第2章 3 前途多難な道のり
自室のバスルームで顔を洗って、洗面台に置いてあった化粧水やら乳液やらを適当につけるとバスルームから出てきた。時刻はもう8時を過ぎている。
「そろそろ学校へ向かわないとまずいかな・・?」
ロザリアの学生カバンを見ながら呟いていると、タイミングよくメイドさんが現れた。
「ロザリア様、馬車の準備が出来ましたのでエントランス迄お越しください。」
「ありがとう。」
カバンを持つと、私はメイドさんの後に続き、エントランスに降り立った。ホールには何故か両サイドに10名以上のメイドさんや男性使用人の人たちが皆、頭を下げていた。その光景はまるで開店直後のデパートの様である。
「あ、あの!皆さん・・何してらっしゃるのかな?」
ひきつった笑みを浮かべながら私は一番近くに立っていた男性使用人に声を掛けた。
「はい。ロザリア様のお見送りです。」
「何でそんな事してるのかな・・?」
「え・・?ロザリア様のご命令通りに従っているだけですが・・・・?」
男性使用人は不思議そうに首を傾げる。ひええええっ!!ロザリアッ!あ・・あんた何この人たちにさせてるのよっ!朝はすごく忙しいから貴重な時間なのに・・それをこんなお見送りなどというくだらない事に時間を使わせて・・!駄目だ、こんな無駄な事今すぐやめさせなければっ!
「みんな、聞いてっ!」
私の大きな声がエントランスに響き渡る。
「もう、こんなお見送りなんてしなくていいからねっ?!朝は一分一秒でも貴重な時間なのだから・・それを私のせいでこんなくだらない時間を費やさせてしまうなんて・・・本当にごめんなさいっ!」
そして頭を下げた。
ざわっ・・・・
途端に騒がしくなるエントランス・。
「え・・?ロザリア様が謝った・・?」
「あのワガママ高飛車お嬢様が・・・!」
「私たちに頭を下げるなんて・・・!」
「やはりロザリア様は死にかけておかしくなってしまわれたんだっ!」
等々・・・散々な言われようである。
「と、とにかくっ!皆さんッ!早く持ち場へ戻ってお仕事の続きをして下さいっ!」
叫ぶと、使用人たちはまるで蜘蛛の子を散らすように走り去っていき・・・エントランスには誰もいなくなってしまった。
「はは・・な~んだ・・・・やっぱり皆忙しかったんじゃないの・・・。」
それにしてもあっという間にいなくなられるのはちょっと寂しいかも・・などと相反する複雑な気持ちを抱えながら私はエントランスの扉を開けた。
「おおっ!こ、これは・・・!」
扉を開けると、目の前には大きな馬車が止まっていた。楕円形の可愛らしいフォルムはピンク色に塗られ、リボンやお花のモチーフで飾り付けられている。恥ずかしいっ!これは・・・非常に恥ずかしいよっ!絶対に皆から注目されるに決まっている。
おまけに御者台に座っているのは・・・。
「おはようございます、ロザリア様。」
頭を下げてお辞儀をしてきたのはロザリアの父と同年代位の男性なのだから。
これは・・相当恥ずかしいだろうな・・・。
「あ、あの・・・ですね・・・。」
あまりの馬車の姿に軽いめまいを起こしながら私は言った。
「か、帰りの馬車は・・・ふつーの、何の装飾もされていない馬車で迎えに来ていただけますか・・・?目立つのは性に合いませんので・・・。」
「本当ですかっ?!本当に・・もうこの馬車を使わなくていいのですねっ?!後からやっぱや~めたっって言うのは絶対になしですからね?!」
涙目で訴えられてしまった。ああ・・・可哀そうに・・この御者さん・・よほどこの馬車に乗るのが嫌だったのね・・・ロザリア・・貴方何やってるのよ・・・。
前途多難だ・・・つくづくそう思う私であった―。




