第1章 14 私が毒を飲んだわけ
「では・・上を向いて下さい。」
私の前には白衣を着たおじいちゃん先生が座っている。目だけ上を向くと、先生は瞼を指で下におろして、じっと見る。
「はい、次は大きく口を開けて舌を見せてください。」
言われたとおりに大口を開けて舌をベロンと下に出すと、またもやおじいちゃん先生はよーく観察していたが、満足そうにうなずいた。
「よろしい、お身体の方はどこも悪くはないですね。恐らく急激に眠くなっただけでしょう。」
そして診察カバンを持っておじいちゃん先生は立ち上がると、傍にいた大勢のメイドさんたちが一斉に頭を下げたので、私も慌てて頭を下げてお礼を述べた。
「先生、どうもありがとうございました。」
すると―
ザワッ
一斉に騒ぎ出すメイドさんたち。
「う・・・嘘でしょう?あのお嬢様が・・・お礼を言ったわ・・。」
「今、頭を下げていたわよね?」
「信じられない・・・あの傲慢高飛車わがままお嬢様が・・・。」
「明日は嵐になるかもしれないわ、そ・そうだ!早めにシーツを洗っておかなければ・・。」
「農園にも行って野菜を収穫しておかないと!」
等々・・・・黙っていればあまりにもひどい言われようだ。私は目の前に立つおじいちゃん先生を見上げると、この人も真っ青な顔で私を見下ろすと口の中で小さく呟いている。
「そ、そんな・・・私の診察は完璧だったはず・・なのにどこかで異常が・・?」
・・・あんたもかいっ!!
思わず心の中で突っ込みを入れてしまうのであった―。
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おじいちゃん先生が帰った後、部屋にはメイド長と10人前後のメイドさんたちが神妙な面持ちで立っている。そして私はベッドの上に座っている。
・・・・それにしても・・誰もいないと思っていたけど・・ちゃんとこの屋敷には人がいたんじゃないっ!一体・・・これまでどこに隠れていたんだか・・・。
「あの・・ちょっとよろしいですか・・?」
私がメイド長に声を掛けると、彼女は明らかに肩までびくりとさせて私を見た。
「な、何でしょうか?お嬢様。」
「私・・・どうしてこんな事になったのかなあ?」
するとメイド長は神妙な面持ちで語り始めた。
「ロザリアお嬢様、貴女は婚約者であらせられるジョバンニ様と・・・・セレナ様とご一緒に馬車に乗られている最中に眠られてしまい、そのままこの屋敷に運ばれてきたのでございますよ。」
メイド長はセレナの名前の部分だけ顔をしかめながら言う。
「あ・・そうだったんだ。でも送ってくれたなら後でお礼を言っておかないとね。」
すると・・突然メイド長の雰囲気が変わった。
「い、今・・何と言われたのですか?お礼ですって・・・とんでもないっ!お忘れになったのですか?お嬢様っ!お嬢様が・・毒を飲んだ理由を・・・!」
ひえええっ!こ、怖いっ!今ものすごく目の前のメイド長さんから負のオーラを感じるよっ!
「あの方は・・・お嬢様という婚約者がいながら・・あの特別枠で入学してきた爵位も持たない平民のセレナ様と恋仲になられて・・・!挙句にお嬢様に向かって、お前なんか死ねばいいとおっしゃったのです!!そ、それでロザリアお嬢様は・・・どこから入手したのかは存じませんが、怪しげな毒を手に入れて、それをお飲みになって1週間も寝たきりになったのですよ?!ようやく目を覚まされた時には・・・ううう・・こ、こんなにやつれてしまって・・・。」
そしてメイド長はハンカチを取り出すと目頭を押さえた。
え・・・?ちょっと待って・・・。今でさえ、十分小太り体系なのに。それをこんなにやつれてしまってと言うの?一体・・・このロザリアという少女・・・。
どんだけ太っていたのよ~っ!!
私は心の中で叫んでいた―。




