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顎下からダンタリオン!

 コトコトコトコト。


 なぜ金属類すらこの温度で溶け混ざり合うのだろう。不条理を見た気がする。


 採取したばかりのイヤシ草と聖青結晶を配合し、体力回復の継続効果を見込める聖癒リングが出来上がった。


 販売利益は民間人の一か月の給料になる。


 辺境都市への中間地点となる鉱山都市では入場料を払えば採掘が可能で、私が新たな坑道を掘削、この世界特有の鉱石をこの都市の年間採掘量を上回る量を回収した。 


 作成しても特級錬金術師の資格を持っていないピコラは高額の錬金アイテムを販売できない。


 だが、師匠に鑑定をしてもらえば販売可能となるので、ガンガン錬金してストックしていっている。


「ほら、次の素材だぞ。このリングを千個作っても余る程採掘したからな」


「ダンタリオン君、限度と言うものがあると思うよお~、疲れたよぉ」


「ダンタリオン、別の魔術の術式見せて欲しい。練習する」


 鉱山都市に借り受けた簡易工房で錬金と魔術の教導を行っている。


 別の場所での錬金はピコラにとって新鮮で、成功率がわずかに上がっているとの事。マジョルは魔眼を使用して術式を解析、次々と習得していっている。


「そろそろ休憩しよう。紅茶を淹れてやるぞ? ――ロールケーキも付けてやる」


「やったー! ダンタリオン君のロールケーキ美味しいんだよね~!」


「――わかった。美味しいお菓子は歓迎する。私はチョコ味がいいかな?」


 神の権能/お菓子の夢(ドリーム・キャンディ)


 こいつの能力は想像したお菓子を出す。それだけのとんでもない権能だ、今や欠かせない権能で、使用率ナンバーワンの座を不動のものとしている。


 紅茶だけはしっかり各世界で厳選し、購入した茶葉を使っている。これだけは譲れないのだ。産地、季節、淹れ方、すべてが合わさり複雑な香りを演出する。手抜かりは許されない!









 彼女達を簡易工房に残し鉱山都市の市場調査をひとりで行う。


 辺境都市から流れて来る素材の値段や量に関しても脳内でメモを行いながら都市内を散策する。


 鉱山都市には力自慢の採掘員が多く気性の荒い人間をよく見かける。


 俗に言うドワーフ、この世界では岩石種族となる。筋肉に鉱石成分が含まれており通常の人間種族よりも耐久力も強靭で膂力も倍以上ある、しかし体格に恵まれず小型であり持久力が低い。


 パワーにステータスを全振りしてスピードとスタミナが最底辺となってしまった不器用な生物だ。


 その集団の中で、幼児のように小柄な私がこっそり酒を飲んでいても違和感がない。


 こんな昼間から酒場でアルコールを楽しんでる鉱山員が多い、話を盗み聞きすると鉱山で崩落が起きたらしい…………うん、残念な事だ。


 決して地下水脈にミネラル豊富な硬水があったので、癖のない飲みやすい紅茶を好きな人もいるので……と、ありったけ採取しておいた。


 すまない、見知らぬ採掘員よ、冥福を祈る。


「まさか鉱山に眠っていた土竜まで目覚めちまうなんて商売あがったりだぜ! ありゃあとんでもねえ希少金属を食ってやがるな。攻撃してもビクともしやがらねえ」


「あれだけの量の希少金属を手に入れられれば億万長者だが、この都市に土竜に手を出すモグリなんていねえよ。死んじまったら何にもなんにも残りゃしねぇ」


 ん? 希少金属……。良い事を聞いた。


「それを狙う阿呆がギルドにわんさかいやがる、明日は死体祭りだな。ギルド員のねーちゃんも必死で止めてるのによ」


「ルートBで見かけたんだが建物二階分のデカさだったぜ。ハンマーも効かねえよ」

 

 ほうほうほうほう。ピコラとマジョルに聞いてみるか。


 簡易工房に戻り土竜の話をすると呆れた目をして。


「ダンタリオン君……責任もって退治して来てね……素材待ってるから」


「私は希少金属でコーティングした杖でいいですよ? 待ってますね」


 水脈をぶち抜いた件については溜息を付かれ、土竜の出現には素材を期待された。そもそも討伐しようという事自体、危険なのだが私なら毛ほども心配ないだろうと変に信用されてしまっている。


 錬金疲れで早めに休むと欠伸をしながらマジョルと共に部屋に戻ってしまう。


「……少しは心配してくれてもいいんだぞ」


 拗ねてなんかいないぞ? 本当だ。









 暗い坑道をヅカヅカと進んで行く。暗視の技能も魔眼に含まれているので昼間の明るさと変わらない。時々ギルド員と擦れ違い驚かれているが無視をする。


 しばらく進んで行くと戦闘音が聞こえて来る。


 この坑道はメインとして使われているルートであり大きく広い、ここから枝分かれした坑道へ潜っていき採掘を行っているようだ。


 補強された坑道を戦闘音だよりに進むと、数十人ものギルド員がレイド戦を仕掛けている。このまま戦闘に参入すると横入り行為になり、マナー違反とされるので見学するとしよう。


