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ペキ!ー翼の無い戦士ー  作者: 七尾の狐
目覚めの時
7/88

目覚めの時⑥

ペキは流れる街並みをずっと見ている。

「何を考えているんだい?」

ジンジャーはペキの様子を気にして尋ねた。

「この町のどこかで、俺は生まれたのかな。」

見たことの無い家や店しか無かったが、そうであれば良いのにと、ぽつりと返事をした。

「あ!じゃあさ、もしかしたら案外ご近所だったりして!私たち、どこかですれ違ったことあるかも!」

すかさずオモチが嬉しそうに言った。

「ね、パパ?」

「ああ、オモチの言う通りだ。近くの学校に通っていたかも知れないなあ。」

「そっか…。そうだよな、それも有りだよな!」

ペキの顔が少し明るくなった。

「じゃあその辺を一回りしてからお昼にしよう。」

一時間ほど車を走らせ町の中を見て回ったが、さすがにオモチが退屈さを隠せなくなってきた。

「ねえ、私アイスが食べたい。」

「アイスもいいけど、ご飯が先だよ。食後のデザートに…。」

「アイスね!」

「君もお腹空いただろ?ここの近くのピザが結構美味くてね、よく食べてるんだ。公園で一休みしながら腹ごしらえだ。」

ジンジャーがバックミラー越しにペキに話し掛ける。

「そう言えば…。確かに腹減ったな。」

初めての外出で何か手がかりが掴めるかもと緊張したせいで、朝食が余り食べられなかった事を思い出す。

「オモチはいつものパイナップルが載ったやつがいいだろ?君は…、そうだな、ベーコンやらソーセージがたっぷり載ったやつにしよう!」

ジンジャーは車を停めると、オモチとペキを残してピザ屋に走った。

車の中に、少しの沈黙が流れる。気まずいと思う前に、ペキが独り言のように呟いた。

「俺、ピザって食ったことない。」

「え!?」

オモチが驚いてペキの方を振り向く。座席にしがみついて、ペキの顔をじっと見つめた。

「あなた、ピザも食べたことないの!?」

「あ、ああ。でも、ハンバーグとかオムライスなら食ったことあるぞ。」

「どっちも美味しいけど、ピザも美味しいんだから!あのね、ピザっていうのは…。」

オモチが身振り手振りでピザの魅力を語ってくれた。まるくて、ひらたくて、いろいろのってて…。想像できない色や味に、ペキの瞳は少しばかり輝いた。

「パパ、忙しいでしょ。それにうち、ママがいないから…。よくレトルトとか出来合いのもの食べるの。でね、その中でもここのピザが一番!」

オモチは一瞬寂しそうに俯いたが、すぐに顔を上げて満面の笑顔を見せた。

「…そっか。オモチの話を聞いたら、俺も早く食いたくなったぜ。」

「お待たせ〜。いやぁ、つい買いすぎちゃったよ。」

二人で笑っている所に、ジンジャーが大きなピザの箱を五つも抱えて戻ってきた。

「あ!パパってば、買いすぎでしょ!」

口調は怒っているが、オモチの表情からは嬉しさが溢れ出ていた。ペキは、自分の横に積まれた箱から漂う良い香りと、そのオモチの顔を見て、知らぬ内に微笑んでいた。


「これがピザか!」

オモチが箱を開けると、ペキは思わず声を上げた。想像していたよりも大きな丸い生地の上に、見た事のない色とりどりの野菜や色んな形の肉が、たっぷりかかった馨しい香りのチーズの下で見え隠れしている。

「こっちの箱はあなたが開けてみて!」

「おお…!」

焼き立てのふわっとした蒸気と共に、チーズとカリカリに焼けたベーコンの香ばしい香りがペキの顔を撫でて行った。

「さ、好きなだけ食べてくれ!」

「じゃ、みんなで…。いただきます!」

オモチの声と同時に、ペキはピザを切り取る。熱いチーズが垂れるのも構わず頬張ると、濃厚なベーコンの油が、とろけたチーズの旨味が、ペキの口いっぱいに広がる。

「ろぉ?ほいひぃれひょ?」

ペキと同じく頬を膨らませたオモチがペキに訊いた。ペキは大きく頷きながら、早くも次のピザを切り取ろうとしている。オモチはそんなペキの姿を見て、得意気に笑った。

食事は心を和ませる力があるらしい。オモチが楽しそうにクスクスと笑うと、続いて二人も笑った。三人が座っている公園の芝が、穏やかな風に揺れている。


「ねえ、何か思い出した?」

箱に取り残されたパイナップルの欠片をつまみながら、オモチが尋ねた。

「全く!なんにも思い出せない。笑うしか無いよな。」

早くも食べ終わり満足気に芝生に仰向けになっていたペキは、遂に潔く言った。

「大丈夫!本当に何にも思い出せない時は、私があなたの名前を考えてあげるからね!」

思わず芝生から上体を起こす。

「オモチが俺の名前を!?さすがにそれは遠慮するぜ…。」

「心配しないで、名前を考えるのは得意だから!飼ってる金魚の名前も私がつけたのよ!」

そう言いながらオモチはペキの肩をポンと叩いた。

「金魚って…。」

ペキは呆れてジンジャーの顔を見たが、ジンジャーはニヤニヤ笑って首を振るだけだ。

「何なんだ、このお節介父娘は…。」

しかし、無邪気なオモチの笑顔を見ると、仕方ない奴だなと自分も笑ってしまうのだった。

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