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17日と2時間の悪

作者: 新田 涼介

 僕を含め、今日を頑張れないあなたへ。これを読んだ誰かが「明日から頑張ろう!」と思ってくださればとても嬉しいです。

 僕は悪い奴になりたい。誰もが納得するような悪い奴に。


 悪い奴といっても、誰かの物を盗むとか人を殺すとか、そんな類の悪い奴じゃない。


 例えば、仕事を休む時。

 誰でも今日は「仕事に行きたくないなー」とか、「今日はなんか元気でないなー」とかそんな日があると思う。

 僕はそんな時、罪悪感を抱くことなく嘘をついて休みたい。そんな奴になりたい。


 けど僕は嘘をつくと罪悪感を抱いてしまう。それならいっそ嘘をつかなければいいじゃないのか。普通はそう思うが行きたくない仕事には行きたくない、したくないことはしたくない。僕はそういう面倒くさい奴なんだ。


 

 今日も仕事に行きたくない。

 最近係長怖いし、この間はすごい大きな声で怒られたし。課長はそれを見て見ぬふりするし。

 これじゃあ僕が仕事を休みたくなっても仕方ないよね。

 だから休んでも、いいよね。 

 

 「微熱があるのですいませんが今日は休ませてもらいます。」

 

 休む理由はこれにした。

 係長に電話するとまたかという反応だったがそんなことどうでもよく、休めることに対する喜びの方が強かった。


 電話が切れた後、気付いたことがある。

 罪悪感が感じられなかったんだ。

 これまでの自分を克服できた、そう思った。

 


 携帯ゲームをしているとそのまま寝てしまい、目を覚ますと昼を1時間ほど過ぎていた。

 携帯の画面を見ると係長からメールが一件。開くと、

 

 「〇〇の年次休暇取得率は現在17日と2時間だぞ」


 と来ていた。

 もう思うように年次休暇は取得できない。

 というか、せっかく仕事のことなんて忘れていたのに、何してくれてんだ、そう思った。

 

 嘘の発熱申告で得た休みだから体自体は元気だ。

 

 どうせもう思うように休みが取れないのなら、今日は出かけて、買いたいもの買って、自由な休日を過ごしてやろう。


 そう思って僕は家を出た。

 

 しかし、どこに行っても、何をしても、さっきまでなかったはずの罪悪感が僕を苦しめた。

 僕はどうしても悪い奴になれないらしい。


 結局何も買わないまま時間は過ぎ、気付けば僕は河川敷にいた。

 水が上流から下流へ流れていく様をぼーっと見ていた。

 

 ふと、川から顔を出す一つの岩が気になり目を向けた。

 その岩は周囲の岩と比べて特別大きいというわけではなく、どちらかというと小さいくらいだった。

 その岩に、上流から流れてきた大量の水が勢いよく当たっては左右に散っていく様が、僕の目に留まった。


 「なんであいつはあんなに頑張れるんだろう」

 

 強く当たってくる大量の水の流れの中でも動じず、じっと静かに佇んでいるその岩を見て、僕の中には疑問と同時に込み上げてくる熱い何かがあった。


 あの岩みたいに何にも負けず、何の言い訳もせず、格好よく生きていきたい。そう思った。


 僕はその岩を30分ほど見た後、軽くなった腰を持ち上げて帰路についた。

 

 



 あの日から何カ月経ったか分からない。

 

 ある日、朝目が覚めると、僕は喉が痛かった。発熱症状はないが埃等でやられたらしい。

 僕は口実ができたと思って携帯を取り出す。

 しかし、連絡先は開かず、代わりに写真フォルダを開いた。

 

 そこにはいつか撮った河川敷と川から顔を出す岩の写真があった。

  

 僕はそれを見て少し笑った後、「悪い奴にはならなくてもいいかな」と呟いて出勤の準備をした。



 あの日から、僕の年次休暇取得率は17日と2時間のままだ。

とても短かったと思いますがどうでしたか。

明日もまた頑張っていきましょう!

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