「ノルンッ! 回復頼む! ザック! スイッチだ、俺が行く!」


「了解。決めてくれよリーダー!」


「回復完了、戦線戻れるよ! ――きばりなぁッ!」


 どんな欲に塗れたギルド員かと思えばなかなか熱いパーティじゃないか。


 連携もしっかり訓練されているのがわかる。本気で討伐する気だね。


「ヒューリィ、弓術で牽制頼む――ッチ! 眼球に膜が張ってやがる、話通りではあるが耐久力がハンパねぇぞッ! ――穿てッ! 地烈突破ァッ!!」


 踏み込みが深く地を抉り込み、高速の突きが眼球と激突する。


『キュアァァアアアァッァァァァァァァ!!』

 

 使用した剣が半ばまで刺さっている。相当な名剣だな、突き刺さったまま何かしらの効果が継続している。


 ギルドにも、探索者や、採取、採掘と多種多様にあり、特級と呼べる資格も存在する。特級探索者と言える存在が使うとされている技術、それが先程リーダー君が叫んだ“地烈突破ちれつとっぱ”という名の技なのだろう。


 他にも、弓死生聖きゅうしいっしょうや、質実剛拳しつじつごうけんなど、冗談のような技名もあった。

 

 四文字熟語を弄るのが流行りなのかな? 


『――轟け招雷ッ! 開闢をせし世界の咆哮ッ! 来来雷雷(ライライライライ)ッ!』


 おお、カッコいいぞ! 私も何か呪文を考えようかな。


 坑道内に豪雷が轟く。視界は白く染まり土竜の生死の確認はまだできていない。


「――やったか!?」


 ――あっ。リーダー君……。


 ヒュゴッ、ゴォォォォンッ! 人間が叩きつけられたにしては凄い音がした。


 もちろんリーダー君が坑道の壁にめり込んだ音だ。あーあー言わんこっちゃないい。 


「リィィイダァァァアッ! すぐにフォローを――カヒュッ」


 ――ゴウンッ。


 紅一点のノルンが土下座の形で地に顔を叩きつけられた、土竜の上からの振り下ろしの一撃だ。


 残り三人、ヒューリィ君とザック君と岩石族の人かな? ――ああ、岩石族の人がやられた。小柄な胴体に突き刺さった鋭い爪が背中から出て来ている。


 それでもなおリーダー君が立ち上がり戦闘継続の意思を見せている――熱いねぇ。


「俺が時間を稼ぐッ! ノルンとアルベルトを連れて撤退しろ! ――責任を取るのはリーダーの役目だ! 付き合わせてすまなかった……」


 ニヒルな笑顔を精一杯出しているが限界なのであろう、口から血の塊が零れ落ちている。


 彼らの横にそっと移動すると声を掛け、確認を取る。


「ねぇ――助けいる? 横入りとか言われないよね?」


 戦闘を行う為の切り替えを行い、じわじわと両手両足を悪魔の爪に鋭い足へと変貌させていく。


「――なッ!? 子供ッ!? いけない! 逃げるんだ!」


「お優しいこった――じゃあ貰っていいんだね、頂くよ? ――シッ」


 体内の気を練り上げ、軽気功と硬気功を素早く入れ替える、縮地に似た技術で土竜の顎下に潜り込む。


 ――拳を握りしめろッ! 撃鉄を起こしッ! 抉り込めぇッ! ≪必殺≫ 顎下からダンタリオンッ!!


 ヒュッ――ゴギャァンッ、と鉄板をぶっ叩いたような音が鳴り響き、天井に土竜がめり込んでいる。――頭部だけ。


 ダンタリオン君の渾身の必殺技は、土竜の最高硬度を誇る頭部をぶん殴り、千切れ飛んで行ってしまった。


 ――あのパーティ技名がカッコ良かったから力が入ったんだよ。


「我勝利ッ! ――と言う訳でこれ貰っていくね。敢闘賞で腕の一本くらいならプレゼントするけど……その前に岩石族のアルベルト君治療しようか? 返事は素早く行え」


「――あ、ああ、頼む。坊主……強いんだな……恐ろしいほどに」


 さっさと≪奇跡の甘露(ヒール・ドロップ)≫をしようして数秒で治療を終わらせどの部位が欲しいか一応聞いてみる。


「いいのかい? ……君が一撃で仕留めたんだ、持って帰れるかは分からないが腕だけでもかなりの財産になるぞ?」


「腕でいいんだね? ちょっと待っててくれ」


 手先をナノ単位で刃を生成、素早く振り下ろし分子の結合を破壊する。


 ズドン、と数メートルもの巨大な土竜の腕が地面に落ちた。それをむんずと持ち上げ彼らの前に置いておく。


「それでいいよね? 残りは持って帰るから気を付けて帰りな?」


 呆けたままなのでさっさとインベントリに収納すると帰路に着く。


 最後まで口を開けていたけれど乾かないものなのかね?


 それにしても≪必殺≫顎下からダンタリオン! は、ないな。勢いで叫ぶものじゃないなと反省しながら工房へ帰る。

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