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1.婚約者に心を許してはいけません。わかりましたね?



「ルルーシャ、よくお聞きなさい。私は隣国では『悪役令嬢』と呼ばれ、婚約者だった王太子に公衆の面前で婚約破棄され、いわれのない罪で国外追放されたのです。旦那様に見初められなければ野垂れ死んでいたことでしょう」


「おばあしゃま、あくやく?」


「貴女の母も忌まわしき血を継いでしまったのか、婚約破棄され、失意の底で貴女の父親に出逢い、救われたのです」



幼いルルーシャに祖母であるマーマリアは真剣な表情で懇々と言い聞かせた。



「婚約は只の婚姻の約束です。破棄され、不幸に突き落とされる可能性の方が高い。婚約者に心を許してはいけません。わかりましたね?ルルーシャ」



歳を重ねても艶やかな縦ロールの髪に吊り上がった目、派手な容姿は美しく年齢を感じさせない。ハイゼット前公爵夫人である祖母は、隣国では『悪役令嬢』と呼ばれていたらしいが、シルベイツ王国では『シルベイツの青い薔薇』と呼ばれ社交界では確固たる地位を築いている。


王宮で王妃様に仕える忙しい母と父の代わりにルルーシャを育て、愛情を注いでくれる祖母がルルーシャは大好きであり、憧れの存在だった。



「はい、わかりました。ルルーシャは『こんやくしゃ』をしんようしません」



誓いを立てるように言ったルルーシャの頭を優しくマーマリアが撫でる。ルルーシャ5歳、シルベイツ王国の王太子であるジークフリードとの婚約が決まったのは、それから直ぐの事であった──。




◆◆◆




「ルルーシャは今日も美しいね」



見惚れた様に言われ、ルルーシャはふうっと息を吐いた。王太子であるジークフリードと婚約して十数年が経過した。祖母の言いつけ通りに、ルルーシャは一切ジークフリードを信用せず、一定の距離を保ってきた。恋心など皆無である。


しかし、当のジークフリードはルルーシャに付きまとい、息をするのと同じように愛を囁き、溺愛してくる。



「殿下、もう授業が始まりますよ。早くお膝の上から降ろしてくださいません?」


「どうせなら私の膝の上で授業を受けたらどうだい?君が膝の上に居てくれたら私の集中力も違うのだけれども」


「いけません。休み時間だけだとお約束しました」



ピシャリと断ると、本当に残念そうにジークフリードはルルーシャを膝の上から解放した。二人が通う王立学園の生徒たちは、見慣れた風景だと今では二人のやり取りを気にする生徒は一人も居なかった。



「ああ、可愛いね、ルルーシャ。早く婚姻したいよ。そうすれば四六時中君を独占できるのに」


「はいはい。授業が始まりますよ」



教壇に全く目も向けずにルルーシャを見つめる王太子に、心の中で舌打ちを繰り返す。これで何故真剣に授業を受けている自分よりも成績が良いのだろうと疑問でならない。毎回学年一位の座をかっさらっていくジークフリードを、教師陣は何も言わずに放置しているのだ。仮令授業を全く聞かずに婚約者に熱視線を送っていていたとしても……。



──わたくしの授業の妨げですわっ!!!!



ルルーシャは不機嫌な表情を隠そうともせずに、ギロリとジークフリードを睨んでみるが、目が合った瞬間に耳元に唇を寄せられ、



「授業が終わったら沢山君を堪能させてね」



なんて変態発言をかましてくる。何を堪能するつもりなのか、絶対に逃げ切ってやるとルルーシャは更に眉間の皺を濃くした。


祖母の代から続く『婚約破棄』の呪縛を信じているルルーシャは、ジークフリードのどのような甘い言葉も、過剰な溺愛ぶりにも全く動じることはない。


それをジークフリードが面白がり、周りが引くほどの愛をルルーシャにぶつけてくるのだ。



──最早嫌がらせに近いわっ!!!早く婚約破棄なさればいいのにっ!!!!



ルルーシャのノートにはペンのインクの染みが色濃く広がっていくのであった。






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