幻視させる。
最小限の回避で最大効率を叩き出している。
視界端に表示される戦闘データのステータスはパーフェクトを示している。
『なんだこの眠たい弾幕は? 機体バッテリーを三パーセントも消費していないぞ?』
そう挑発すると面制圧に切り替えたのかガトリングガンでの掃射が始まる、この量産機では回避行動が間に合わない。
――魔眼発動/未来視
ピィン――時が静止したように見える世界。モニターには私の機体に命中しようとする数百もの弾丸が見える。
ここだ――命中する弾丸目掛けて実体剣をそっと“置く”、左右の防御に使っている剣がゆらりゆらりと私の進む道を切り開いて行く。
前腕の外側に標準装備されているシールドも併用し、加速した疎開で数千発もの弾丸を処理していく。
数分間もの掃射が停止すると私の周辺には土煙が舞い、剣を横に薙ぐ。
――損傷軽微。
行儀悪く蹴撃も使用して弾丸を逸らしたためダメージを負ってしまった。
『もう終わりか? ならばそろそろ――――殺すぞ?』
彼らは死神を幻視してしまったのだろう。
広域スピーカーから聞こえる叫び声が決死のそれだ。
地面を駆け抜け高速で接近、ビームを回避し弾丸を逸らす。胴部へ突き込んだ実体剣がW.Fを撃墜。――振り向きざまにもう一本を投擲すると二機目も撃破される。
『!! ば、化け物がァッ!!』
引き抜いた重厚な剣を頭部から唐竹割にするとそのまま側転、敵W.Fのガトリングを拾い撃ち落とす。
次々に叫び声を上げながら断末魔を上げて行くW.F部隊、シミュレーターなのを忘れていないか?
ヒュオンッ――迫りくるビームソードの回避がギリギリで間に合った。これは詰ませに来ている、うまいなッ! セスティスッ!!
『やるじゃないかセスティスッ!! 眠たくなる子供のお守りかと思えば君は最高だな』
『化け物がぁッ! シミュレーターでモノホンの殺気を放ちやがってッ! 部下が使い物にならなくなったらどうしてくれる!?』
『なに、この程度の殺気で“おもらし”をするお子様は戦争に向かない。早期除隊したまえ』
『てめえだけは殺すッ!!』
ヒュウゥゥン――ステップで躱すも、背後に隠している瓦礫を私へ投擲してきた。シールドで受け、軽い衝撃。視界が塞がれる――狙いはこれかッ!!
――上ッ!?
空中に天地逆転の機体がガトリングの引き金を引いている。――キュリリィ。
ガトリングドラムの回転する音がやけに響く。
――ガガガガッ!
弾丸が迫る、装備している兵装もない、左腕パージ。
右手に左腕を装備し強引に、弾幕を突破すると彼女の機体へ接近、側面に回り右手で顔面を掴み、右足で彼女の脚部を払う動作をする。
――変則的大外刈り。
地面に叩きつけられた彼女の機体が余りの衝撃にバウンドする。
倒れた彼女の機体の胴部へ持ち上げた脚部を翳す。
『よく頑張った、トドメをくれてやろう』
『や、め……ロ……』
ゴシャリ。
――YOU WIN!!
圧倒的な戦力差で勝利を掴み取った、モニターには戦績とダメージレポート、詳細なステータスが表示される。
最後は泥臭い戦闘になってしまったがかなり満足している。彼女の様な戦闘技巧者が居るものだな。
シミュレーターを出ると担架で運ばれていくW.F部隊員が複数人いる。
余りの恐怖に失禁しているものさえいる、ダクダクと汗を大量に掻いたセスティスがシミュレーターから出て来る。
「――いわんこっちゃねえ。…………次からは殺気を抑えろ、訓練にならねえ」
「うん? もう断られると思っていたが?」
「てめぇぐらいの殺気と戦闘に慣れりゃウチの部隊は一騎当千の猛者になれる。私情を戦争に挟むほど耄碌してねえぞ? ――こっちへ来い」
彼女に呼ばれたので近くに寄る――頬を鷲掴みされると舌を捻じ込んでくる。
額から流れる彼女の汗が唇にも滴り、塩分を含んだ塩気のあるキスが新鮮に感じる。
舌を離すとぺろりと唇を舐め上げられると、彼女がごくりと喉を鳴らした。
「私に勝ったご褒美だ。――これ以上を望むなら無理やりでも組み伏せて見ろ」
そう言うと彼女はシャワー室へ向かって行く。
私も部屋に戻り軽く汗を流すとしよう、この場には居づらいからな。




