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異世界めぐり/ Dimension Drifter  作者: 世も末
宇宙進出世界
109/159

艦隊戦

 W.F/ウェポンフレーム――そう名付けられている由来は、基本となる骨組みにジェネレーター、バッテリー、コクピットブロックの換装を簡易的に行える上に、拡張性、発展性を含ませた画期的な発明である。


 開発され半世紀もの間長く愛され続け、バージョンアップを続けながら戦闘から小惑星の資源回収にも幅広く活用されている……か。


 頭部と胴体のみになっているエヴォルグの四肢の換装が格納庫で行われている。


 貴重な実戦データも複製され、兵装の開発や機体調整に使われている。


 ようやくジェネレーターの出力調整が行われ連続稼働時間の延長が可能となった、バッテリーに常に蓄えられるエネルギーを一気に消費しない限り長期稼働し続けることが出来る。 


 その他には戦艦に備え付けられたビーム砲や、高出力エンジンに期待している。


 私からすればまだまだW.Fはおもちゃのような感覚であり、私の反応速度に機体性能が追いついていない。


 撤退した先は、近くのコロニーにある駐屯地であり、そこにエヴォルグのデータを使い兵装の開発も進めば少しはマシになるだろう。


 換装する四肢は旧型の予備パーツを流用しており、細身の胴体にマッシブな四肢がややアンバランスだ。そこはパイロットの腕でカバーするしかないだろう。


 現在私はパイロットスーツに身を包み第ニ戦闘待機状態だ。


 撤退を行っているが追撃の軍隊が迫っているとの事、いつでも出撃できるようにしてはいるがエヴォルグの換装にもう少し時間が掛かるために予備戦闘要員の“第二”戦闘待機なのだ。


 ふわぁ、と欠伸をしながら格納庫の隅に漂っている、率直にいうと暇なのだ。


 呑気に他のW.Fを眺めていると昇降機の上に待機しているパイロットに睨みつけられる、このリオン級宇宙戦艦に配属されたW.F部隊で現在五機のW.Fが出撃準備をしている。


 私の事は所属している組織もなくハイネマン少佐が連れてきた得体の知れない傭兵なのだ。


 私の戦闘データも閲覧してるのだろう、嫉妬に似た感情も見られる。そんなに睨まなくても敵を撃墜できる機会は腐る程やって来るのにな。


 エヴォルグはハイネマン少佐が所属する開発チームの所有物となっており、テストパイロットして新型のW.Fを操縦しているのも反感を買う要素にもなっている。


 艦内に警報が鳴り響き、こちらに不利な撤退戦が開始された。









 数年ほど前から宇宙進出を積極的に行うグイン帝国と、母なる地球から離れることを良しとしない一部のアース教団の所属と思われるテロリストとの間で小競り合いが起きており、地球連合軍の強硬派の動きが活発になっていた。


 私が先程までいたユニオンコロニーで研究していた小型ジェネレーターの開発の成功を察知したのか、宣戦布告無しの侵略を開始。常識外の蛮行にグイン帝国は激怒し救援にも向かって来ている。


 ユニオンコロニーは数少ない中立地帯であったが強硬派の連合軍が支配地域として占領。そこで改めて宣戦布告をしグイン帝国に勝利する事ができたと嘯き、理解不能な恥知らずな行動を取った。


 もちろん情報操作を地球で行っておりグイン帝国には火に油を注いでいる状況だ。これは収まりがつかないだろうな、戦火が広がる一方だろう。


 私のデバイスのモニターにはこの戦艦の情報を閲覧できるように改良を施している、派遣した戦艦の撃破に腹に据えたのだろう、重巡洋艦二隻と駆逐艦が四隻追撃部隊として向かって来ている。


