目覚めの時②
緑の芝生が綺麗に手入れされ、大小の木々に覆われた広い庭園の中央に大きな近代的な屋敷があった。鉄の門から真っ直ぐに伸びた道を百メートルも行った所には、磨き抜かれた大理石が敷いてあり、其処に立つ高く分厚いドアを開けると、がらんと大きな空間が口を開けている。壁には重々しい手すりを持つ階段が延び、その対となった階段の下に書斎がある。書斎と言っても、ドアを開けて右奥には大きなテレビが置いてあり、その前にはゆったりと寛げるソファが有る。その左手にデスクが有るが、雑誌やコミックが山詰みになっており、部屋の主はデスクの前に向かう事などほとんど無い。この部屋の主、堕天使アンチョにとって地上は正に楽園だった。
デスクの後ろのカーテンがかすかに動く静かな午後、アンチョはゆったりソファーに腰掛けテレビを見ていた。こうやってまったりと一日を過ごす事が何より好きだ。ゆっくりお茶を飲むそのゴツゴツした指には、ダイヤと金の指輪が下品なほど並んで光っている。
「ンン〜。今日も良い午後だ……っぁあ!?」
突然アンチョは起き上がり、食い入るようにテレビの画面を見詰めた。ニュース番組で、野次馬の人だかりに囲まれたペキがタンカーに仰向けになり救急車に乗せられようとしている姿が写ったからだ。
「恐らく五メートルはあると思われます!此方の穴に人が埋まっていたんです!」
アナウンサーが工事現場の足場の所から中継をしている。
「それでは第一発見者の現場監督に話を伺いましょう!」
ボスにマイクが向けられると興奮した様子で、
「本当にビックリしたよ!こんな深い穴の中に埋まっていたのに生きていたんだからなァ!」
後ろの方で声が聞こえる。
「俺だ-!俺が最初に見つけたんだぞー!」
ボスは後ろをチラッと見ると、
「うっせえなあ。色男がテレビに出るって決まってんだろうが。」
そう小さな声で呟くとボスは満面の笑みを浮かべて
「これは奇跡だよ!そうだろ、奇跡以外の何物でも無いだろ!」
奇跡的!?生きてる!?アンチョは目を丸くして立ち上がった。
「ペキだ!そうだ!あの顔はペキに間違い無い!」
「何て事だ!神は地上にまでペキを送り込んで来たのか!どうすればいいんだ…!?落ち着け、よく考えろ…。」
アンチョはその場に座り込み、頭を抱えた。