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母のふるさと

 捉えた刺客たちは、とりあえず全員武装解除して、拠点の隅に作った牢に一人ずつ収監した。

 ファルシやコーカ鳥ですら脱出出来なかった例の檻である。

 いくら訓練を受けた者でも抜け出すことは出来ないはずだ。

 ちなみに全員自害する心配は無いとエルからは聞いている。

 それどころかエルに対して服従の姿勢を取っているらしい。


「洗脳ですよ。彼女たちは人買いか孤児院辺りから掠われてきて暗殺者に仕上げられたんです。その課程で組織のトップには絶対服従という洗脳をされるんですよ」


 エルは眉間に皺を寄せて、汚物を見るような目で捕らえた首領の男を見下ろしながら吐き捨てるように言った。

 男は意識を失ったまま、今は檻の床に転がっている。


 尋問は肩すかしなくらいに簡単に終わった。

 僕の暗殺に失敗し、組織の構成員も資金も失った男は既に守るものも無い。

 おかげで聞いたことも聞いてないこともペラペラと喋ってくれた。


「それで全員東大陸に逃がせば良いんですね?」

「ああ。もう彼らには僕を狙う理由はないからな」


 必要な情報の代わりに彼らの逃亡の手助けをする約束をした。

 約束は守らなければならない。


「他の子は洗脳さえ解ければ大丈夫でしょうけど、こいつはもしかすると逆恨みで襲ってくるかも知れませんよ?」

「その時は返り討ちにすればいい」

「気軽に言いますね」

「皆を信頼してるからな。それにこいつにそんな勇気は無いだろ」


 意識を失ったその顔は青ざめ、頬には涙の跡がくっきりと付いている。

 そんな男の顔を見て僕は言う。


「まぁ、本気の師匠に脅されてもまだ心が折れないヤツは滅多にいないでしょうから、その心配は杞憂ですかね」


 エルの言う師匠というのはキエダのことだ。

 彼はキエダに命を助けられた頃はまだ十歳程度の子供で、生きていくための知識も何も足りなかった。

 そこでキエダは密かに彼が入所した孤児院に通って、彼を冒険者として独り立ちできるようにと鍛えたという。


「そんなに怖いのか? 僕は立ち会ってないから知らないけど」

「……ええ、まぁ」


 エルは何かを思い出したのか少し顔を青ざめさせた。

 どうやらエルの言っていることは本当らしい。

 普段は飄々としているキエダだが、元々はかなり名のある冒険者だったらしいと聞く。

 冒険者というのは常に命の危険と隣り合わせの世界だ。

 その世界を生き抜いてきた彼の『本気』というのは一度見てみたい気もするが……。


「さてと、エル。そろそろ領主館に戻って頼んでいた調査の結果を聞かせてくれるかい?」


 僕は牢屋に背を向けると目の前の壁に空いた穴をくぐり抜ける。

 そしてエルが外に出るのを確認してからその穴をクラフトでふさいだのだった。



     ◇◇◇◇



「それじゃあ聞かせてくれるかい」


 領主館の執務室にエルと僕、そしてキエダの三人が揃うと僕はエルを促す。


「元カイエル領ですが、かなり酷い状況でした」


 僕が自分の領地に『カイエル領』と付けたのには理由があった。

 それは母の実家であるカイエル伯爵家が治めていたカイエル領が、今は既に無くなってしまっていたからである。

 僕は失われた『カイエル』の名を復活させたいという思いからこの地を新しいカイエル領としたわけだ。


 カイエル領は元々は辺境の貧しい領地だったが、母がダイン家に嫁ぐとダイン家からの資金援助もあって、ある程度余裕を持った領地経営が出来るようになっていたと聞いている。


 しかし母が亡くなる一年ほど前、悲劇は起こった。

 魔獣暴走である。


 魔獣暴走とは、ある日突然大量の魔獣が住処である森や山など魔素の濃い土地からあふれ出し、人々の住む地に襲いかかるという災害のことである。

 原因は色々考えられているが、有力なのは住処の魔獣が増えすぎて魔素が薄くなり、餌である魔素を求め魔獣が大移動をするというものだ。


 なので魔獣が住む地帯を領内に持つ貴族は常にその地帯の魔獣の調査を怠らない。

 そして数が増える兆候を見つけた場合は国に『間引き』のための軍隊や冒険者の派遣を願い出ることで暴走は抑えられてきた。


 なので僕の知る限り王国内での魔獣暴走はここ十数年で一度。

 カイエル領で起こったものだけのはずである。


 魔獣暴走が起こった時、カイエル領には僅かの兵しか居なかった。

 これはカイエル領が貧しかったからというより、立地的に他国から侵略を受けるような場所でも無く、国としてもそれほど多くの兵士を置いておく理由が無かったからでしかない。

 だがそれが裏目に出てしまった。


 カイエル領からの緊急連絡を受け、周辺の領主がカイエル領に救援に向かった時。

 そこに広がっていたのは多数の魔獣に踏み荒らされた地と、領民を守る為に最後まで戦い抜いたのだろう領主とその息子、そして彼らが率いた兵士たちの骸だった。


 幸い領都など城壁に囲われていた数カ所の町は全滅しては居なかったが傷跡は大きく、援軍が生き残りの魔獣を討伐して町に着いた時には喜びの声すら上げられない状態だったという。


 魔獣暴走の結果、カイエル領領主であるカイエル伯と跡継ぎであるその子息を失った祖母は、失意と心労のあまり数ヶ月後に後を追うように亡くなり、カイエル家の血を引く者は母一人となる。

 しかし既にダイン家に嫁いでいた母も、その子である僕もカイエル家の後を継ぐことは出来なかった。


 結果、カイエル伯爵領は消滅し、その後は隣接領のヴァオク伯爵が代わりに兼任領主を務めることになったはずなのだが。

 どうやらヴァオク伯爵は壊滅したカイエル領の復興には乗り気ではなかったらしい。


「カイエル領の復興には国からもダイン家からも資金が出ていたはずなのに」

「どうやらその資金のほとんどがヴァオク伯爵のものになっているようです。その証拠がこの裏帳簿と王国への書簡の写しです」


 エルが取り出したのは一束の帳簿と手紙の写しだった。


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