 戦艦や重巡洋艦など地球基準に呼び方が決められているが私の脳内で勝手に当て嵌めているだけだ。もちろん言語が全く違っているので仕方なしだ。


 珍しく共通語がこの世界では主言語となっており、他の言語があったとしても地方ごとに訛りが少々ある程度だ。


 艦砲射撃が始まると宇宙空間内にはビームなどが飛び交っている、戦艦表面には対ビームコーティングが施されているのでこの距離では牽制程度にしか役に立たない。


 接近し中距離からの攻撃じゃなければ撃墜は見込めない。


 しかし高度な射撃補正システムを搭載したレールキャノンの弾丸が命中すれば撃墜足り得る。


 だからこそ緊張感をもった戦闘が繰り広げられているのだろう。


 ブリッジ内には名も知らぬ艦長や射撃管制官の怒号が飛び交っている、撤退しつつの艦隊戦なので貴重なレールキャノンの弾丸を消費したくないのだろう。


 艦砲射撃への回避行動を取りつつ撤退ルートを潰されないように位置取りを行っている、なかなか腕のいいクルーが揃っているようだな。


 宇宙艦の速度に対応できないW.F部隊が格納庫でヤキモキしている。――だが五隻もの宇宙艦の包囲網が完成しつつあるぞ?


 ――W.F隊ッ! すぐに発艦準備を! 敵W.Fが二十機出てきました!


 慌ただしい艦内放送が聞こえるとともにパイロットたちが昇降機からコクピットへ飛び込んでいく。


 エヴォルグを整備していた人員のひとりが私にも声を掛けてきた。


「あんちゃんすまねえ、推進機関は正常に使用できるが特殊兵装が間に合ってねえ、あるのは実体剣だけだ…………それでも出撃要請がウチの姐さんから出ているんだ」


「ふむ。問題ないぞ?」


「死にに行かせるのは心苦しい…………――え゛ぇッ!? 出撃すんのか!? あの、あんちゃんの戦闘データを見たがそれでも危険だぞ!?」


「私に射撃武器等なくともブリッジを叩き潰して見せる。背部ウェポンラックに実体剣を積めるだけ積んでくれ。後は両手に物理シールドさえあれば何とかしよう」


 その言葉を聞くなり大声で整備員たちに指示を出し始めた。


「あんちゃん……頑張ってくんなッ! どんなにエヴォルグをぶっ壊して来ても俺らが直して見せるからよッ!!」


 換装中のエヴォルグへ搭乗すると、他のW.F部隊がカタパルトデッキか発進して行っている。


 この機体万能を目指しているだけあり実体剣が背部に三本、腰

周りに二本、両手にさえ持たせている。


 前腕の外側にシールドを装備させ終えると、今から単機特攻を始める狂人装備にしか見えない。事実なので言い訳のしようがないが。


 すでにW.F部隊は敵W.Fと戦闘を開始しており、私にも発進シークエンスを急かされている。


『エヴォルグ搭乗者の傭兵さん、現在の状況をデーター送信しています。心苦しいですが、宇宙艦の牽制、もしくは撃破とのオーダーが出ております……無茶ですよぉ艦長~、死にに行けと言っているようなものじゃないですかぁ』


『いいから早く発進させろ、この際ハイネマンのおもちゃでも手を借りるしかないんだよ――――聞いていたか傭兵。とっとと糞連合軍の宇宙艦を落として来いッ! 私のとっておきの酒を奢ってやらんこともない』


「――それは楽しみだな。一隻撃破に付き艦長の秘蔵の酒が景品として積み上げられるわけか……オペレーターの子にお酌もオマケしてくれれば頑張れるのだが……」


『ふぇぇ……駄目ですよう…………全ての敵宇宙艦撃破するなら将来性抜群ですし考えない事もないですよぅ?』


「したたかな女だな。他のオペレーターもこの子に騙されないようにしないとな――――換装終了。発進できるぞ? オペレートしてくれ嬢ちゃん」


 カタパルトにエヴォルグを設置させ、射出を待つ。


『ふぁいっ! カタパルト起動、カウント三。二、一、エヴォルグセカンド発進!!』


 電磁加速されたカタパルト押し出されていき、広大な宇宙空間へと飛び出っていく。


 すぐさま敵艦から照射されたビームを回転運動で回避する。


「ブーストの出力が段違いに上がっているな。――これなら宇宙艦を叩き潰しに行けそうだな」


 歯をむき出しにして獰猛に笑う。


 味方艦に接近していたW.Fを駄賃代わりに頂いておく。敵艦隊へ向け高速移動を開始し、すれ違うようにして敵の胴体から真っ二つに切断する。


 実体剣が多少ひしゃげるが突き込む分には問題ない。


 周囲の情報を瞬時に取得、味方W.F隊は防衛で手一杯の状況だ、エヴォルグに設定されているブースターのリミッターを外し限界加速する。人間には耐えられないGが襲い掛かるも私には問題ない。


