第1章 13 服毒?
ブリュネットの巻き毛の髪に、二重瞼の青みがかった大きな瞳はなかなかのものだ。
「これで下膨れでも二重顎でもなければ美少女の部類に入るのに・・うん、実に残念だわ。」
ペチペチと頬を叩きながら鏡の中の自分に言う。
「そうだ・・・私がこの身体にいる間にダイエットや運動を頑張れば、痩せられるんじゃないの?よし!決めた。まずは今日からダイエットを始めて健康的にこの身体を痩せさせてみせるわっ!」
そして私はバスルームを出たものの・・・。
「ほんとに・・この屋敷は一体どうなってるの?全く人の気配を感じないじゃない・・。でもその割には掃除が行き届いているみたいだけどね。」
近くに立っている石造の台座を人差し指でつーっとなぞりながら私は言う。
うん、塵一つ無いわ。
「とにかく・・・どこかに人が集まっていないかな・・・。」
ダイヤモンド柄のつるつるした床をぺたぺたと歩きながらとりあえず出口を探して歩き続けると前方に右へ曲がる通路を発見した。
「よし、曲がってみよう!」
さっそく右に曲がってみると、すぐそこは広い踊り場になっていて、まるで劇場のような真っ赤なカーペットが敷かれた階段が下の階へ向けて続いている。しかもよく見れば大きな扉迄見えるではないか。
「おおっ!きっとあれが出口ね。よし、とりあえず降りてみよう。」
階段の手すりにつかまって降りながら私は呟いた。
「それにしても・・・本当に広い屋敷ね・・・。まるで国立博物館みたいだわ・・。
辺りを見渡しながらゆっくり階段を下りていると、突然階下から若い女性が現れた。その服装は黒いワンピースに真っ白いエプロンドレス姿である。
おおっ!本物のメイドだっ!初めて見る!・・・まあ一般庶民・・まして日本人なら本物のメイドなんてお目にかかるのは初めてなのは当然か・・・。
メイドの女性は私を見ると目を見開いた。
「ま・・まあっ!ロザリア様っ!目が覚めたのですかっ?!」
「ええ・・・まあね。」
何と言えば良いか分からなかったので、とりあえず愛想笑いをしてみた。それにしても・・何で目が覚めただけでこんなに驚くのかなあ・・?
「た・大変っ!こうしてはいられないわっ!すぐにメイド長をお呼びしなくちゃ!」
そのメイドは私がまだ階段を降りきる前に、素早く身を翻すと駆け足で左側の廊下を走り去っていく。ちぇっ・・・色々聞きたいことがあったのに・・・。
とりあえず階段を降りきった私は外へ出ようと大扉を押そうとした時、先ほどメイドが消えていった廊下からバタバタと駆け寄ってくる音が聞こえてきた。
「うん・・・?」
するとそこにはグレーの足元すら見えないような長いワンピースを着た60代くらいの女性が数名のメイドを引き連れて駆け寄ってきた。うん・・?その中のメイドの1人はさっきの女性だ。
「ロザリアお嬢様っ!目が覚められたのですねっ?!どちらへ行かれるのですか!」
多分この初老の女性がメイド長なのだろう。
「えっと・・・外の様子を窺いに・・・。」
開けかけた扉を閉めながら私はメイド長を見た。
「なりません!目が覚めたばかりなのですよっ?!ロザリアお嬢様はまた昏睡状態に陥ってしまったのですよ?今回は3時間で目が覚めたから良かったものの・・・・。うっうっうっ・・・前回は・・・1週間も・・・目が覚めずに・・。てっきりまた毒を飲まれたのかと思いましたっ!」
そしてメイド長はポケットからハンカチを取り出すと目頭を押さえた。え・・・・?ロザリアって・・1週間も目が覚めなかったの・・?と言うか・・・毒・・毒・・。
えええっ?!
ロザリアって・・・ひょっとして・・・自殺未遂をしたの・・・?
私は・・・どうやら大変な人物に憑依してしまったようだ―。




