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精霊樹木さんよぉ

 泥炭湿地を抜けようやく辺境都市……の入り口? に辿り着く。


「なあ、これは入り口なのか? 地図ではここになっているが、巨大な大木を雑にくり抜いただけに見えるのだが」


「ここで合ってるですよ~、師匠と一度だけ来たことがあるんですぅ」


 確かに城壁を建設するよりコストが掛からないが……いくら何でも雑だろう?


 トコトコと大木のゲートを潜ると辺境都市の街並みが視界に広がった。


「……確かに都市だな。いきなりファンタジックになったが」


 ここらの大木の耐久性が高いのか、巨木に窓が付いており、ツリーハウスなどが見られる。もしかしてここの住民は……。


「妖精族のヒトが多く住んでいるんです、魔“法”が得意な種族なんですよ~」


「――人間族が使う魔術とは違う、手足の動作だけで発動する現象そのものに近い種族……別名幻想種とも言われている」


「もしかして耳が長かったりするのか? ここの住人は?」


「え? なんで耳が長くなるんですか? モンスターではよくいますけどぉ?」


 アールヴとかエルフじゃないのか。









 肌の色が葉緑体を含んでいるのか緑がかっており、様々な種類の角が生えている。その形やツヤで女性にモテるかどうかが決まって来るらしい。


 魔術文字を刻む変人もいたりするとか。


 磨き粉と上質な布が良く商店街に並んでいるのはそういう事だろう。


 妖精は妖精でも私が知る種族ではゴブリン等の別種の進化した血統だろう。角と肌の色しか似ていないが。


「目的の精霊樹木へ向かうのには許可証がいるのだろう? 申請を行わなければいけないな」


「ですです~。中央樹林管理局へ行きましょ~」


 ファンタジックな街並みを横目に一際大きな大樹内に入っていく。磨き上げられた通路は高級家具を思わせ、爽やかな樹木の香りを漂わせている。


 受付の割符を渡されベンチに三人で腰を掛ける、周囲には素材採取に来ている錬金術師や仕入れを行うギルド員と様々な顔ぶれだ。特に錬金術師は怪しい格好をしているので分かり易い。


「三十五番の割符をお持ちの方ー、どうぞ受付へお進み下さいー」


 随分と現代日本にある役所みたいな所だな。ピコラが責任者として受付に行く。


「マジョルの杖も精霊樹木製に改造したいな……余分に回収できるものなのか?」


「……文献で読んだかぎり無理。枝を授ける人物の性質を見極め試練を与える――破壊し尽くせば可能だけど」


「うーん。ピコラの手前それはなあ――――こっそりならイケるか?」


「ちょっと奥まった場所に行けば……」


 二人して悪だくみを考えているとピコラの申請が通り、許可証を掲げ満面の笑みで戻って来た。


「……あの笑顔を曇らせるのは勇気がいるな」


「――我慢する」


 精霊樹木の枝の試練は日程が決められており、今のシーズンの授受者の空きがあった為最速で明日向かえることになった。


 目的地に着いたお祝いで高めの宿屋を取り、炭酸の効いたウイスキーを飲んでいる。たまには店が出す現地特産のハーブを利かせたから揚げを食べよう。


「枝の授受の試練への同行者は二人まで、か。良かったな? ひとりだったら寂しい思いをしたからな」


「よかったです~。ちょっと緊張してきました」


「むぐむぐ……大丈夫、ピコラなら、ね」


 授受するのにシーズンなんてあるのかと不思議に思うが、そういうものなのか? ちょっと心配になってきたぞ。

 

 食事も終わり、三人部屋へ宿泊する、現在ちんまいお子様な私は一緒に寝てもおかしくないのだ。大きなベットに彼女達の間に挟まれ、甘く暖かい匂いに包まれて夢の中に落ちて行く。









 許可証を精霊樹木の生息している道への門番へ見せると通行を許される。


 ある程度整備された道を辿っていくとそこまでの時間はかからずに到着する。


 緑色の粒子が巨大な精霊樹木から発生しており神聖な雰囲気を漂わせる。確かに許可証がいるのも頷ける。素行の悪い者や金銭目当てに乱獲されそうだ。


「では行ってくるですよ~試練の内容は秘密らしいですけど……」


「んー。何かあったら駆け付けるぞ? 最悪この樹木をぶった切るから安心しろ」


 トコトコと精霊樹木の木の根元に向かうピコラ、こういう試練系は精神修行に近いと定番だからな。ピコラなら大丈夫だろう。


 ピコラの前に緑の粒子が集まって来るとヒトの形を取り始める……ん? 機嫌が悪いのか? そういう思念が漂っている。


 ピコラが試練に入ったのか苦しんでいる、涙も流れ始めると確認の為、神の権能を行使する。


神の権能/人心掌握《臆病者の卑術》


 これは……過去のトラウマを執拗に呼び起こしてやがる。乗り越えろとでもいうのか? 試練としては正しいのかもしれないが――緑の粒子のヒトの表情がニヤついてやがる。


 ――死ね。


 瞬間的に樹木の根元へ移動するとダンタリオンの巨腕を顕現。


ダンタリオンの巨腕/憤怒の一撃

 

 金属装甲を纏った本気仕様の悪魔の腕が樹木の中心から崩壊させ、パンチの衝撃は地平線まで続いた。


発動アクティベーション炎の支配者(フレイム・ルーラー) 


 ――周囲一帯の精霊樹木を燃やし尽くせッ!!


