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ヴァオク伯爵の悪事と黒幕を暴こう!

 ドサッと机の上に置かれた紙束は、全てエルが書き写したものだ。

 

「危険じゃ無かったかい?」

「全く警戒してなかったようで、簡単に証拠を集めることが出来ましたよ。王都近くのいつも政争ばかりしてる貴族とは意識がまるで違う」


 エルは「それに俺の写実記憶(フォトメモリー)スキルなら、一度見てしまえば書き写すのは後ででもできますからね」と笑う。


 彼がギフトを授かったのは例の事件の時で、ギフトの名は記憶(メモリー)という。

 僕のクラフトギフトがクラフトと素材化という2つのスキルに派生したように、彼のギフトもいくつかのスキルを生み出している。

 そのうちの一つが、見たものを一瞬で記憶する写実記憶(フォトメモリー)スキルである。


「では拝見させてもらいますぞ」

「何が書かれているんだろうな。少し怖いけど確かめないことには前に進めないな」


 僕とキエダはそれを受け取り中身に目を通し始めた。

 そこに書かれていたのは――


「これは酷いですな」

「ああ。ほとんどの資金が復興に使われていないどころかヴァオク伯爵の政治資金に流用されている」


 王国には元老院というものがある。

 基本的にエンハンスド王国の政治決定権は、国王であるエンハンスド四世が持っている。

 だが、その国王の判断を左右するほどの力を持っているのが、ダイン家を含む四大諸侯と呼ばれる貴族家である。


 建国時に初代国王と共に国を興した四大諸侯の力は強く、時には王すらも彼らの意見を聞かねばならないほどであった。

 そしてその四大諸侯と同じ位に力を持っているのが件の元老院だ。


 元々王国には無かった元老院という制度が出来た背景には、四大諸侯のみに力が集中しすぎていて、他の貴族たちに不満が溜まっていたという背景がある。

 その不満に対処すべく四大諸侯以外の貴族の意見をまとめ上げる場として作られた元老院は、時を経て力を持つようになっていった。

 なんせ四大諸侯と王以外の全ての貴族の代表なのだから当然の流れであろう。


「つまりヴァオク伯爵の息子が元老に選ばれたのは」

「復興資金を使って色々手を回したおかげでしょうな」


 元老院が貴族の代表といっても、その意見を議論し纏める元老院議員に選ばれるのはわずか十人。

 そのうち上位の五家は元老院が作られてから不動で、残り五議席を他の貴族が奪い合う状況が続いていた。


「絶対的な権力は絶対に腐敗する……か」


 ヴァオクが懐に入れた復興資金は現金として以外にも様々な形で上位五家に貢がれていた。

 五家に祝い事があれば豪華な品を贈り、祝い事が無くても理由を付けて送っている。


 一方、ダイン家や国に対する復興資金の使い道や復興状況の報告書には虚偽の報告ばかりが並んでいて、エルが実際見てきた現状と大きくかけ離れている。

 それでもその虚偽がバレていないのは、元カイエル領が王国から遠く離れた辺境地であることと、元々王国にとって大して重要な地ではないせいだろう。


「視察の役人はヴァオク領で接待、そのまま足止めをして賄賂を渡し、偽の報告書を書かせて元カイエル領には足を踏み入れさせてないようですな」

「酷いな。これじゃあカイエル領に住んでいた領民たちは……」

「魔獣暴走のせいで領内の村や町には壊滅的な被害が出た上に、畑も何もかも全て荒らされてしまいましたからね。生き残った人たちは親類縁者を頼って領を出て行く人がほとんどで、頼る先の無い領民は一番損害の少なかった領都に移り住んで、今も大変な状況の中暮らしています」


 領都は元々強固な壁で守られていたことと、カイエル伯爵が命を賭して戦ったおかげで被害が抑えられたおかげだろう。

 しかし領都だけが残っていたとしても壊滅した領地はすぐには元に戻るはずも無い。


「今、領都に残っている人たちはほとんどが前領主様であるカイエル伯爵に恩義を感じている者たちでした。そういう所もヴァオク伯爵が元カイエル領の復興に前向きでない理由の一つかもしれませんね」

「そんなにヴァオク伯爵は嫌われているのかい?」

「蛇蝎のごとく嫌われてますね。なんせヴァオク伯爵はカイエル伯爵からの救援要請を無視したと思われてますから」

「実際の所はどうなんだ?」

「俺の調べた限りではその話は真実でした。ただ事後報告書によると、カイエル領の魔獣暴走の余波でヴァオク領でも小規模の魔獣暴走が起きたため、その対処に追われていて援軍が遅れてしまった……そういうことになっています」


 だがエルが調べたところ、実際にはヴァオク領で魔獣暴走が起こった様子は一切無かった。

 つまり意図的にヴァオク伯爵はカイエル領を見捨てたのだ。


「どうしてそんなことを……」

「簡単なことですよ。カイエル領が壊滅した後、復興に関する利権の全てが自分に入ってくることをヴァオク伯爵が知っていたからです」

「知っていた?」

「ええ。それどころか魔獣暴走が起こることも……いえ、正確には暴走を引き起こさせたのもヴァオク伯爵でした」


 エルのその言葉に僕もキエダも一瞬言葉が詰まる。

 彼の言うことが確かであるなら、カイエル伯爵領はヴァオク伯爵によって潰され、さらにその復興資金も全て奪われたということになる。


「確かなのか?」

「はい。それについては厳重に証拠が消されていたのですが、唯一伯爵の隠し金庫の中に手紙が一つ残されていました」


 そう言ってエルは懐から一通の封筒を取り出した。


「この手紙は写しでは無く原本です。もちろん代わりにその場で用意した複製を置いてきましたけどね」


 僕はエルから手紙を受け取るとキエダと二人で目を通し、絶句した。


「あの人はここまでするのか……」

「その手紙自体も本当なら処分されてなければならなかったものでしょう。ですがヴァオク伯爵は自分が裏切られた時の切り札として保管することにしたのでしょうね」


 その手紙の差出人を見て僕は大体のからくりがわかってしまった。


 なぜならその人はダイン家の現夫人にして僕の代わりに跡継ぎとなったバーグスの母親で。

 自分の子をダイン家の跡継ぎにするためにあの手この手で僕を嵌めようとしてきた上に、僕が自主追放された後も後顧の憂いを断つべく刺客を何度も送り込んできた継母。


 そう、あのレリーナ=ダインだったからである。



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