工房再建
焼け落ちた工房の残骸の撤去の為に街へ戻って来ると、メルシア店長がこちらに気付き駆け寄って来る。
「良かった……本当に無事でいてくれて」
「そんなに泣いちゃって……それにしてもどうしようかしら、工房が無くなってしまったわ」
メルシア店長とルクレ師匠が再開し、涙ながら抱き合っている。
「当てがある、ちょっと待っていろ」
要塞型のオートマトン製作を行っているAIに知り合いがいるんだ。
移動要塞型オートマトン/G.M.F.Fの同型が在庫にあり、ハーヴェストと取引をして売ってもらう。世紀末世界の私のインベントリに収納してこちらに取り寄せる。
ルクレの錬金工房は、危険なアイテムを錬金する事もあり敷地面積はかなり広い。地面をごっそりと掘り下げると要塞型オートマトンをその場所に設置する。
「外観は木材を使用して擬装しておこう、これで軍隊が来ても殲滅できるはずだ。セキュリティーも完備されており侵入者対策になる」
ズズン、と数十メートルの鉛色の巨体を降ろし、システムチェックをしながら説明する。
師匠はまた目頭を押さえているが感動のあまり涙が出そうなのだろう。
「しかもコレ空を飛ぶんだ。あとは錬金に必要な機材を購入するだけだな」
「ダンタリオン君これカッコいーね!! ドォーンって何か撃てるの?」
「ああ、撃てるぞ。王都の城も破壊できるフォトン機関を増設する予定だからな。精霊樹木も一発で焼き尽くす」
「あッ! 師匠師匠! 精霊樹木の枝を手に入れられませんでしたぁ……大樹海が燃え尽きちゃって~テヘッ」
グリンッ、と師匠がピコラの方へ凄い勢いで振り向いた。
「え、え、え、え……それって、ダンタリオン君が……焼いた?」
手先が震えてるぞ?
「ああ、クソ木材は焼き殺した。ピコラの試練でニタニタ笑いながら嫌がらせをしてきたからな。大丈夫、あそこの部隊員を半分にして口止めしておいたから」
地面に両手をついて頭を垂れた、ああ、そうか。
「大樹海の素材が入手できなくて落ち込んでいるのか……代わりに私が秘境へいって珍しい素材を取って来るから我慢してくれ」
「そういう事じゃないの……もういいわ……悪魔のダンタリオン君に大人しくしろと言う方が無理! 無茶! 無謀! だとわかったわ」
しばらく静かに話を聞いていたメルシアが話に加わって来る。
「あなた達さっきから物騒な話をしているけど……ダンタリオン君が悪魔って本当?」
師匠、君の頭は緩いけれど口まで緩いと救いようがないぞ?
師匠が罰として今までの事情を話す。ここまで師匠事を心配してくれる人もそうそういないだろう。
「――なるほどねぇ。王都が……まぁ知り合いはいたけれど私自身この街に出稼ぎに来て店を開いているし親戚や家族はいないから良かったけど」
「……申し開きもございません」
師匠がメルシアの静かな怒りに震えている。あれは怒り慣れているな。
「私のお店に防犯用のオートマトン? をくれるなら許しましょう。私の心配した切ない心の賠償金よ」
チラリとこちらに視線を向けるな師匠。もうそろそろルクレと呼び捨てしてもいいか?
「私の保有しているものでいいのなら。軽作業も行ってくれる高性能AI搭載型を出すぞ」
ドスンと目の前に複数のマニュピレーターが備わっているオートマトンを出現させる。
『マスター登録ヲ希望デスカ?』
「ああ、最上位権限をそこの女性。メルシアで登録してくれ」
『カシコマリマシタ、ニューマンタイプ、女性、推定三十五歳、体重五――』
ゴガン。オートマトンの頭にはメルシアによって石の塊が叩き込まれている。
「いいこと? オートマトン君? 女性の年齢と体重は永遠の秘密よ? ――分かったら返事しなさい」
『イエス。マイプリンセス』
シュババっと綺麗な敬礼を決めるオートマトン君。
お世辞が言える程に高性能なAIだったのか。メルシアと仲良くしてくれよ?
「整備関連は自動で行ってくれるが限度もある、ルクレのこの工房に来れば自動整備が行われるからな。だてに移動要塞は名乗っていない」
その代わり素材を補充しなければいけないのが難点だ。自動採掘機能を持つオートマトンいないかな?
