激戦
情報を取得したいとW.Fを停止させ、バイパスの要所に設置されている端末に彼女のデバイスを接続してどこかと通信を行っている。
秘匿回線を使って置かう先にある戦艦と連絡を取り合っているのだろう。
デバイスに表示されたコロニーマップの殆んどが赤く表示されている。会話の度に染められるマップが占領された地域なのだろう。
その様子を見ながら、こっそり取り出したタバコを咥えて煙を味わう。
そろそろ、パイロットスーツと言う面倒なものを着なければならないそうだからな。
膝に感じる尻の柔らかさもいいのだが、意外と汗かきなのかじっとりしているんだよな。ああ、そういえば名前を聞いていないし名乗ってもいないな。
すでに二人ともパイロットスーツを着ており、若干熱苦しい。下着の上からスーツを着ている為、彼女の尻が先程よりも密着率が高い。
女性特有の体温の高さが伝わり変な気分になりそうだ。
バイパス内にある点検ダクトへ進路を変更すると匍匐前進のように進んで行く。脚部にローラーを装備していれば移動が楽なのだが宇宙戦仕様なのだろう、陸戦機でも整備のしやすさを考えれば実装されないだろうが。
W.Fの中でもエヴォルグは線の細いタイプで、設計段階の思想としては様々な追加兵装に対応するOSと熱核ジェネレーターで万能を目指すコンセプトらしい。
そういう機体だからこの山のような重りを運ばされているわけだ。
ダクト内ではかなり繊細な操縦が要求されている、壁にぶつけたら賠償金を払えなど言われなければ捨てて行くものを。すでに解析が終わり私にも製作可能となっているからな。
磁力を発生させる弾頭や、ジャミングシステムなど目新しい技術が山ほどあり、コロニーの解析を後回しにしてもアラメスが解析しているからな。
W.Fの引き渡しをしたら解析できなくなるし、操作している現在こっそりと兵装のシステムを起動させてシミュレートを繰り返している。
このデータを連合軍に売ったら恨まれそうだな。
機密ハッチを指先から出したマニュピレーターを使い解除する。ゴゴォン、と鋼鉄の扉が開くとようやくコロニー外殻へと出る。
残り少ないエネルギーを使用して脚部のブースターを吹かしてドックへ向かう。このW.Fは世界初の新型の小型ジェネレーターとバッテリーの複合機関であり、調整さえ終わればエネルギー不足に陥ることはない、と不安そうな顔で説明された。
『戦艦に搭載されている熱核ジェネレーターをW.Fに搭載すれば最強だよねッ?』と、構想、設計して搭載できるのは素直に凄いと思うよ。爆発しなければね。
コロニー外の宙域で何度も爆発事故が起きており、その記録も見つけてしまった。
W.Fはバッテリー稼働の機体であり量産機も企業ごとに開発が盛んでコストもそう掛からないのだが、この機体には戦艦並の開発コストがかかっている。
そりゃ、どうにかしてこの機体を戦艦に運び込みたいわけだ。
無重力空間をコロニー外殻に沿って進んで行く、膝の上はぐっしょりと汗で蒸れている。強気な態度が目立つ彼女だが内心を隠しているのだろう、自らも開発研究に携わっている大切な機体だからな。
――ビィィイッ!!
周囲に遮るものが無い為センサーが正常に作動したのだろう、ロックオンアラートが発せられる。
敵戦艦から発射された誘導ミサイルが数十発も迫って来ている。
「先に行っておく、兵装は諦めろ」
背負っているヘヴィマシンガンのロックを解除する。未来視でミサイルの軌道が重なる瞬間を見極め――――投擲する。
兵装が複数のミサイルと衝突し爆発、周囲も巻き込み誘爆する。
破片が飛んでくるが左腕に装備している物理シールドで防御した。
――緊急回避ッ!
ブースターを瞬間的に最大出力で吹かすと、高出力のビームが右脚部を掠り、溶けていく。
「救難信号を出せ。この機体を死守したいならな」
「とっくに出している!! あと五分粘れッ!」
「待ち合わせにしては早い方だがね――捕まってろ」
物理弾が高速で飛来するもビームよりは避けやすい、かなり離れた位置から射撃を行っているのが幸いだな。
背後にあるコロニーごと撃ち落とそうとしているのか?
