第2章 2 美容のうんちく
ダイエットの基本はまずサラダから。ゆっくり時間をかけて咀嚼して食べ終わると、次にフルーツの上にヨーグルトをかけてこちらもゆっくり食べているうちにだんだんお腹が満たされて来た。そして最後に牛乳を飲んだ時には、もうお腹は一杯になっていた。
「よし、満足、満足。」
時計を見ると時刻は7時半をさしている。
「そう言えば、何時に学校へ着けばいいんだろう・・。それに学校の場所が分らないな・・。まあ、いいか。道を覚えるまでは仕方が無いから馬車で送迎をして貰おう。その分、学校から帰ってきたら運動しなくちゃね。それよりも・・顔を洗って準備しなくちゃ。」
そう言って私は重要な事を思い出した。
「そうだ・・・洗顔するのに、泡立てネットかスポンジが欲しいな・・・・。よし、メイドさんに聞いてみるか。廊下に出れば誰かしらに会うでしょう。」
ガチャリとドアノブを回して廊下へ出ると、おお~いるいる。メイドさんや男性使用人さんたちが忙しそうに働いている。そして丁度近くで床の掃除をしているメイドさんと目が合った。
「おはようございます、ロザリア様。」
メイドさんは掃除の手を止めると、頭を下げてきた。
「うん、おはよー。」
手を挙げて挨拶をすると、何故かギョッとした顔をされる。
「な、何?」
「ま、まさか・・・ロザリア様が挨拶を返して下さるなんて・・・。」
感動に打ち震えて?メイドさんはプルプル震えている。いやいや・・・そんなに大げさな態度を取られても・・。
「あの・・ちょっと聞きたいことがあるんだけど・・・いいかな?」
「はい、何でございましょう!」
メイドさんは直立不動で返事をした。
「顔を洗いたいんだけど・・洗顔ネットか、洗顔スポンジ無いかなぁ?」
「はい・・?あの・・一体何に使われるのでしょう?」
ポカンとした顔で私を見ている。
「あのさあ、顔を洗う時に石鹸を泡立てるでしょう?」
「いいえ、そんな事はしませんが?」
「え?しないの?」
「はい。しません。」
「それじゃ・・直接石鹸を手の平に塗って・・洗うわけ?泡立てないで。」
「はい、そうです。」
「そうなのね・・・。」
何て事だろう。やはりこの世界は・・・私が住んでいる世界よりも時代が遅れた世界なのだ。だって馬車なんて・・今の日本じゃ考えられない。全ての文化や技術が劣った世界なのだ。
「何て不便な世界なの・・・。私の快適なライフスタイルが・・・。」
思わず頭を抱えていると、メイドさんが心配そうに声をかけてきた。
「いえ・・いいの。気にしないで・・・・こうなったら自分で工夫するしかないわね・・・。」
そうだ、いつ私は元の世界に戻れるのか分からない。だから自分でこの世界の環境を作り変えていかなければいけないのだ。洗顔ネットが無いなら・・・。
「あ、あの・・・食器はどうやって洗ってるの?」
「え・・・スポンジで洗っていますが・・・?」
「それだっ!お願い!厨房に行って新しいスポンジが無いか聞いて来て。そしてもしあったら1つ貰ってきて!」
「はいっ!分かりましたっ!」
私の鬼気迫る?様子にびっくりしたのか、メイドさんは手にしていた雑巾を放り出すと、長いワンピースの裾をつまんで、一目散に厨房目指して走り去って行った。
「余ったスポンジ・・・あればいいな・・・。」
私はメイドさんが走り去って行った廊下を見つめていると、物の5分もたたないうちにこちらに向かって走って来る。
「ロザリア様ーっ!スポンジッ!スポンジを持ってまいりましたーっ!」
そしてメイドさんが持ってきたのは・・・。
「おおっ!こ、これは・・・ひょっとしてへちまスポンジッ!」
「はい、そうですが・・・?」
「へえ~へちまスポンジ・・何か感動だわ・・。いいねえ~エコで。よし、今日からこれを使いましょう!」
「あの、それでロザリア様。これをどうするのですか?」
不思議そうに首を傾げるメイドさんに教えてあげた。
「いい?皮膚の汚れを落とすにはね・・・石鹸を泡立てて使うのよ。泡が立っていると洗浄力があるんだから。それにね・・・泡には皮膚の汚れをはがし取って包み込んでくれるし、泡がクッションのようになって摩擦による皮膚の刺激を少なくしてくれるんだからね?これが美肌になるコツよ。」
私は自分の知ってるうんちくを述べると、メイドさんはキラキラした目で私を見つめていた。うん、きっとこの屋敷ではへちまスポンジが流行するだろう・・・・。
そう確信した瞬間であった―。