 実体剣を前方に突き出すように構えると、味方W.Fに射撃を行っていた敵機の胴体を貫く。


 剣を切り払い敵機を捨てると強引に右に曲がっていく、遠心力とGがコクピット内部に襲い掛かり機体の四肢がギシギシと悲鳴をあげる。


 胴部以外は汎用パーツの流用であり耐久値が低いのか……。


 高速移動するエヴォルグがそのまま二機、三機、四機とW.Fを撃破すると宇宙艦へ舵を切る。


「援護には十分だろ? ちっとは気張れや正式パイロットさん達よぉ」


 二十機あるうちの四機撃墜だが、敵さんは混乱しており態勢を立て直すには時間が稼げる。


『――――舐めんじゃねえぞ傭兵がッ! ぶっ殺してやるッ!!』


 一機のW.Fがマシンガンで弾幕を張りながら突撃していく、敵機の背後に回り込むとビームを射出しコクピットを撃ち抜いた。


『やってやんよぉ! ウォルフガング部隊ッ! ポッと出にデカイ面させんじじゃねーぞ!!』


 そういうとフォーメーションを組みなおし数機のW.Fで取り囲み確実に撃破していく。


「やるではないか――――私は私の仕事をしなければ。な」


 右の手に構えていた実体剣を逆手に持ち、投擲の体勢を取る。


 加速する度に周囲の光景が流れるように過ぎ去っていく、照準はモニター内に表示されておらず迫りくる敵艦のブリッジは私だけには見えている。


 加速は十分、引き絞った腕部に構えた実体剣をブースタの逆噴射と同時に投擲する――――相殺されなかった加速力は実体剣に乗せられてブリッジ目掛けて飛んでいく。


 ――――ヒュッ、ゴオオオオォンッ!!


 誘爆はしなかったが敵重巡洋艦は沈黙、味方戦艦へ的当てをするだけの簡単な支持を出す。


「ほら、ブリッジ。止まっている的に当てるだけの簡単な仕事だろ? 私は忙しいのでね――後は任せたぞ」

 

『…………――ッ! 艦砲射撃開始ッ! …………嘘だろお前ぇ、本当に撃破しちまうなんて」


 数瞬程ブリッジが沈黙したがすぐさま騒がしくなる。


 私といえば、すでに近くにいる駆逐艦へ接近し実体剣をブリッジに振り下ろしている所だ。


 魔眼発動/未来視ヴィネ


 三隻目の重巡洋艦に接近する連れ、機銃の掃射が激しくなっている。撃沈された重巡洋艦の末路に焦ったのだろう。


 未来を見通せる私に十全に機動する機体が有れば鬼に金棒だ。


 右へ数ミリレバーを傾け、左方補助ブースターをコンマ五秒噴出、精密な操作で背後にビームと実体弾がすり抜けて行く。


 相手のモニターには弾幕を私の機体が通り抜けているような錯覚を受けているだろう。

 

 接近するブリッジのクルーの表情が私には見えて来る。――ひしゃげた実体剣の在庫処分に付き合ってくれ。


 グシャリ。数百名もの命が私に流れ込んでくる。


 惑星上の戦闘より艦隊戦の死者数の方が膨大だな。


 すでに数千人分ものブランクと怨嗟が溜まってきている。


 これで残り二隻、オペレーターのお酌と艦長秘蔵の酒を楽しみにしているぞ?

 

 援護射撃の戦艦が放つビームが重巡洋艦を完全に爆散させた。

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