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住職さんの光 

掲載日:2022/04/29

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 こー坊は、ああして仏像が背中に背負う、炎や光をなんというか知っとるか?

 そう、後光という奴じゃな。最初は頭の上のみに光があったらしいが、やがて背中より体全体を光らせるようになったらしい。

 これらの光は、本来であれば見ることはできないもの。それをあたかも視覚的に見えるようにしたもの。まあ、こー坊に分かりやすくいえば「気」とか「オーラ」のようなものかもしれんな。


 いうなれば「カリスマ」とも言い換えられよう。その人が他人を惹きつける何かを、こうして輝きによってあらわすわけじゃ。

 しかし、中には本当に輝きを放つ場合もあったようでな。

 じいちゃんの聞いた話なんじゃが、耳に入れてみんか?



 じいちゃんの友達が小さかった時、近所にお寺があったそうじゃ。

 そこの住職さんがあげるお経を、目覚まし代わりに聞いていたと話すくらいでな。物心ついたときから、お経を「そら」で唱えることができたという。まさに門前の小僧がなんとやらじゃな。

 その住職さんというのが、これまた見事な禿頭でな。

 友達のまわりにいる、丸刈り坊主に見受けられるような青々しい剃り跡は見受けられない。地肌がそのままてかてかと、太陽の光さえも跳ね返すほどじゃったとか。

「和尚様の頭は、まんまるまんまる、ぴかぴか頭。ニワトリ代わりに経読んで。今日の一日始めましょう」などとは、友達の周りの誰かが流行らせた歌じゃったとか。



 その住職さんについて、不思議な噂を聞いたのは、しばらく経ってからじゃった。

 友達の同級生が、住職さんの頭の秘密を見た、と話してはばからないんじゃ。何があったのかというと、住職さんが頭でものを食べたのだと言い出した。

 ことの顛末はこうじゃ。

 同級生が朝早くに起きて、犬の散歩をしながら件のお寺の近くを通りがかったんじゃ。

 ふと境内から、強い光が放たれた。同級生が足を止めて見やると、石段を登った先のお堂の軒先に、住職が足を組みながら座っておったらしい。

 同級生は目がいい。そのまま距離をとり、住職の方を見上げとったそうじゃ。

 すると、不意に住職の血色のいい頭部が、一気に濁ってしまった。急に浮いた青あざのように、頭部全体を覆う紫色。

 そいつはびくりびくりと、二、三度大きくうごめいたあと、住職が座りなおすとともに、どんどん引いていってしまったというのじゃ。

 その後、住職は口をもごもごと動かし、やがてごくんと大きく飲み込む仕草を見せたのじゃとか。


「あれは絶対、何かを食っていたって。頭から色が引くときとかみ合ったからな、そしゃくが。頭に生き物か何かがひっついて、そいつを食べちまったんだ」



 じかに目にした同級生は、一気にそうまくしたてる。

 友達は住職の顔を知っているものの、特に親しいわけではない。直接、このことで話を聞きに行くのは、気が引けたようじゃ。もし懇意にしておったとしても、正面から聞くには少し及び腰になる内容。

 したがって友達も同級生にならい、早起きをして住職さんの様子をうかがわんともくろんだんじゃ。


 思い立ったがなんとやら。

 翌朝には、いつもより早く起きた友達は、すでにお寺近くに隠れるように陣取っておった。

 家から持ち出してきた望遠鏡も携えておる。実際に、同級生の話した住職さんの頭を確かめようと、用意したものじゃ。

 お堂からは読経の声が聞こえてきておる。すっかり覚えた友達は、小声で後を追いながら、ゆっくりとその瞬間を待つ。


 やがてお堂の戸が開き、住職が出てきた。

 石段のてっぺんに位置するそこで、足を組んで腰を下ろし、手もまた足の間で組んでいく。

 この時か、と友達は望遠鏡でのぞき込んだのじゃが、すぐ目をそむけてしまった。

 住職さんから放たれた光が、あまりにまぶしかったからじゃ。それは突然、雲間から差した陽光にも似て、かすかに痛みさえ走るくすぐったさが、まぶたの裏で転がっておる。


 ――太陽?


 友達はくらみをこらえ、いまいちど、自分の目で住職を見やる。


 その頭から伸びるのは、無数の光の糸じゃったという。

 仏像の背負う後光のように、幾筋も空へ伸びるそれが消えるまでは、ほんのわずかな間しかなかったが、友達は見ておる。

 その光のことごとくが、雲の広がる空中へ伸びていったのが。

 そして宙に浮かぶ、いくつもの黒点たちをあやまたず貫いたのを。そして光が引っ込みながら、それらを住職の頭へ集めていったのを。

 とたん、住職の頭にはこれらが集まり、どす黒い濁りを見せた。びくりびくりという動きに合わせ、住職さんは顔全体で粉砕するかのように大きく顔を動かし、口全体でそしゃくをしてみせたんじゃ。

 頭に集まる黒が、薄まっていく。その間も住職さんはそしゃくをやめず、やっと飲み込んだ時には、きっちり色が引いておったのじゃとか。



 それから住職さんは10年ほど寺にいたそうじゃが、ふと姿を見せなくなってしまう。

 それを境に、友達の住まう地域では流感が毎年のように猛威を振るった。

 ひょっとして住職さんは、その兆しをああして飲み下してくださっていたのでは、と思っているそうなのじゃ。


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