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取り敢えずお話をお伺いします

 

『今日から君は俺の協力者だ。』


 そんな事を言われても協力出来る訳もない。

 マグリットは何も言えずに沈黙してしまう。


『先程も聞いたが何故君はこの魔道具を使える?』

 協力の話はどこへやら。

 先程と同じ質問を投げかける。


『・・・・・・』

 しかしこれに関してもマグリットは沈黙せざるを得ない。


 何度も死んでは繰り返してる。

 死ぬ前に使った事があるなんて誰が信じてくれると言うのか。


 それ以上にこんな怪しく接触を図って来た人物に言える訳もない。


『なら逆にこの魔道具が何故もうあると思う?』

 随分と変な聞き方をする。


『フレデリック殿下がご自身で作ったと仰ったではありませんか。』

 やり直しの世界では作った後暫くの間、世に出して無かっただけでは無いのか。


 まさかとは思う。

 思うが聞けない。

 そんな突拍子も無い事。


『本当はわかってるんじゃないのか?

 マグリット。』


 フレデリックはどうしてもマグリットに答えを言って欲しいらしい。


 マグリットは小さく小さく溜息を吐き、決心を固め問い掛ける。


『・・・・・・フレデリック殿下も



 何度も世界のやり直しをしていらっしゃるのですか?』






『俺の弟は本当、どうしようもないやつなんだ。』

 呆れたような、むしろ諦めた様な悲しげな声が頭に響く。


『知っています。』

 ただしマグリットはそれに対し同情一つしないが。


『・・・・・・・・・』

 流石のフレデリック殿下もその即答具合に絶句してしまう。


『知っています。』

 マグリットはもう一度しっかりと伝える。


『・・・即答するのは如何な物かと思うが、仕方がないか。』

『マクシミリアン皇太子殿下の事など特に聞きたくも無いのですが、フレデリック殿下は先程の私の疑問には答えて頂けないのでしょうか?』

『特に聞きたくもないって、仮にも婚約者だろ。

 まぁ、最後まで聞け。』

 不遜な態度の割にはどことなく元気が無いような沈んだ声である。



『マグリットはもしこのまま何事も無く、マクシミリアンが皇帝になったらどうなると思う?』

 そう言われてもマグリットには答えは無い。


 何度もやり直しているとは言え、マクシミリアンが皇帝になってすぐいつも死んでいるのだから。


 なので、答えるとしたら想像でしかない。


『・・・正直に話しても大丈夫でしょうか?』

 考える様にコメカミに指を押し当てる。


『随分今更な事を・・・』

 フレデリックが小さく笑ってるのが窺える。


『マクシミリアン皇太子殿下は皇帝どころか皇太子、いえ貴族としての資質さえもありません。』

 それはもうキッパリと断言する。


『そうなんだが・・・

 いや、そうなんだが!』

 本当もうキッパリ言われ過ぎて皇太子なのに、と感じなくもない。


『それで、あんな人の評価を私と話して何かあるとでも?』

 フレデリックの話にはカケラも興味が無いようで、マグリットは立ち上がり果実水を置いてある机まで行きそれをコップに注ぎ入れる。




『このまま行くとこの帝国は滅亡する。』

 それは予想では無く確信めいた言葉であった。



『・・・・・・・・・』

 先程入れた果実水を口を湿らす程度に飲む。



『俺はなマグリット。


 君に恨まれたって文句は言えないんだ。』


 どこか寂しそうに悲しそうに、小さく小さくまるで祈る様に頭の中でフレデリックの声が響く。



 マグリットはそれでも何も言わずコップを持ってベッドに座り込む。

 フレデリックもマグリットが何も言わない事に特に何も思ってはいない様で、ただただ懺悔するように言葉を続ける。


『君が死ぬのを今の今まで何もせず見てきた。』


(私が死ぬ事を知っていると言う事は、やはり殿下は同じ様に何度もやり直しているのね。)

 マグリットは何故何もしてくれなかったのか、等の激しい感情は何も感じなかった。


 何故冤罪を晴らしてはくれなかったの!と以前のマグリットなら思ったのかもしれない。

 でも何度も何度も殺される内にそんな事はどうでも良くなってしまっていた。


 死んでは繰り返す世界にマグリットはもう希望など持てなくなっていたから。



『見てきたとは言っても毎回マグリットが死ぬのを見ていた訳では無い。

 ただ殺される事実は毎回知っていたし、それを正直止める事もしなかった。』

 マグリットの心情を無視するかの様にフレデリックの懺悔は続く。



『しかし前回、九回目の時に君が死ぬのを偶然見たんだ。』




 この帝国は王族の言葉の影響力が強い。

 皇帝の命令にただ忠実に従っているだけの騎士団等がマグリットを見つけ捕まえに来てしまってはマグリットが強くとも全員を殺して逃げる、何て事は出来なかった。


 皇太子妃として未来の国母としての矜持は嘘ではない。

 少なくとも産まれて一度目に死ぬまでは国民を大切にするのは当然だと思っていた。

 だからこそ強くなってみたところで、ただ命令に従っているだけの忠実な国民を殺す事は、マグリットにはどうしても出来なかった。


 何よりも数は暴力である。


 殺さずに大勢の人間から逃げ出す事はどう頑張っても毎回どの人生でも叶わなかった事である。


 だからこそ毎回マクシミリアンの命令で自分は殺されていた。

 何故そこまでして毎回マクシミリアンがマグリットの命に拘るのかはわからないが。



 殺され方は毎回断頭台つまりギロチンという訳ではなかったが、前回の九回目は確かにギロチンであった為、見ようと思えば見れたであろう。


『・・・偶然?かどうかは兎も角として、それがどうかなさいましたか?』

 死刑すると言ってる場所に偶然居合わせるなんて事あるのかどうかは疑問に残るが。


『そこで、マグリット君が俺と同じで何度も何度も世界をやり直してるのではと感じた。』


『・・・・・・それで?

 殿下は私をどうしたいのでしょうか?』

 自分以外にもやり直しを繰り返してるというのは知りたかった事ではあるが、だからと言ってどうこうしようとはマグリットは考えていない。


『確かにマグリット、君は何度も死んでしまってるかもしれない。

 正直死んでる訳では無い俺には、君がどんな感情を持って今生きているのかわからない。』



(・・・あぁ、この人は死んではいないのね。)

 羨ましいとかではない。

 ただ無感情にそう思う。



『それでももう一人ではこの先を変える事が出来ない。

 だからこそマグリット!俺の協力者となってもらえないだろうか?』



『・・・・・・・・・』

 何も言わず、未だ持っていた殆ど飲んでいない果実水が入ったコップを机に戻す。




 フレデリックの切羽詰まったような懇願を聞いてもマグリットの気持ちは特には動かない。



 ーーーそれでも



(この国が、滅亡する・・・)


 自分一人死ぬのは構わない。


 皇后陛下となるべく生きてきた。


 この国の皇族がどうなろうと興味はない。


 でも国民が苦しむのを享受出来るかと言われるとそれは違う。



『勝手な事を言っているのは解っている。

 それでも俺と同様、やり直しを繰り返してる君が必要なんだ。

 皇族なんぞ居なくなろうが俺は構わない。



 ただ帝国が滅んで国民が蹂躙されるのはもう見たくないんだ。』




 きっとフレデリックは泣いている。






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