コロニーに戦艦のビームが命中すると爆発して空気が抜けて行く。
仕方ないな、残りのエネルギーを背部ブースターに注ぎ込み加速体勢に移る、左腕のシールドを前面に構え、辛うじてビームを避けて行く。
加速の邪魔になる物理弾を繊細な操作で受け流し、次々と欠落していく。
すでに両足は大破しており、宇宙空間以外では行動できなくなっている。
戦艦の弾幕も厚くなっており相当焦っているのが伺える。
「意識はあるか?」
「――な、んとか、な……」
人間に耐えきれるギリギリに加速を行っているためコクピット内に掛かる重力も人間には耐え切れないだろう。
早く終わらせねばな。
敵戦艦のブリッジが見える位置まで接近に成功する。
残る最後の兵装であるミサイルランチャーを掴み取り、ブリッジに叩き込むとすぐさま右腕をパージすると全力で離脱した。
弾薬がたっぷり残っているミサイルランチャーが爆発すると、戦艦内部にあるジェネレーターなどが連鎖的に爆発を起こし、敵戦艦が宇宙の藻屑となった。
爆風によって機体がコロニー方面に流れるように調整したが、回収されるかどうかは分からない。
満身創痍の状態でエネルギー残量がなくなり、生命維持装置が作動している。
ジェネレーターに誘爆しなかっただけでも奇跡だな。
「生きてるか? ちょっと危なかったが何とかなっただろう」
「何とかなってない。なんだこのボロボロのステータスはッ!! 見事に胴体部以外が全損ではないか……。ああ、確かに助かったさ! だがあの弾幕に突っ込む奴は狂人以外の何物でもないぞッ!!」
ちょっと喧しいので胸を揉みしだいてやる。睨みつけられたが我慢しているようだ。
「頑張ったお礼としては安いものだろう? 兵装も無い、エネルギーもない、コロニーが危ない。その中で戦艦撃破の大殊勲ものだ」
「ああ、お前が行った戦闘はそれに値するものだ、だがこれは揉みすぎだろうッ! ――んっ。やめろッ!? もういいだろう! サービスはここまでだ!」
「しょうがないな、次を楽しみにしておくよ。ところでいつ回収されるんだ? とっくに五分は過ぎているが?」
「救難信号は出ているはずだが…………そら、通信が飛んできた。――応答せよッ! こちら開発研究部所属キーラ・ハイネマン少佐だ。機体の回収を頼む」
通信を切ると一息付けたのか汗を拭うと、私の胸板に後頭部を乗せた。
「少し疲れた。休ませてくれ」
「どうぞ。私も少々疲れているのだよ」
彼女の腹部に両手で抱きしめ、互いの体温を感じ取る。
短い時間の付き合いだが、死線を共に潜り抜ければ多少の友愛ものだ。
心地よいひとときが終了した時は少し名残惜しむ空気すら出ていた。
機体が宇宙戦艦に収容されると、ハイネマン少佐はブリッジへ行く。
外部協力者である私に機密事項を知られるわけにはいかないので、格納庫の端で座り込み、先程貰った飲料水をグビグビと飲んでいる。
整備員たちがエヴォルグの機体情報と戦闘データを確認している。特に戦闘データを閲覧した際には狂人を見るような目で私を見ていた。
さりげなく≪清浄≫を自身に掛け格納庫で無重力を楽しむ。
いつの間にか寝ていたのかハイネマン少佐に揺さぶられ目が覚めた。アラメスはこの戦艦データとシステムのハッキングに精を出していたため接近に気付かなかった。
まぁ、戦闘行動で私が負傷を負わないと分かっているのだろうな。
ビームの直撃を受けても無傷で生還せるだろう。
「寝ていたのか? 現在、敵戦力増援が接近中、コロニーから直ちに撤退する事が決定した。お前の腕を見込んでW.Fパイロットとしてこの艦に登録して置いた。どうだ、気が利くだろう?」
「お前の脳味噌はくらげ以下だな。反射で生きてやがる」
「なにを言う。くらげには脳味噌が無いぞ?」
「脳味噌がお前に無いって皮肉を言っているんだ。部屋の手配はされていないのか? 疲れているんだ」
手元にあるデバイスを操作して手続きをしているのだろう、忘れてやがったな。
「上等な部屋ではないが用意してある。案内するから着いてこい」
パイロットスーツのまま艦内を移動していく、無重力の移動は少しコツがいるな。
普段どおり飛行すればいいが人目が多いため、人間として行動している。
部屋の前に辿り着くと、ドアがスライドして室内が見える。まぁ住めないこともない広さに、ユニットバスが付いている。
「まぁ住めないこともないな。一緒に風呂でも入るか?」
「…………また今度な。それとこの書式データにサインしろ、我らグイン帝国の入隊宣誓書だ。書かないと機密違反で逮捕、処刑されるぞ?」
「あれだけドンパチを一般人が行えば、まあ分からない事も無いが……高くつくのはもちろん分かっているよな?」
「もちろんだ。楽しみに待っておけ。――もう少し活躍するのなら婿に取ることを考えてやらんでもない」
書式には“ダンタリオン”と記名する、この世界で通用するかどうか分からないがな。
「ダンタリオン――人を欺き、惑わす悪魔の名か……中々シャレの効いた名前じゃないか。私も騙されてしまうかもな? ハハハハッ」
騙される、ねぇ。
「意外とこの名を気に入っているのだよ。そろそろ風呂に入って寝る。用事が有ったら呼んでくれ」
「――ほら、これがお前の、ダンタリオンのデバイスだ、私のプライベートコードを入れてある。連絡が入ればすぐに応答しろよ? ではな」
デバイスを私に放り投げると部屋を出て行ってしまった。




