導入編
産まれてから僕の世界は、豪華なベッドや家具が置かれたこの広い部屋だけ。
外に出ることが出来ない僕は、部屋の窓から見える城下町を眺める事が唯一の楽しみだった。
「マナ、おはよう」
フワフワとした微睡みに浸っていると、声が聞こえてきた。
ゆっくりと瞼を上げると、金の髪と青い瞳で誰もが振り向く美貌を持った青年が笑顔で僕を覗いていた。
「ん、おはようリューにぃ」
彼は僕の兄。リュークハント・フォン・ハインツ
ハインツ家の当主だ。まだ若いが、亡き父の後を継ぎ持ち前の知能と人脈でこの領地を守っている。
「ふふ、マナはお寝坊さんだね。」
リューにぃの後ろから爽やかな声が僕の名前を呼ぶ。
「クリスにぃ」
彼も僕の兄、次男のクリス・フォン・ハインツ
金の髪を結って左肩に垂らしている、メガネを掛けたイケメンさんだ。
「んーぅ、マナ、おきた、?」
いつの間にか僕の隣で寝ているのは、僕の弟のリアム・フォン・ハインツ
兄たちと同じ髪と瞳の色を持った美少年。口数が少なくて魔法オタクだ。
僕より年下なのに、僕より成長が早い。いや、どっちかって言うと僕が遅すぎるのだ、リアムは一般的だ。
僕には兄たちのような金の髪ではなく、銀の髪だった。僕は俗に言う先祖返りで、産まれてから髪に魔力が宿っていた。
そのせいなのか、人より髪の伸びる速さが違った。今ではもう床に擦りそうな程伸びている。1度兄たちに、重たいから切りたいと相談したことがある。でも、兄たちは、髪を切ってしまうと宿っている魔力が無くなって体に何か悪影響が出るかもしれないからダメだと言われてしまった。
それにこの髪はとても貴重らしい。だから、僕は心配性な兄たちが作ったこの部屋から出られないのだ。
僕の成長が遅いのもこの髪が関係している。
原理はまだ研究中だと兄たちから聞いた。
リアムは今16歳で170cmあるのに対して、僕は18歳で140cmしかない。兄たちも、リューにぃは185cm、クリスにぃは180cmと高身長だ。羨ましい。
それに僕は身体も良くなくて、すぐに疲れて倒れてしまったり、酷い時は血を吐いてしまう。
ほんとに不便だ。いい事と言えば、魔力を扱うのが上手く、魔力容量が多いことぐらいだ。でも僕は、魔法を使うのは遊ぶ時や、兄たちと弟と勉強するときくらいだ。
はぁ、悲しくなってきた。早く朝ごはんを食べよう。
「さ、マナ。こっちにおいで。」
パジャマのままリューにぃの方に向かう。
リューにぃが僕を膝の上に乗せる。いつもの定位置だ。朝はリューにぃ、昼はクリスにぃ、夜はリアムと膝に座る順番を決めているらしい。
朝食を済ませた後は、リューにぃはお仕事に、クリスにぃはそれの補佐に、リアムは学校に行く。
僕はまたベッドの上だ。また、静かな時間が来る。いつものように本を読んだり、勉強したり、城下町を眺めて過ごす。