錬金釜や必要な機材は特殊で、鉱山都市に注文しに行かなければならなくなった。街で入手できるものはピコラとマジョルが私がもう一台だしたオートマトン“ちゃん”と協力して運び込みメルシアは仕事へ戻っていった。
鉱山都市の職人と打ち合わせをしているルクレの後姿をボケッと眺めていると、目が合ってしまう。
「なに? 私の美貌に見とれていたわけね? おほほほほ」
「……黙っていれば美人なのは否定しないのだが。なんでそう残念なんだ?」
「なにが残念美人よ!?」
「そうは言っていないのだが……ほら、注文が終わったなら帰るぞ?」
「ちょっとお茶に付き合うくらいの甲斐性見せなさい?」
少しお高いラウンジへと連れていかれていしまい、ボックス席で対面に座るルクレはご満悦だ。
私の姿は基本的な年齢に戻しており、ウイスキーを炭酸で割って飲んでいる。
「その、姿ではダンタリオン君と呼べないわね、ダンタリオン――うちの子の引率お疲れ様。可愛いんだけれど小さいころから手間がかかってね」
「母親のような感想だな。実際母親代わりをしていたようなものだが……」
「まぁそうね、ピコラを引き取りに行ってからもう十年かしら。――あのクソアバズレ女が男と逃げた時は殺してやろうかと思ったけど。今にも思い出すたびに殺意が湧くわ」
「そういえばそんな女がいたとピコラから聞いていたな」
カラリ、と氷の音が鳴る。ルクレがグラスの酒を飲み干すと追加の注文を私が行う。
「ありがと――私の年代で男漁りで有名な奴だったのよ。子供ができて大人しくなったと思えば浮気して男に見捨てられてね。あの女が街を出たと耳にして、急いで子供の様子を見に行けば案の定よ」
「自宅で母親の帰りをずっと待っていたピコラを見つけた……か」
良くここまで元気なピコラを育て上げたものだ。変人だが立派に母親をしているな。
「ふふふ、ピコラは私が育て上げた子も同然よ! しかも錬金術師の素質が高いのも運が良かったわ。今回の杖の素材の件は残念だったけれど、また素材採集に向かうのでしょう?」
「もちろんだ、あのクソ木材より高次元な枝とやらを見つけて来る。狙いは世界樹だな」
「ああー、文献で残っている今は所在不明の世界樹ね? 当てはあるの?」
「もちろんだ。――別の世界だがね」
「そういえばこの世界に存在しなくてもどこかにあるわね。行ける人が居ればの話だけれど」
「ちょっと鎖国していて、外敵に敏感な国だ。二、三度戦闘が起こるが問題ないだろう」
「……その国が無くならないことを祈っているわ。いつか私も他の世界に連れて行ってくれる?」
「私の妻に成ればいずれ行ける。今はまだ次元間が安定していないから危険性と理に適応できない。種族変更すれば耐えれるが、まだ人間は辞めないのだろう?」
「……考えておくわ。そろそろ帰りましょうかあの子達がお夕飯を作って待っているわ」
「そうだな、母親に似ず家事が得意なピコラ達の料理だ、さぞかし美味しいだろう」
「あんたこのいい女を捕まえて皮肉とは良い度胸ね?」
「皮肉ではない。反省を促しているのだ」
ラウンジで飲食した会計を済ませると転移術で工房に帰って来る。
「おかえり~ってお酒臭いですよ師匠~ダンタリオン君にまだお酒飲ませちゃいけないんですよぉ?」
ルクレが私の方を振り向くとすでに幼子バージョンに戻っている。
「だ、大丈夫よ? さっきはおっきくなっていたし……」
「もう! 工房の片づけを私達に任せてお酒を飲んでくるだなんて……師匠はお夕飯抜きです!!」
「そ、そんなッ!! だったらダンタリオン君だって……」
「し、師匠が無理やりお酒を飲ませて……僕は断ったんだけど……」
目元に魔術で水滴を発生させ、涙の代わりにする。
「あんたぁッ! なに泣き真似してブリッ子までしてんのよッ!! ウイスキーをカパカパ飲んでいたくせにぃ~」
「フッ記憶にないな」
すっとぼけながらリビングへ向かう。
今日は引っ越し祝いで美味しそうなスキヤキだ、残念だったなルクレ。君はお夕飯抜きだそうな。
「あ、あ、あ、ああああああッ! 美味しそうなスキヤキィ……ピコラ……私頑張ったのよ?」
「駄目です~反省して下さい~」
ピコラは師匠に対しては頑固だからな、まぁちゃんと残して置くところが優しいけどな。