 シュゴゥッ、と豪炎がサークルのように広がっていき樹海が燃えカスすら残さずに消えていく。


 ピコラの苦しみはすでに消えておりマジョルが抱えている。


 ――許さん。この樹海ごと消え失せろ。


 執拗に数十キロに及ぶ炎のサークルを今もなお展開し続ける。もちろん辺境都市を回避している。惑星を飲み込んだ私の瞬間出力は留まるところを知らない。このちっぽけな大樹海とやらもホコリ程度にしか思えんわ。


 数分程で見渡す限りの荒野と化し、ようやく怒りが収まった。


「……枝。どうしましょうか?」


「あんな性悪の枝なんぞピコラに似合わん。もっと最高の物を私が見つけ出してくれる!!」


 背中にピコラを抱えながら都市に戻ると門番が血相を変えて質問してくる。


「坊主たちッ!? 大丈夫か!? 急に炎が大樹海を燃やしちまった! 怪我をしてるんなら早く都市に戻るんだ!」


 ああ、良い人で良かった。今は虫の居所が悪いからな。


 辺境都市に戻ると兵士が隊列を組んで大樹海へ調査に向かう所だった。妖精族で固められた軍隊は皆一様に憔悴している。


 森を大切にし守ってきたことは分かる、だが傲慢になった精霊樹木を諫めなかった事で私の勘気に触れたな。


 すれ違いざまに、責任者らしきものに声を掛けられた。


「君達、授受者の許可証を配布された者か? なにかおかしなものを見なかったか? 大樹海消失の原因を探っているのだ――小さなことでもいい、教えてくれ」


 疑っての行動ではないようだ。特に心当たりはないので素直に答えた。


「いえ、試練を受ける為に向かっていた所、炎が広がっていましたのですぐに逃げてきました。枝の授受を楽しみにしていたのですが……残念です」


 本当に残念そうな顔をすると、訝しそうな顔を向けて来る。――こいつ。私の声質を呼んで――いるッ!


 足の甲を狙って槍を突き刺してきた。殺すのではなく捕縛に動くとは感心感心。


「キサマ、声に嘘の音色が混じっていた、妖精種族の特性を知らぬ者か……正直に言えば――――無期労働程度で済ませるが」


「それ、ただの奴隷だよね? 此方も今なら穏便に済ませてあげるけど……この辺境都市が無くなるよ?」


 威圧交じりに問うと攻撃が暫しやんでいる。


「あの、精霊樹木? 試練を使ってニヤケながら子供のトラウマで遊んでいたんだよ? 死ぬべきじゃないかな?」


「…………だからといって大樹海は辺境都市の大切な物。消えていい理由にならぬ」


「へぇ、そうだね。だけどお前たちが諫めなかった為こういう結果になった、反省すれば? フクククク」


「人間ではないな――何者だ?」


 全方位兵士で囲まれている。マジョルはまたかぁ、みたいな顔をして余裕の表情である。


「聞いたらこの都市が無くなっちゃうけどいいの? 今お前ら全員で膝を付いて精霊樹木の蛮行を謝罪するなら許してあげるけどどうする? フヒッ」


 身体からほんの少し殺意を滾らせていく。たったそれだけで失神しするものが出て来ている。


「勝てると思ってる? それとも仲良く玉砕する? ――早く答えろや」


 ゴォン、と踵を地面に打ち付けると周囲一帯に地震が発生する。バキバキバキと家屋が倒れる音が遠くから聞こえて来る。


「――も、申し訳ございませんで、した……」


「隊長ッ! こんな生意気なクソガキ早く殺しちまえばいいん―――」


 指先に伸ばした爪を往復させると、口の悪い兵士が四等分にされる。ドチャリと内臓を溢れさせ地面に崩れ落ちた。


「最後通告だ。ここに居る全員が謝罪を行い指名手配もせず今日の事を忘れる――――約束できるものは頷け。それ以外は…………死ね」


 半数以上は恐怖に膝を付き謝罪を始めた。


 残り半分は――まあ、いい訓練だ、マジョル、やれ。


「――ふふ、人間使ってみたかったの。『生命よ永久に永久に凍れ、寂しくて悲しい嘆きの果てへと――逝け』」


 呪文を併用そクロセル概念を増幅させ安定させる。膝を付いていない妖精族が身体の表面に結露を残し、生命を失う。


「……――あ、悪魔ッ!! 悪――」


 パアンッ。私の種族名を叫んだ兵士の頭部が弾け飛んだ。


「私の正体を“言って”はいけない、と、忠告したではないか? ――彼には残念な結果になったね」


 その種族名に気付いた兵士達は閉口し震えるだけだ。


「さて、隊長殿。運悪く私の機嫌を損ねた哀れな樹木がいたが……何も見なかった何も気づかなかった――だよね?」


「――ハッ! 何も見てはおりませんし気付いていません!! ――そういう事だ! 大樹海の調査へ出発ッ! 駆け足! 始めッ!」

 

 ズドドドドと、物凄い速さで駆けて行ってしまった。


「マジョル、うまい具合に調整できたね、エライエライ」


 よしよしと頭を撫でるとむふーと満足そうにしている。


 精霊種族にも興味があったので銀の中に死体を回収していく。


 この都市一番の宿屋へ泊って気分転換でもしよう。

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