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ドワーフの行方を聞こう!

 母が生まれた時、偶然にも当時のカイエル領の領都に鍛冶修行の旅の途中で立ち寄ったというドワーフが居た。

 その名はギルガス。


 彼は数年領内に住み、様々な鍛冶仕事を請け負った。

 その仕事の内の一つが例の懐中時計だった。


 結局彼はその懐中時計をカイエル伯爵に手渡した後、領都を出て行ったと聞いていたが、どうやら戻ってきていたらしい。


「それでギルガスさんは今どこに?」

「戦いの後、しばらくは領内でカイエル伯爵夫人を支えながら復興の陣頭指揮を執っていたらしいんですけど、夫人が亡くなって以降姿を消したそうで」

「ドワーフの里に帰ったということですかな?」

「とにかく何も言わずに伯爵夫人の葬式が終わったら居なくなっていたという話でした。書き置きも無く、誰にも何も言わずにいなくなったと」


 それは残念だ。

 もし彼がまだ居るのなら是非この島に来て欲しかった。


 僕はクラフトスキルで色々なものを作ることは出来るけれど、ドワーフが作るものに比べればどうしても格が落ちるのは自覚している。

 今でもスキルを使いこなす練習は続けているが、僕が造れるものは僕が理解出来たものだけで、ドワーフのような職人技にはまだ到達できていない。

 なんといっても実際にドワーフが造ったものを僕は懐中時計以外に目にしたことが無いのだから仕方が無い。


「それじゃあエル。もし今後どこかでギルガスさんの行方を知ることが出来たら、真っ先に僕に連絡してくれるかい? そしてもし直接会えたら島へ来てくれないかと伝えて欲しいんだ」

「かまいませんけど、ドワーフは気難しいことで有名ですからね。それに彼らがドワーフの国以外の所で定住したという話も聞いたことがありませんよ」

「別に領民になってくれって言ってるわけじゃ無い。母の形見を作ってくれた人物に僕が会いたいだけなんだ。本来なら僕の方が出向かなきゃいけないんだろうけど、今はまだこの島を離れるわけには行かないからね」


 僕はこれからやってくる領民のために、なるべく急いで生活基盤になる町を作っていかねばならない。

 今の拠点は調査団が切り開いた場所をそのまま使っているだけなので、広さとしては100メル四方も無い。

 これでは住民が数人増えただけで家を建てる場所が無くなってしまう。

 それにこの物流の便が最悪な環境の島では、定期的に食料が輸入出来るとも思えない。

 暫く海が荒れるような日々が続けば途端に干上がってしまうような土地に誰が住みたがるだろう。

 必要なのは居住区と食料を作ることが出来る畑だ。

 他にも何れは学校や公共施設も必要となってくるだろう。

 そしてそれを機能させるための人材も必要だ。

 学校の教師に関しては既に学生時代に目星を付けた教師を呼ぼうと考えている。

 少し……いや、かなりクセはあるが、知識と経験は確かだ。

 僕の持っている知識も、彼から学んだものもかなりある。


「それでは早速明日にでも本土に戻ってダイン家当主へ資料を届ける準備をします」

「急がせて悪いな。本当ならしばらくの間この島で休んで欲しかったんだけど」

「元カイエル領を一日も早く救わねばなりませんからな。エルよ、もし資料を届けて数日してもダイン家に動きが無ければ……わかっておるな?」

 キエダの言葉にエルは小さく首肯する。

「とは言えマークス様は利害をきっちりと計算できるお方。まず間違いなく数日もせずにお動きになられるでしょうな」

「僕もそう思うよ。だからエルに父のもとへ先に届けるように言ったんだからね」


 二人の顔に交互に目をやって僕はこれ以上意見が出ないことを確認してから再度口を開く。


「それじゃあ戻ろうか。エルも久々に妹と話をしたいだろうしね」

「あいつは……アグニは何か粗相してなかったですか?」


 エルとアグニは血を分けた兄弟で、昔孤児院に居た頃に夜盗に襲われて殺されかけていたところをキエダに助けられ、彼の手引きによってダイン家に招き入れられたと聞いている。

 それには亡き母の意向もあったらしい。


「……よくやってくれてるよ」

「その間は何ですか」

「いや、本当によくやってくれてるよ。少し問題もあったけど、既にそれは解決してるしね」


 僕はコーカ鳥に襲いかかるように飛びついて逃げ回られていたアグニの姿を思い出しながら答えた。

 そんな彼女も今ではアレクトールのおかげで他のコーカ鳥たちからも恐れられなくなっている。


「なんだか会いに行くのが怖くなってきた……」

「もう問題は解決してるって言っただろ。少しもふもふなものを見て我を失っただけだから」

「もふもふ……あの病気はまだ治ってなかったんですね」

「病気って言ってやるなよ」


 どうやらエルからすると妹の『かわいいもの』に対する執着は病気扱いらしい。

 まぁ、たしかにあそこまでの行動を思い出すと強く否定は出来ないけれども。


 僕は「怒らないでやってくれ」とだけ彼に告げると机の上に広がった書類を纏め始めるのだった。





息抜きに習作を投稿してみました。

お手空きでしたら読んでいただけますと幸いです。


『最強の弟子、師匠になる~穀潰しは必要ないと追放された元貴族、辺境の地で伝説級の師匠たちに鍛えられていたので自由な冒険者家業に転職します。新人冒険者が弱すぎるので鍛えていたら最強パーティになりました~』

https://ncode.syosetu.com/n8860he/

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