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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

縞々のゼツ

作者: 伊藤@


 朝起きると口の奥が痛かった。

 ドクドクと何か脈打つように舌の付け根が痛くてしかたない。


 昨日何があったかと考え、思い出すとニンマリする。

 国王主催の夜会であの化け物王太子を国家転覆罪という我々のお膳立てした茶番でようやく罪に陥れてやったのだ。


 王太子は謹慎と陛下に告げられ騒ぐ事なく自室に下った。暫くすれば廃嫡され放逐されるだろう。これで第2王子が王太子になる手筈なのだ。やっと第2王子派である我々の時代がくる。皆で盛大に祝杯をあげたのだ。

 

 それにしても舌の付け根が痛い。

 最後に飲んだシャンパンだろうか、真っ黒だったので覚えている。

 色は兎も角、とても素晴らしい味だった。


 

 違和感に気がついたのは2日後。王都随一と評判も高い我が家のシェフが作った朝食がまるで砂を噛んでいる様だ。もちろん飲み込むのも喉の奥が腫れているのか苦痛を伴う。


「…なんだ…この…食事は?」


 違和感は味覚だけでは無かった、舌がもつれて言葉が上手く話せない。すぐさま宮廷医の手配をする。


 今日の王太子の処分を決める会議には出席したかったが、上手く話せず足をすくわれては堪らない。大人しく医者に診てもらう。


「特に異常はございません。きっと過労からくる一時的な味覚障害と言語障害でございますよ。少し休養されると良くなるでしょう」


 でっぷりと肥った宮廷医は私に休養しろと告げ、直ぐに帰り支度をしている。


「…随分…急ぎの…ようだな」

「ええ、はい。そうなんですよ。急に診察依頼が増えましてね。それでも侯爵様は特別ですから、一番最初にお伺いした次第で」

「……依頼が増えた?…」


 なにか嫌な胸騒ぎがしたが、取り敢えず疲れているのだろうと自分を納得させた。

 あの王太子を引きずり落とす為に、第2王子派の人間はこの数年忙しかったのだから。




 そう思って静養したが。

 あのヤブ医め!全然良くならないではないかっ!1週間も経つと舌がドス黒く変色してしまった。痛みでまともに食事も出来なくなり腹が空いて死にそうだ。

 王太子の事も第2王子の事ももはや頭には無い。頭にあるのは痛みと食べ物の事だけ。


 腹が空く、空腹、空腹、空腹、空腹、空腹、ああ、痛みが、クソっ何か食べたい!


 なぜ自分がこんな目にあうのだ!

 宮廷医を呼んでも王宮にも病人が出たとかで後回しにされた。仕方がないから神殿に依頼して治癒師を呼んでも他の貴族に横取りされる始末。

 我慢が出来ない、もう一度宮廷医を呼ぶ為に使用人を呼ぼうと口を開いて。


「お…いっ!誰…かい…な    」


 ボトッ……… 床に黒い何かが落ちた。

 そのまま私の意識は無くなった。



◇◇◇◇


「そろそろだと思うから回収してきれくれ」

「畏まりました」


 王宮の執務室で忙しそうに仕事をする新しい国王が思い出したように自分の配下に指示を出す。


 2週間前の一件で、第2王子派の貴族はあらかた炙り出した。

 翌日に無能な国王は退位させ、実質国王になったが、諸外国に向けての戴冠式は1ヶ月後でいいだろう。私を忌避し恐れ排除したい貴族達も今回の事で理解してくれただろう。


 自分達が何に喧嘩を売ったのか。


 さて仕上げに入ろうか。



「1週間後に国内の貴族を集めて国王になった祝いの晩餐会を開く。準備に取り掛かるように」

「畏まりました」


 ◇◇◇◇


 国内の貴族達が揃った晩餐会なのに、誰一人その豪華な料理に手をつける者はいない。

 音を抑えた優美な音楽もきっと耳に入っていないはずだ。皆、皿の上に乗っている料理を見て震えている。


 目の前にあるのは、明らかに人の舌だ。

 真っ黒の舌に黄色のソースが縞々に掛けられている。


「…どうした?冷めない内に食べないのかい」

「これは一体…人間の舌ではございませんか?」

「そうだね。それがなんだい?」


 その瞬間に会場のあちこちで悲鳴があがる。宰相が苦々しく声を上げた。


「わ、我々に人の舌を食べよと?」

「何か問題でも?」


 大臣が震えながら許しを乞うてくる。


「お、お許し下さい!」

「何を許せというのかな?食べたら良いだけじゃないか。その昔、私の母に得たいの知れない物を君達は食べさせたじゃないか」


 端に座る貴族が声を上げる。


「私共は関わっておりません!」

「そうだ!そうだ!関わっていないのに食べろというのですか!」


 チラリとその声を上げた貴族を見ると冷たく嗤った。


「お前達はあの日、泣いて嫌がる母を押さえつけ、真っ黒で得体の知れない黒いウネウネと動く虫を無理矢理口に押し込む様をニヤニヤと嗤いながら見ていたではないか」


 怒りと共に膨大な魔力が膨れ上がり、ここに居る貴族達に魔力圧がズシリと伸し掛かり動く事すらままならない。嫌な汗がこめかみを伝う。


「ば、化け物め…」


 若き国王は頰杖をつき、自分に悪態をつく貴族を見つめた。


「私を化け物呼ばわりか。成程成程、まだ自分達の立場を理解していないようだね」


 パチンと指を鳴らすと、膨大な魔力は黒い人の影を形作る。黒い影は貴族を押さえつけ口を大きく開けさせた。


「まぁ、食事を楽しみ給え」

「ぎゃああああああああああああああ」


 影は舌を掴むと、大きく開けた口へ突っ込んだ。絶叫が聞こえる、泣き叫び許しを願う声。


 案外つまらない物だな。


 若き国王はグラスにワインを注ぐと、目の前で繰り広げられる様を感慨もなく見つめワインを飲む。


 勝利の美酒。特に美味くも感じられない。


 パチンと指を鳴らすと一斉絶叫が響き渡る。


 こんなつまらない者達の為に、母は召喚され国の瘴気を祓わされ、子を無理矢理産まされて、最後は贄として蟲落としにされたのか。


 グラスに残るワインを飲み干し、無理矢理に飲み込まされ異形に墜ちる人間達をそのままにして広間を後にした。


 





 その日、王城から突如現れた異形の集団は人間を襲い殺し残虐に喰らった。


 逃げ惑い神に救いの声を上げ、人々は悲鳴を上げて喰われていった。


 恐ろしいのは喰われた人間も異形になりその数は膨れ上がる。


 近隣諸国をも滅亡に追い込む惨劇はとどまることを知らない。


 運良く生き残る事が出来た人間も、異形を操る王が始めた人間狩りで皆死に絶えた。





 これが異形と呼ばれた我々の神による創世記である。



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