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聖獣の角と小袋の正体

「わっ、色が変わった」


 コリトコの言う通り、手の中で聖獣様の角の色が薄ピンクから赤く変わる。

 僕はその色を見て内心ホッとした。


「この角に魔力を流すと、先を向けられた人の心がわかるんだよ」

「ええっ。それじゃああっちが今考えてることが領主様にわかっちゃったの!?」


 自分の心の内が読まれたと勘違いしたのだろう。

 コリトコがベッドの上であたふたと挙動不審になった。


「ごめんごめん、ちょっと言い方を間違った。」


 僕はそんなコリトコに笑いかけると説明の続きを口にする。


「正確には『心の色』がわかるんだよ。例えばコリトコが僕に対して悪意を持っていたとしたら、この角は赤じゃなく黒くなったはずなんだ」


 そう。

 この『聖獣ユリコーンの角』には人の心の内が色でわかるという能力がある。

 聖獣様本人と違って人の心を読んだりする力までは無い。

 それでも対象者が悪意を持っているかどうかがわかるだけでも、この島にやってくる人たちを選別するには十分なものだ。


「それじゃああっちは……」

「見ての通り角は赤いだろ? これは僕に対して悪意は持ってないっていう証拠だ」


 だから僕は角の色が赤くなったのを見てホッとした。

 もし赤くならなかったら、まだコリトコは僕を疑っているということになってしまうからだ。


 僕はこの角を加工して、この島にやってくる人たちの中に害意がある者が混じってないかを調べる魔導具を作るつもりだとコリトコに告げる。

 だけどその魔導具でわかるのはあくまでも純粋な悪意だけであることは聖獣様から注意されていた。

 なのでこの島に呼ぶ人たちや取引する商人については自分たちできちんと事前調査が必要なのは変わらない。


「とりあえずこれで誤解は解けたかな?」

「うん。領主様、疑ってごめんなさい」

「気にしなくていい。僕だってテリーヌに注意されてたのを忘れて何も教えずにコリトコに角をみせてしまったわけだからね」


 僕らはお互い謝りあうと、話題はコーカ鳥鶏舎の裏で拾った小袋の話に移っていく。


 屋敷に帰ってきて、テリーヌがエストリアを呼びに来た時に彼女にも確認をしたが、やはりテリーヌのものでもないらしい。

 そしてアグニにも見たことが無いと言われ、後はキエダとフェイルしか該当者がいなくなっていた。


「レスト様、ただいま帰りましたぞ」

「ただいまですぅー」


 その時、ちょうどその二人が上手い具合に医務室へ顔を出す。


「アグニからこちらにいると聞きましてな。コリトコ殿は大丈夫でしたか?」

「うん。あっちはもう大丈夫だよ」


 笑顔で答えるコリトコを見て、キエダはホッとした表情を浮かべる。

 次にその後ろからフェイルがぴょこぴょことコリトコのベッドの横へやってきた。


「コリトコが倒れたって聞いて、あたしすごくびっくりしたですよぉ」

「フェイル姉ちゃん、心配させてごめんなさい」

「謝らなくていいですぅ。その代わり、ぎゅーっとさせてもらうです!」

「わわっ、やめてよ。みんな見てるのに恥ずかしいよ」


 フェイルに突然頭を抱きかかえられて、顔を真っ赤にするコリトコ。

 そんな二人のじゃれ合いはそのままにして、僕はキエダに例の小袋を手渡し尋ねた。


「少し前に鶏舎の裏でコリトコが見つけたんだけど、それってキエダの持ち物かい? テリーヌたちにも聞いたんだけど、誰のものでもないらしいんだ」

「ふむ。ですが私のものでもございませんな」

「じゃあ残るはフェイル――」

「いいえ。これはフェイルのものでもありませんぞ」

「そうなの?」

「はい。フェイルならこんなものは必要ないですからな」

「こんなもの……って、もしかしてキエダはそれが何か知ってるのか?」

「もちろん知っております」


 キエダは手の中の小袋に目を落としながら、その正体を告げた。


「この小袋の中身は通称『気配消し』と呼ばれるものに違いないですぞ」


 キエダの説明によると、『気配消し』はその名から想像出来るように主に隠密行動をする者たちが使う道具であるという。

 主成分はケス草という植物で、それは基本的に北方の寒冷地でしか採取出来ないらしい。


「元々植物が少ない北方で、動物たちに喰われぬよう生き物の認識をぼかす香りを発するように進化したと言われておりますな」

「でも匂いも嗅いでみたけど何の匂いもしなかったよ」

「それこそレスト様の『認識がズラされた結果』でしょう。この世の中に無臭の草など存在しません」

「ということは実際は何かしら匂いを発しているはずなのに、僕にはそれを感じられないようにされたというわけか」

「そういうことですな。生き物全般に効果がある故、隠密行動をする者は常にこのような小袋などに入れて持ち歩くのです」

「そしてその小袋はこの領主館に居る誰のものでも無い……つまり……」

「お察しの通りで間違いないでしょうな」


 誰か。

 僕の知らない者が既にこの島に侵入しているということだ。


「実は私からもレスト様に報告することがございまして」

「報告? そういえば今日は拠点の周辺調査をしていたんだったね」


 どうやらこの場では話しにくいことらしいのがキエダの表情からうかがえる。


「それじゃあ執務室で詳しい話は聞かせてもらうよ」


 僕はキエダにそう告げると、フェイルに後を任せキエダと二人で執務室に向かった。



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