協力者
展望室の中に倒れている刺客たちを、ファルシが口でその服を咥えてフェイルのもとまで引きずってくる。
その姿を横目に僕は刺客の一人の横にしゃがみ込んで、用意してあったバッグから何か液体の入ったビンと縄を取り出しているフェイルに話しかけた。
「殺してないよね?」
「大丈夫ですぅ。全員気絶させただけですよぉ」
フェイルは笑顔で答えると、手際よく刺客の手を縛っていく。
その縛り方はボクが今まで見たことが無い特殊なもので、後でキエダから聞いた所に寄ると縄抜けが得意な者でも容易に抜け出すのは困難な縛り方らしい。
次にフェイルは倒れている刺客がかぶっていたフードを取り払う。
フードの下から出てきたのは少女の顔だった。
歳はアグニと同じくらいだろうその少女は悪く言えば平凡な顔で、普通の格好をして町を歩いていたら誰も彼女を刺客とは思わないだろう。
なるほど、これなら色々な場所でも自然に溶け込むのも容易いだろう。
ただ、この島には溶け込むほど人が居ないので無意味ではあるのだが。
「さっさと起きて下さいですぅ」
フェイルは取り出したビンに入った液体でハンカチを湿らすと少女の口に押し当てた。
「げふっ」
少女は大きく咳き込むとその目をゆっくりと開け慌てたように辺りを見回す。
そして自分を見下ろすフェイルの顔を見て、自分が今置かれている状況に気が付く。
「私は……失敗したのか……」
「貴女は他の三人に比べてなかなか動きは悪くなかったですよぉ」
がっくりと肩を落とした少女にフェイルはそう声を掛けてからファルシが引きずってきた他の刺客たちを順番に縛ってから目覚めさせて行く。
そうして四人の刺客全員を目覚めさせると縄尻をつなぎ合わせる。
「終わったですよぉ」
フェイルは鞄の中に荷物をしまい込んでから階段の方へ振り向いてからそう言うと――
「さすが、手際がいいなフェイル」
階段の下から男の声が聞こえ、ゆっくりと姿を現わす。
見かけは普通の青年に見えるが、僕は彼が普通では無いことを知っている。
「エル、久しぶりだね」
「レスト様、ただいま戻りました」
彼の名前はエル。
僕のもう一人の協力者であり、僕の専属諜報員だ。
貴族の社会は一見華やかそうに見えるが、実際には誰もが足を引っ張りあって、隙あらば相手を蹴落とそうとする世界だ。
なので僕にも信頼できる諜報員が必要だとキエダが紹介してくれたのが彼であった。
彼はキエダに昔命を救われたことがあり、その縁もあってキエダから様々な技術を教わり腕を磨いた。
最初はキエダと同じく冒険者として大陸中を回っていたらしいのだけど、とある事情でエルは王都に戻ってきて僕の元にやってくることになった。
その彼がこの島にやって来たと言うことは、僕が頼んでおいた調査が終わったと言うことなのだろう。
「報告は後でゆっくりさせて頂くとして……フェイル」
だがその調査の結果を聞くのは後になりそうだ。
エルは僕からフェイルに視線を移すと、手にしていた何かを彼女の足下に放り投げる。
それは先ほどフェイルが刺客から剥ぎ取ったフードと同じもので。
「もしかして居なかった一人はエル兄が先にやっちゃってたですか?」
「先に……じゃないな。お前が油断したせいだぞ。俺がちょうどこの島に着いてなければ逃がしていた所だ」
「あちゃー。やっぱり一人足りないと思ったら逃げてたですかぁ。昼間周りを調べた時は確かに五人分の跡があったのに四人しか居ないからおっかしーなーっておもってたんですよぉ」
エルは大げさな身振りで応えるフェイルに「お前は強いが、詰めが甘いのが問題だな」と言ってから、もう一度僕に視線を戻す。
「というわけでレスト様。こいつが逃がした男ですが……俺にレスト様の暗殺を依頼した男でした」
「どういうことだ?」
「言葉通りの意味ですよ。俺が例の調査から王都に戻ってすぐにそいつから『依頼』が来たんです」
エルは肩をすくめ、僅かに笑い声を漏らしてから話を続ける。
「まさかレリーザの依頼が俺に来るなんて思わなくて、一瞬罠かと疑いましたよ」
「裏の世界で依頼成功率100%の刺客って流言に騙される人が多すぎですぅ」
継母レリーザの手足として働いていた組織の首領。
その男が藁をもすがる思いで高額の依頼料を支払ってまで雇った男。
それが『依頼成功率100%の刺客』と裏社会で名を馳せていたエルだったのだ。
「騙してなんかいないだろ。実際に俺は『受けた依頼は100%成功させている』からな。『受けた依頼』だけはな」
「エル兄は面倒くさそうな依頼とか、気に入らない依頼は全部断ってるだけですぅ」
フェイルの言葉に「こっちにも選ぶ権利はあるからな。勝手に勘違いしてる奴らが悪い」と悪びれもせずに返すエル。
「でも今回は依頼失敗扱いになるんじゃないか?」
「それなら大丈夫ですよ。俺に依頼しておきながら勝手に先にあいつが動いた時点で依頼は白紙ですからね」
エルはそう言ってフェイルの足下に投げ捨てたフードを指さしたのだった。




