ほらね
手紙の内容は簡単に言えばカイエル領の復興をヴァオク伯爵家が行えるように手配すると言うことと、ダイン家からも復興資金を出させる旨が書かれていた。
そして便宜を図る代わりにダイン家の跡継ぎを決定する際には、レリーザの息子であるバーグスに助力する事を言外に臭わせてまでも。
文章上ではいかにもヴァオク伯爵がカイエル伯爵の救援が間に合わなかったことを悔いて申し出たのを受けてのことのように書かれてはいたが、それが欺瞞で有ることは、裏帳簿や偽造された報告書を見れば間違いない。
レリーザからすれば憎き第一夫人の実家であるカイエル伯爵家を利用することに心を痛めることは無かったに違いない。
「これだけの物証が揃った以上、もう言い逃れは出来ないでしょう。ですが、もう一つくらいは決定的な証拠が欲しい所ですな」
「そう思って俺はここに来る前に先に王都へ証拠固めに行ったんですよ師匠」
「さすがエル。頭が回るね。それで証拠は見つかったのかい?」
そう僕が尋ねると、エルはにやりと口元に笑みを浮かべ答えた。
「レリーザが今回の件に関わっていたことについては彼女の子飼い……つまり先ほど捕まえたあの男のアジトで見つけました。どうやらヴァオク伯爵との連絡もその組織が請け負っていたようで、尻尾ギリされた時のためにでしょうね、そのやり取りの一部をヴァオク伯爵と同じように隠し持っていました」
想像でしか無いが、レリーザは今までも自分が手足のように使っていた組織や人を簡単に切り捨ててきたのだろう。
だから彼女に関わった者は自らの保身を常に考えないといけないと考えるようになったに違いない。
「先ほどの手紙と書簡、そして帳簿に組織で見つけた書類があれば確実にあの女の罪は暴かれるでしょう」
「証拠品を見る限りバーグスや父が直接関わっていないのは間違いなさそうなのは救いだよ」
「ではこの証拠書類はいかがしましょう」
キエダに問われた僕は僅かばかり思考した後、考えを二人に告げた。
「父が関与していないのであれば、まずは証拠を全て父上に送ってみようと思う」
「よろしいので?」
「もみ消されたりしないでしょうか?」
心配そうな二人に僕は僅かに肩をすくめて口を開く。
「もしこのことが公になって騒ぎが広がれば、レリーザだけで無くダイン家にもかなりのダメージになってしまうだろう。それに表だってしまえば結果的に解決までかなり時間が掛かってしまう可能性もある」
僕は帳簿を指先で突きながら続けた。
「そうなってしまえば元カイエル領の復興は先送りされてしまう可能性が高い。僕としてはそれは避けたいんだ」
「ふむ。となるとお父上――マークス様に全てお任せするというわけですかな」
「あの人は生粋の貴族だからね。家を守る為には切り捨てる時は切り捨てる判断が出来る人だよ……おかげで僕も切り捨てて貰えたわけだけど」
もちろん父がレリーザを守る為に証拠を握りつぶす可能性が皆無では無い。
だけど僕がダイン家を出る前から継母と父の関係は夫婦というものでは既に呼べないような状態だった。
なので父がレリーザを私情で庇う可能性は低いと思っている。
だが第二夫人として政略結婚で嫁いだ彼女にとって、自らの息子をダイン家の跡継ぎにする。
それだけが彼女にとって唯一の心のよりどころだったのだろう。
僕の母にはキエダを始めテリーヌのように何人も信頼できる人々がいた。
しかしレリーザには僕の知る限り利害関係を抜きにして付き合える『友』は一人もいなかったのだ。
そんな彼女にとって唯一血の繋がりを持つバーグスがいかに大切な存在だったのかは想像に難くない。
だからといって彼女がしたことは許されることでは無いけれど。
「エル。この証拠は僕がスキルで複製するから、それを父の部屋に届けてくれるかい?」
「はい、わかりました――って、複製出来るんですか?」
「出来るよ」
僕は軽く答えると、机の上に積み上げられた書類を左によせてからそれに向けて左手をかざし、反対の手を何も置かれてない場所に向け「複製作成」と呟く。
すると――
「ほらね」
机の右側の何も無かった空間に、左側へ山積みになった書類と全く同じものが現れたのである。
「えええっ。レスト様、こんなことが出来るって俺聞いてませんよ」
「言わなかったからね。でも実はいつも使ってたんだよ」
「いつもですか? でも見た記憶は……」
エルが首を傾げながら必死に思い出そうとする。
「やっぱりこのスキルは見たの初めてですよ」
「初めてじゃないよ。だってほら僕がいつも一杯ものを作る時にやってるじゃないか」
僕は応接室の床に拳大の真四角の石をクラフトする。
そして続けて幾つも同じ石をクラフトして、小さな四角い小屋を作り上げて見せた。
「どうだい?」
「どうだいって。これはいつもレスト様が壁とか建物を作る時と一緒じゃないです……か」
どうやら僕が言いたいことにやっと気が付いたのか、レストは小さな小屋から僕の方へ顔を向けると答えを口にした。
「もしかして最初の石以外は全部その石の複製ってことですか?」
「そういうことさ。やっと気が付いたようだな」
僕がギフトであるクラフトスキルの派生スキル『複製作成』は目の前にあるものの構造と素材さえわかっていれば、全く同じものを複製できるスキルである。
その力は今エルに見せたように石積みの建物をクラフトする時に特に有用だ。
例えば星見の塔を作るために最初に大量の加工した石材を作ったわけだが、あれも一つ一つクラフトした訳では無く、最初の一個以外は全て複製したものである。
おかげで全て全く同じ形、大きさ、重さの石材が出来上がり、あれほどの高い塔を組み上げてもぶれることも無かったわけだ。
もちろんそのための素材は必要になるし、何でもかんでも複製出来るわけでもない。
今回の場合は書類の複製を学生時代に経験していたのが大きい。
どんな書類を何のために複製したのかは言えないが、確実にキエダにお説教を喰らうこととだけ言っておく。
「というわけでこの複製を父のもとへ届けるのはエルに任せるよ」
「わかりました。それでは明日にでも向かうことにします。元カイエル領に残っている人たちの為にも急がないといけませんしね……あ、そういえば」
僕が机の上の複製した書類をキエダと共にクラフトで造り出した鞄に詰め込んでいると、エルが何かを思い出したのか声を上げた。
「元カイエル領の領都で聞き込みをしてる時に聞いたのですが、どうやら魔獣暴走の時にカイエル伯爵と共に戦った者の中に生き残りがいたらしいんです」
「生き残り?」
「はい。それがどうやらドワーフ族で、カイエル領軍の装備も全てその人物が作ったものだったらしく。極少数だったカイエル領軍が領都をなんとか守るまで戦えたのも、そのおかげだとか」
「ドワーフだって! そのドワーフの名前は!?」
僕はその話を聞いて大声でエルにそう問いかけた。
「ええ、もちろん。ギルガスという名前だそうです」
「ギルガス……。キエダ、例の彼のことだと思うんだけど」
「同姓同名の別人でも無ければ当人で間違いないでしょうな。しかしカイエル領に戻っていたとは初耳ですぞ」
ギルガス。
それは僕が母からもらった形見の懐中時計を作ったドワーフの名前と同じ名前だったのである。




